住み込み弟子のとある休日

 少し冷えた空気が鼻をくすぐる。枕に乗せた頭を横へ傾けると、香しい髪が頬に触れた。彼女はすうすうと寝息を立てる。穏やかな寝顔はなんだか少女めいていて、普段の態度からは想像できないほどかわいらしい。起きてると、わがままで自分勝手でやたらと自信家で困った人なんだけど。
 窓の外は、まだ青みがかった朝だ。耳を澄ますと、通りからざわめきも聞こえてくる。もっとも、まだまだ控えめだけど。‥‥いつもなら、ベッドの中でそろそろ起きる覚悟を固める時間だ。横で寝てる彼女ほどじゃないにしても、俺だってゆっくり寝るのが好きだ。起きるのにはそれなりの思い切りがいる。なのに‥‥ゆっくり寝ていたいはずなのに、いつもの時間になれば勝手に目が覚めてしまう。習慣ってのはこわいね。
 でも習慣で目が覚めたとはいえ、まだ起きる気はない。もう少し‥‥と思いつつ、もそもそと体を動かし、ナイアさんと抱き合うような格好になる。ナイアさんは‥‥俺の師匠で、雇い主で、‥‥奥さんだ。‥‥もっとも、まだ夫婦って実感は湧かないし、お互いの態度も結婚前と変わらないから、相変わらず「師弟」「恋人」って感じだけど。
 シーツにくるまりながら、ナイアさんの寝顔を改めて観察する。ただでさえ色気たっぷりの目元に泣きぼくろがさらに色香を添え、すっきりと通った高い鼻が知的な雰囲気を醸し出す。つややかな唇、整ったあご。ほっそりした首筋から下は毛布に隠れて見えないけれど、そこに潜んでいるのはむっちむちの特大おっぱいに、きゅっとくびれた腰、張りのあるお尻。さらに太く長い蛇の体が続いているんだ。そんな美女が腕の中で眠ってる。しみじみと思い返せば、我ながらまるで夢のようだと思う。だって俺はと言えば‥‥元々は遥か大陸西部のサフォルナ出身、宿屋の四男で、口減らし同然に魔導士へ弟子入り。その後出奔してこの街へたどり着き、高名な大魔導士であるナイアさんに師事、そして今に至る。‥‥ほんとに夢じゃないんだろうなあ‥‥?
「‥‥んん‥‥」
 ナイアさんがかすかに声を立てた。その唇に触れたくて‥‥ぐっと抱き寄せる。この程度では起きないはずだから、特に遠慮はしなくてもいい‥‥と思う。というか、この程度で起きてくれるなら毎日そうする。つやつやの形の良い唇は、紅を引いていなくても十分すぎるほど紅くて色っぽい。その唇に、そっと俺の唇を――
「んっふっふ‥‥かかったわねっ」
「うわっ!?」
 唇が触れるその瞬間、いきなり響いた声に飛び上がりそうになる。目の前にあったかわいらしい寝顔はどこへ行ったのか、ナイアさんはいつもの自信家の顔に悪戯っぽさとスケベさをたっぷり乗せてニヤニヤ笑ってる。お‥‥起きてたんですか、というかいつから気付いてたんですか‥‥心臓に悪いったらない。
「なんか抱き寄せる感じがしたからね。これは襲ってくるかな、と期待してたわけなんだけど‥‥どう、当たりでしょ?」
「あ、う‥‥えー‥‥」
 しどろもどろに唸る。というか、唸るほかないんだけど。だってちょっとキスするだけのつもりだったから「はい」と言えば嘘になるし、かといって「いいえ」と言えば「あたしを抱きたくないとか言うつもり?」と言いがかりを付けてくるに決まってる。困った人だ。
「もう、煮え切らないわね。‥‥あんたねー、ここをこんなにしながら言い訳を考えても無駄よ。しっかり勃起させてるくせに‥‥ふふっ」
 そう言いつつ、俺の股間に手を這わせる。根元のほうへ中指の先を当て、他の指で軽く包むようにしながら優しく手を前後させて。
 ううっ‥‥朝の生理現象、という一言でごまかしきれない自分が憎い。ナイアさんが言うように‥‥その‥‥襲っちゃおうかな、という気持ちが全くないとは言い切れなかった。実際、襲ってしまうことがないわけじゃない。い、いやその‥‥月に一、二回‥‥も、もうちょっと多いかな‥‥は、朝から愛し合ってしまうから‥‥。
「ほぉら‥‥もっと硬くなってきた‥‥。こことか‥‥どう?」
 俺が黙っているのを見て、もうナイアさんは完全にその気になったみたいだ。根元の裏側をくりくりと指で刺激したかと思うと、今度はカリ首のところに指を絡ませて‥‥。目には悪戯っぽい笑みを浮かべて、俺の反応を楽しんでる。いつの間にか脚には蛇の下半身が絡みつき、さらに尻尾の先が俺の尻をまさぐる。くあ‥‥すご‥‥い‥‥っ。
「ふふ‥‥すっごくかわいい顔になってるよ‥‥。我慢せずに声、出しなさい」
「くぅっ‥‥きもち、いい‥‥です‥‥っ」
 気持ちいい。よすぎる。ナイアさんの手はそれこそ何かの魔法でも使ってるんじゃないかと思うほど気持ちいい。すべすべできめが細かい手は、それで握られるだけでもたまらないのに、細くて長い指が繊細に動き、絡み付く。丁寧に手入れされた爪も巧く使って、俺の弱いところを嬲ってくる。優しく這い回るように、時には引っ掻くようにして。シーツに隠れて見えないはずの俺の高ぶりを、慣れきった手つきで徹底的にもてあそぶ。あまりの気持ちよさにどうしても呻いてしまう。そして俺が呻くたびに、ナイアさんがくすくすと笑う。その笑いもいやらしくて、俺の体はますます反応を激しくする。
「あはっ、あたしの手がにちゃにちゃしてきたよ‥‥。先走りがたっぷり出てるみたいね‥‥イきそう?」
「ま、まだ‥‥我慢します‥‥っ」
「頑張るじゃない‥‥じゃ、イかせてあげる」
 目の前で囁くナイアさん――その唇がにやりと笑う。しまった、下手に見栄を張ったから‥‥!
 手の動きが速くなる。サオの扱き方が激しくなり、その一方で先走りのぬめりを亀頭になすりつける。ぬるぬるした感触と、這い回る指、そして扱きあげる手のひら‥‥技の限りを尽くした愛撫に俺が屈するまで、二分もかからなかった。

「く、はぁっ、はぁっ‥‥」
「んっふふ。気持ちよかったでしょ? いっぱい出たじゃない‥‥美味しい」
 喘ぐ俺を挑発するように、ナイアさんは指を舐める。どろどろの精液が指から手のひら、手首へとこぼれるのを、舌先を使って舐め上げる。もちろん、視線で俺を誘いながら。二人を覆っていた毛布も跳ね上げ、俺を見下ろしつつ左手はチンポをしごく。な‥‥なんで今朝はこんなに元気なんだよ‥‥。いつもなら‥‥っく、う‥‥昼まで寝たがるくせに‥‥っ。
「いっぱいぶちまけたくせに、まだギンギンなのね‥‥もう一発抜いてあげる。そのあと昼まで一緒に寝ましょ」
「だ、だめですっ。今日の午前中は掃除をするって決めてるんですから!」
「どーでもいいじゃないの、そんなのは。そ・れ・よ・り、あたしと‥‥んふふ‥‥」
 どうでもよくない! 俺の大事な仕事を「そんなの」呼ばわりされてたまるかっ。とはいえ、この手の誘惑から逃れた実績は‥‥恥ずかしながら、ほぼ皆無だ。肉がたっぷり入ったスープのようにぎらつく瞳で見つめられると、どうしても理性が崩れていく。唇が、舌が、いやらしい動きを見せつける。特大おっぱいの上に自己主張する乳首まで、ほとんど触ってないはずなのに卑猥に尖って俺を誘う。
「ちょ‥‥ちょっとだけ、ですよ」
 ――あっさり揺らぐ俺の決意。
「だぁめ。たっぷりお願い‥‥あぁん‥‥っ」

* * *

 ナイアさんの顔や胸元についた液体を拭い、毛布を掛ける。頬に軽いキスをして、俺は部屋を後にした。――あの後、ナイアさんのお望み通り、たっぷり抱いた。おっぱいを揉みまくって、尖りきった乳首を甘噛みして、突きまくって。嫌というほど鳴かせて、とどめに一番奥まで突き込んで子宮を精液で酔わせてあげると、さすがのナイアさんも満足したらしい。かくん、と崩れてそのまま眠ってしまった。
 朝からの征服感に高揚しながらも、征服感とは無縁の作業に取りかかる。まずは朝食、ついで片付け、そして洗濯、掃除だ。店先の掃除なんかは毎日やってるけど、その代わり二人が住んでる部分の掃除はほったらかしだ。そういう生活の汚れを落とすため、休日には必ず掃除の時間を設けてる。階段や部屋の隅とかには綿埃なんかがうっすら溜まってるし、特に一階はどうしても砂埃が溜まる。街の近くに砂漠があるから仕方がないとはいえ‥‥この砂埃だけはどうしても好きになれないな。
 掃除洗濯が終わった頃には、もう午前中も半ば過ぎだ。ここから師匠が起きてくるまでが、一週間のうち数少ない俺の自由時間。とはいえ、師匠を置いてどこかに遊びに行くというわけにもいかないから、結局は家の中にいるんだけど。で、師匠は寝てるから遊んでくれないし、一人で時間を有効に‥‥となると自習しかない。大魔導士ナイア著『魔導学説史』を資料室から引っ張り出すと、この前師匠に講義してもらったところを読み返しつつ時間を潰‥‥じゃなくて、勉強勉強、と。

* *

 ガラァン、ガラァン、ガラァン‥‥
 遠くで鳴る、鐘の音。時計塔だ。市庁舎前の中央広場に立ってる機械仕掛けの時計で、その大きさや装飾の素晴らしさで有名なんだけど‥‥よく故障することでも有名だ。機械のことはよく知らないけど、聞いた話では砂が入り込んで中の部品がすぐ傷むらしい。この街で砂を防ぐのは至難の業だから‥‥故障するのも仕方ないのかな。――って、時計塔の鐘が鳴ったということはもう昼じゃないか。昼飯の用意‥‥っと、その前に師匠を起こさないと。

 寝室に入ると、予想通り師匠は熟睡していた。‥‥ほんとによく寝るなあ。
「師匠ー、お昼です! 起きてください〜」
 と、声を掛けるだけで起きてくれるとは俺も思ってない。毛布の上からゆっさゆっさと揺さぶりながら声を掛ける。ちなみにここでむりやりベッドから引き起こしても無駄だ。そういうことをしても、俺に寄りかかったまま寝続けるだけ。なんとか目を覚ましてもらって、自発的に起きてもらわないことには何ともならない。
「むー‥‥」
「おーひーるーでーすー」
「うーん‥‥あとで‥‥ぐう」
「だー! 今起きてください!!」
 俺もいろいろ頑張ってる。耳を引っぱってみたり、尻尾をつまんでみたり、首筋をくすぐってみたり‥‥どれをやっても効かないんですが。やっぱり朝からはしゃぎすぎたのがまずかったのか。‥‥そういえば、朝は顔を近づけたときにはもう気付かれてたんだよな‥‥。普通なら熟睡してるはずなんだけど、何かの拍子で眠りが浅くなってたんだろう。今はほら、こうやって顔を近づけてみても‥‥うん、バレてないバレてない‥‥って、何をやってるんだ俺は。いや、でも‥‥せっかくだし。
 ちゅっ。
 ‥‥起きない。予想はしたとはいえ、ちょっと心外だ。こうなったら起きるまで悪戯してやる。
 むにっ。
 ああ、おっぱいおっきいなあ‥‥。初めて会ったときには本当にどぎまぎしたのを覚えてる。視線がどうしても吸い寄せられてしまって、顔を見て話すのが一苦労だった。しかも師匠はそれを面白がっていたようで、やたらと腕を組んだり前屈みになったりしていた気がする。その時はからかわれてると気付かなかったけど。
 むにむに。もみもみもみ。
 手に力を入れると指がめり込み、張りのある弾力が返ってくる。これだけ大きいのに、仰向けに寝転がっていても十分な高さがあるっていうのがまたすごい。立っても垂れないし、問屋のファイグが「至高の乳」と言うのも頷ける。‥‥あいつもどこを見てるんだか。
 ‥‥って、起きてよ師匠。揉みまくってるんだから。起きてるときにこれだけ揉んだら、もう目がとろんとなって喘ぎはじめても不思議じゃないのに‥‥寝息が乱れもしないのはすごく心外だ。それでもしつこくおっぱいを楽しんでいると、遂に師匠の口から声がっ。
「うう‥‥ん‥‥」
「おはようございます師匠! お昼ですよっ!」
 大きな声で元気よく挨拶。師匠はひととおりむぐむぐ言ってからどうにか頭を起こし、
「んー‥‥おはよ‥‥あふ‥‥」
 まだ半分寝てるな‥‥。ぐしぐしと目を擦り、薄目を開き‥‥
「‥‥もしかして、襲った?」
 ぎくっ。
「い、いやそのそれはっ! その、あの、あんまり起きてくれないんで、ちょっとキスしたりとか‥‥」
「夢の中であんたにおっぱい揉みまくられた気がするんだけど‥‥」
「あわわっ‥‥ちょ、ちょっとだけですって!」
「――揉んでたのね」
 うわぁあっ、はめられたっ。
「ちょっとだけです、ほんのちょっと! 触ったら起きてくれるかと思っ‥‥」
「うるさいな‥‥」
 機嫌悪そうにそう言い捨て――俺に抱きついてくる。そしてそのまま肩を掴んで押し倒し、のしかかってキス。ベッドの上に押さえ込まれ、たっぷりと口づけを強制されてしまう。
「そんなことであたしは怒ったりしないわよ‥‥。どっちかというと、あたしを襲おうとしてたくせにごまかす、ってのが気に入らないわ」
 怒ってるのか眠いのか、よくわからない目つき。たぶん両方だ。どちらにしても、あまり良い目つきじゃない。美人だから睨むとかなり迫力があるんだけど、今は眠そうだし、そこまで怖くはないとはいえ‥‥。
「あんたもさあ‥‥そこまでヤるなら、寝てるあたしのおっぱいでチンポ挟んで精液ぶちまけるとか、勝手に抱くとか、それくらいやりなさいよね。中途半端に気が弱いってのは良くないわ‥‥ふあ‥‥ぁふ‥‥」
 だ、だって師匠、怒ると怖いじゃないですかっ。前にそういうことをやりかけて尻尾で張り倒されたのは忘れてません。‥‥と、反論したところでほぼ確実に無意味なので、ここは黙っておく。
「‥‥で、今何時って‥‥ふぁ‥‥」
「お昼になったところです。そろそろ昼飯を作ろうかと思ってたんですが‥‥」
「‥‥まだいいわ‥‥なんか全然目が覚めない‥‥」
 そう言っているうちにまたまぶたが下がって――うん? なんか変な感触が‥‥
「って、何やってるんですかっ!」
 何かごそごそやってると思ったら、いつの間にか俺のチンポを握りしめてる。何という早業‥‥って、節操なく既に勃起している俺も我ながらどうかと思う。おっぱい揉みまくったから、不可抗力ではあるんだけど‥‥。
「分かってるくせに聞かないの。あたしの眠気を覚ますために頑張りなさい」
「それはつまり、その」
「抱いて、って言ってんのよ」
 と同時に、俺のチンポをぎゅっと握り、早くも巧みにしごき始めた。目はまだとろんとしてるし、口調もはっきりしないけど‥‥起きてないんですか、本当に。
「‥‥出来は悪いし、度胸もいまいちだし、気も利かないくせに‥‥ここだけは立派なんだから‥‥」
「誉められてるんでしょうか‥‥?」
「最高級に誉めてあげてるんだから喜びなさいよ」
「‥‥ありがとうございます」
 全然誉められてる気はしないけど、従っておく。ナイアさんの要求は何事も水準が高い、というよりその時々に都合良く理想が変わるから、それに応えるのは相当難しい気がする。頑張ってはいるし、怒られる回数はずいぶん減ったから成長してるとは思うんだけど。
「‥‥ほんと、これは立派よね‥‥。太くて、固くて、長くて、ゴツゴツしてて‥‥。顔からは全然想像つかないわ‥‥」
 チンポをしごきながらのつぶやきは、少しずつ熱を帯びてゆく。しごきながら興奮し始めているみたいだ‥‥。
「初めて抱いてあげた時も良い感じだとは思ったけど、それからもうんと成長してるわ‥‥あたしが狂わされるわけよね、悔しいけど」
 ――ムギュウッ!
「痛たたっ! 何するんですかっ」
 いきなり強く握りしめられ、思わず呻く。
「思い出した。――今日の明け方、あたしが失神したのを放置して起きたでしょ。そーゆーことをしていいと、あんたは思ってるわけ?」
 変なことだけは覚えてるよこのひとは!
「で、でも起きないと予定が――」
「うるさい。あたしとするほうが大事でしょ。女を失神させたなら目を覚ますまで待って、そこで改めてもう一度‥‥というのが『当たり前』で『普通』で『あるべき姿』だと思うんだけど、異論はある?」
 いったいどこの普通なのか気になるけど、ここで反論しては泥沼だ。言いたいこと諸々をぐっと堪えて、「おっしゃる通りです」と返事。するとナイアさんはいつものように大仰な仕草で「よろしい」とばかりに頷き――不自然なまでの笑顔になる。嫌な予感が‥‥。
「だから、それを加えて今から二連発でお願いね」

* * *

「‥‥う‥‥ん‥‥」
 毛布の中でもぞもぞと動く。‥‥お腹減ったな‥‥そろそろ起きないと‥‥。
「‥‥?」
 窓から日が入ってくる。‥‥なんで西から‥‥?
「うわっ!」
 毛布を跳ね飛ばして起き上がる。そして現実を認識。‥‥あー‥‥。そうだった‥‥。
 ――毛布をめくるとそこに見えたのは自分の下半身とナイアさん。共に全裸。シーツはあちこちに染みが付き、何が起きたか一目瞭然だ。そう‥‥たしか、ナイアさんを起こそうとして‥‥なんだかそのままなだれ込んでしまったんだった。抜かずの二発を求めるナイアさんにきっちり二回ぶちまけて‥‥ええと‥‥そのまま、寝てしまったんだろうな‥‥。状況や日差しの色からして、もう二時は過ぎてるだろう。さすがにナイアさんも起きてくれる‥‥と思いたい。そう思いながら揺さぶってみると――
「う‥‥ん‥‥。おはよ‥‥朝‥‥?」
 予想外にあっさり起きてくれたのはいいとして、朝じゃないです。昼でさえないです。俺もひとのことは言えませんが。
「もう三時前みたいです。起きましょうよ、師匠」
「‥‥そうね。よく寝たわ‥‥それに、すごく良かった」
 服を着つつある俺にしなだれかかってくる。
「抜いちゃだめってお願いしたら、ほんとにそのまま続けてくれるんだから‥‥。気持ちよかったわ、ありがと‥‥」
 服の下に手を滑り込ませ、俺の肌を愛撫してくる。爪先がさわさわと脇腹をまさぐり、徐々に這い上がって乳首へ。ちゅっ、ちゅっという音が首筋で響く。ぷるんとした唇の感触。‥‥こ、これはまずいっ!
「それはともかく起きてくださいね! 俺、ご飯作ってきますから!」
 ふりほどくように立ち上がり、早口でまくし立てる。あっけにとられて眼を丸くするナイアさんを残し、そそくさと階下へ急ぐ。‥‥危ない‥‥もうちょっとでまたしてもベッドの上でのお楽しみになだれ込んでしまうところだった。さすがにそれは‥‥いや‥‥そういう日もあるけどさ‥‥。

* * *

 かなり遅めの昼食を済ませ、そしてようやく師匠の講義の時間だ。休みの日はこうやって講義か実験を通して俺を鍛えてくれる。
 世の中の「師匠」「親方」というものは、たいていの場合は弟子の教育なんて大して興味がない。「師匠」は弟子に雑用や下働きをさせ、その代わりに仕事を間近で見せてくれる。つまり「師を見て学べ」式の教育だ。師を見て、見よう見まねで技を身につけて、それで一人前になれば良し。たくさん弟子がいる親方はそんな悠長なこともやってられないから、新入りは兄弟子が教育する。これはもう、鍛冶屋だろうが魔導士だろうが同じことだ。そういうのに比べると、ナイアさんはずいぶん教育熱心だと思う。実験の手伝いは「見て学べ」式ではあるけど、講義は本当に「講義」だ。自分が昔書いた概説書を片手に、丁寧に教えてくれる。曰く「ビルサ大学より高級で丁寧」だそうだ。なのに、それをちゃんと物にできるほど俺の能力が追いついてないのがすごく悔しくて、申し訳ないと思ってるんだけど‥‥そんな俺を馬鹿にしたりからかったりしながらも、飽きずに付き合ってくれる。本当に、ものすごくありがたい師匠だと思う。
「――さて、魔導哲学の父と呼ばれるダルハタム・ニラク・スマーナリは、以上の説によって世界のあり方と精霊力の意味を関連づけたわけよ。つまり、それまでの古典四派に共通した土台である精霊実体説を根本的に覆した、ってことね」
 本を見もせずに、師匠は淡々と解説する。
「このことにより、それまで人格化・神格化された上で理解されていた精霊力というものに対して、遠慮無く仮説を立て、論証し、議論することができるようになったのよ。――はい、これはどういう意義がある?」
「ええと‥‥魔導研究が宗教や神学から切り離されて、独立した学問として成立した‥‥ということ、なんでしょうか」
「よくできました」
 ――ちゅっ。
 この前教わった内容から答えを捻り出した俺に、柔らかい唇が触れる。正解のご褒美だ。そしてそのご褒美は、一度きりではなくて何度も何度も繰り返される。一度正解するたびに、五度、六度と唇が触れあう。もちろん‥‥普段の講義はこうじゃない。だいたい、さっきみたいな甘い問いはまずない。もっと難しい、うんうん唸らないと答えらしきものにさえならない問いばかり。でも、休日は――特に、今日のような休日は、講義と言えばこんな調子だ。こうやって抱き合ったり、じゃれ合ったりしながらだらだらと時が流れていく。ナイアさんは俺の膝に腰掛けて、俺の首に腕を絡ませたまま。時には胸を押しつけ、時には俺の股間を狙う。‥‥俺も感化されて、すぐにちょっかいを出してしまうんだけど。そのうち、講義はいつの間にか終わってしまう。二人の口は問答のためじゃなくて、口づけのために使われるから。互いに唇を押しつけあって、舌を絡め合う。そのまま抱き合い、ただただ口づけを続ける。時間が過ぎていくのも気にしないし、気付かない。抱き合い、抱きしめ合う。見つめ合い、甘い言葉を囁いて。そして我慢ができなくなった頃――
 ガラァン、ガラァン‥‥
 止まった時間を割る、時計塔の鐘。その音にようやく、二人とも正気を取り戻す。
「いつも良いところで鳴るわね、あの鐘‥‥」
「でも晩飯作らないといけないし、ちょうどいい頃合いですよ」
 あからさまに不満そうなナイアさんをなだめ、だめ押しのキス。ずっと密着していた身体を離し、互いに乱れかけた服を整える。
「‥‥無粋ね」
 それでも不満そうなナイアさんにもう一度キスをして、俺は台所へ急いだ。‥‥ナイアさんはああ言ってはいるけど、晩飯が遅れるようだとそれはそれで機嫌が悪くなるんだ。もちろんこれも学習済み。

* * * * *

「‥‥はぁあ‥‥美味しいわ‥‥」
 ナイアさんは陶酔しきった顔で、俺の顔を見上げる。
 ――食事が終わって、そのすぐ後のこと。食器を片付けた直後、俺は寝室へ走った。もちろん、寝室ではナイアさんが待っている。一分一秒が我慢できないひとだけあって、ドアを開けると全裸のナイアさんが飛びついてきた。そしてそのままベッドへもつれ込む。ナイアさんは俺の服をむしり取るように脱がせると、同時に俺をベッドの縁に腰掛けさせる。そして自分はベッドから下り、俺の股間にむしゃぶりつく。準備万端の肉棒はナイアさんの舌を今か今かと待っていたから、長い舌がてろりと舐め上げてくれたときにはびくんびくんと跳ね上がり、先走りを飛ばしてしまうほど。
 いくらなんでも、なんでそんなに準備ができてるんだ、って‥‥それは、食事しながらナイアさんがさんざんちょっかいを出してきたから。素知らぬ顔で料理を平らげながら、尻尾の先で俺の股間をつつき、撫で、まさぐる。それに俺が反応すると、今度は妙に扇情的な仕草で料理を食べてみせる。たとえば腸詰めを食べる時なんて‥‥舌を這わせ、舐め上げ、咥えたかと思うと腸詰めを前後させて見せる。その仕草はまさしく、俺のチンポをしゃぶる口遣いだ。直接の刺激と視覚の刺激で、俺の股間は面白いほど張り詰める。そんな風な食事だから、食後の俺が「準備万端」なのは当たり前だ。
 ――じゅぼっ、じゅるっ、ぬぽっ、じゅるる‥‥っ。
 ナイアさんは俺の勃起がお気に召したようで、最初から全力で攻めてくる。舌にはたっぷりと唾液を絡ませ、そのぬるぬるの舌を肉棒に絡ませる。長い舌がねっとりと絡み、かと思うと色っぽい唇がくわえ込む。唇の赤い輪が、赤黒く張り詰めた亀頭をぬるり、と通過する。口の中に含まれたそこに、舌がちろちろと挨拶。先端をくわえ込んだまま、舌先はカリ首をなぞり亀頭を一周してから今度は裏筋をねろりと這い回る。同時に、ナイアさんの頭全体がゆっくりと俺に近づき、肉棒を根元まで呑み込んでいく。舌は裏筋を巧みに舐め、蕩かし、そして長い先端が玉袋を玩具のように突き、さらには尻と玉との境目――いわゆる蟻の戸渡をちろちろと舐めてくる。亀頭は喉奥で抱きしめられ、竿は唇でしごかれ、裏筋と玉とが同時に舌で攻められる。
「くぁ‥‥ぁ‥‥っ!」
「んふふ‥‥」
 肉棒を口いっぱいに頬張りながら、俺の喘ぎを聞いて嬉しそうに笑う。そして頭の動きを早めていく。――じゅぼっ、ぬぽっ、ぶぱっ、じゅるり。ぐぽっ、じゅぶっ‥‥。空気を巻き込み、唾音と相まって淫らな音がひときわ大きくなる。股間を刺激する熱い感触に、耳から入ってくる音の刺激――俺の心臓は興奮に高鳴り、体中が熱くなっていく。その熱い体を這い回る、白く細い指先。紅く彩られた爪が脇腹をカリリとかすめながら、俺の肌を性感帯に変えていく。脇腹、背中、腹、胸。じゅぼじゅぼと音を立てて頭を前後させながら、ナイアさんは俺の上半身にも攻めかかる。爪先が乳首を引っ掻く。呻きが漏れる。
 俺はお返しのためにゆっくりと前屈みになり、腕を伸ばしてナイアさんの乳房に触れる。ずっしりとした温かい乳肉を持ち上げ、乳首を指先で軽く押し込む。そのたびに漏れる、くぐもった声。互いに不規則に息を詰まらせ、深呼吸のように息をつく。
「んんっ‥‥んふぅん‥‥っ」
 じゅぶっ、ぬぱっ、くぷっ、ぬぽっ‥‥! ナイアさんの頭の動きが徐々に激しくなっていく。緩くきしみ始めるベッド。「くはっ、あ‥‥っ!」我慢できず、俺はおっぱいを揉むこともできずにのけぞる。強烈な快感に腰が浮きそうになる。そして唐突に、
「ぷはっ‥‥!」
 ついにチンポから口を離し、ナイアさんは大きく息をつく。
「はあっ、あはぁっ‥‥。だめ、限界‥‥」
「苦しかった?」
「ううん‥‥あんたのだったらあと一時間でも二時間でもしゃぶってられる‥‥。そうじゃなくて、もう、我慢できないわ‥‥」
 そこまで言うと、まさしく「我慢できない」という言葉通りに俺を押し倒し、のしかかってくる。桃色に染まった頬に、情熱的に塗れた瞳は鬼気迫るほど。指先がチンポをしっかりと掴み、秘裂に導いて――
「はぁ、はぁ‥‥ぁ、あぁ‥‥!」
 ぐちゅっ――
 熱い粘膜に呑み込まれる、俺の先端。どろりとした粘液が、竿の裏を伝って流れ落ちる。
「すごい濡れ方‥‥」「うるさいな、黙ってて‥‥ぁ、――あはぁっ‥‥!!」
 ずぶり‥‥。
 張り詰めたものの上から、ナイアさんの体が降りてくる。ずぶずぶと呑み込まれていく俺のチンポ。肉穴に迎え入れられた槍は、一直線に貫いていき――そして。
 ――ずしん。奥の奥、ナイアさんの急所を一突きにする。
「く、は‥‥っ!!」
 俺の胸板に手を突っ張ったまま、ナイアさんが喘ぐ。大きく開いた口から、はみ出た舌から、ぼたぼたと涎がこぼれる。
「す‥‥ご‥‥ぃ‥‥」
 小刻みに震えながら。
「い‥‥一気に‥‥来たわ‥‥お‥‥奥‥‥まで‥‥!!」
 眉根が、唇が、手が、ビクビクと震えている。俺の脚に緩くまとわりついた下半身も、ぶるぶると痙攣して。そして淫肉も、俺のをぎゅっと抱きしめたまま、立ちすくんだように、ひくっ、ひくっと震えて。ただ、涎が垂れ、愛液が溢れ、俺を濡らす。
「だ‥‥め‥‥」
 うつろな目が、中空を見据えて。か細い喘ぎが漏れる。
「‥‥いく‥‥っ!」
 聞こえるかどうかという程度の悲鳴と、ナイアさんが崩れ落ちたのは同時だった。
「あぁ‥‥っ、はぁ‥‥っ、あんた‥‥反則よ‥‥これ‥‥っ」
 俺に体重を預けながら、ナイアさんが恨みがましくもうっとりした目で睨む。
「反則って‥‥何にもしてませんよ」
 さすがに理不尽な言いぐさに反論すると、
「うるさい! 反則は反則なのよ! っく、は、あふっ‥‥あ、あんたの、あんたのチンポでブチ抜かれたら、あ、あたし、も、もう‥‥イくしかないのよ‥‥こんなの‥‥は、反則、よ‥‥」
 大きな声で無茶を言ったかと思うと、急に声が小さくなり、喘ぎ交じりにかわいいことを言う。
「何なのよこれ‥‥っ、は、ぁ、っく、これじゃあたし、まるで、あんた専用――っ!? ああぁあっ!! だっ、だめ、だめぇっ!! 突かないで、いくっ、イクイクイクっ!!」
「気持ちいいの、好きでしょ?」
 お尻を掴んで、腰をガスガスと突き上げる。
「好き、好き、だけど、ああっ!! またイくっ、いっくぅううっ!!」
 しがみつきながら仰け反り、のたうつ。淫らな絶叫を何度も上げ、歯を食いしばったかと思うと今度はがくんがくんと大きく震え、またしても倒れ込むナイアさん。熱い吐息を不規則に漏らす唇を舐め、唇を重ね合い、抱きしめ合う。今夜はいつにも増して――朝や昼にも増して、敏感でいやらしい。丸一日かけて性欲を高めて、性感を高ぶらせていたからだろう。だからチンポをしゃぶるだけで愛液がどろどろと流れるほどになってるし、奥を軽く小突かれただけで狂ってしまう。そこにはナイアさんの意志なんて関係ない。意地っ張りで、主導権を握りたがるナイアさんだけど‥‥こうなった以上、主導権は俺のもの。イかせて、よがらせて、狂わせてあげるのが俺の役目。のたうち回るナイアさんを下からひたすら突きまくる。
「くひぃいいっ!! すごっ、すごいっ、いくっ、っ――!!!」
「まだまだ‥‥!」
「あ、あぁあっ!! も、もうっ、あ、あたし‥‥あ、ぁぁ‥‥!!」
「ほら、イって。何回でもイかせてあげるから」
「い、イクぅううっ!! 壊れるっ、壊れちゃうぅっ!! 突いてっ、壊して、あ、ああっ!!」
「うん‥‥。――おらっ!!」
 ズシンッ!!
 ひときわ鋭く、そして強く。力を込めてえぐり込み、奥底を叩きのめしてあげる。痙攣する膣肉をたっぷり味わいたいのを我慢して、そこからがむしゃらに攻め続ける。えぐり、突き上げ、かき回して。仰け反り、突っ伏し、しがみつき、爪を立てるナイアさんを、一瞬も休ませずに絶叫させる。
「ひ、ひぃいいっ!! だめっ、もう‥‥だめぇ‥‥!! ゆ、ゆるし、て、イくっ、いくいく、イっくぅうっ!!」
 汗だくになりながら、快楽にとろけながら、泣き言を言う。でも、攻めは緩めない。
「お、おねがい‥‥っ、もう、限界‥‥!」
「だめ。中途半端は許さないって、いつも言ってるのはナイアさんでしょ。――ちゃんと失神させてあげるから、安心して」
 笑顔で言うと、ナイアさんの顔がなんだか引きつったように見えた。あれ、もっと嬉しそうにしてくれるかと思ったんだけど‥‥と、それはともかく。言った以上は、きっちり果たさないと。唇に軽くキスをして、そして目の前でぶるんぶるんと揺れているおっぱいに指を食い込ませる。汗で湿った感触と同時に、熱い体温が手のひらに触れる。張りのある感触を楽しみつつ、手を震わせておっぱいを感じさせてあげる。甘い声が降りかかる。もちろん手加減せず、奥を突き上げながらおっぱいをこねくり回してイかせる。
「あぁう‥‥っ!!」
 身体を支えきれず、ナイアさんは俺に倒れ込んでくる。熱い汗、熱い体温。湯気が上がりそうなほどに燃え上がるナイアさん。そのひくひくとした震えを肌で感じながら、細い腰を放さないようしっかりと抱え込んで、俺は腰を打ち上げる。深く、強く。
「あひいいっ!!」
 鋭い叫びと同時に、腕の中でナイアさんがのけぞる。ドスン、ズシンと突き上げるたびに、喘ぎは鋭さと激しさを増していく。ナイアさんにはいろんな技巧を教えてもらったけど、こういう場面で必要なのは――ただただ深く撃ち込み、衝撃で狂わせることだけ。
「あっはぁぁあっ!! あはぁっ! いぐっ! いぐぅぅっ!!」
「うん‥‥ほらっ!!」
「くひぃいいいっ!!」
 歯を食いしばって悦楽の悲鳴を上げる。強く抱きしめているのにむりやり体を反らせようとする。――だめだよ、離さないから。このむちむちの体を離すなんて‥‥そんなもったいないこと、俺はしたくない。いつだって、どんなときだって触れていたい体なのに。なのにナイアさんは必死に藻掻く。気持ちよすぎて何も考えられなくて、体が勝手に動くみたいだ。抱きしめようとする俺、のけぞるナイアさん――力の方向が合わず、絡まり合ったままベッドの上で横転。それをきっかけに、今度は俺が上になる――。

* * * *

「あぉおおぉぉっ!! は、はひっ、――あぁっはぁああっ!! もっと、もっ‥‥と‥‥!! イかせて、狂わせて!! あぁああああーっ!! 」
 どこまでも贅沢な要求をぶつけてくる。もう何度も何度もイきまくってるけど、そんな程度でおとなしくはならない。感じれば感じるほど、燃え上がれば燃え上がるほど、さらなる快楽を求めて乱れる――それが俺の恋人だ。欲望に染まった目が俺を見つめ、よだれで光る唇が卑猥な求めを吐き散らす。女としての魅力を煮つめて詰め込んだような体は汗だくの汁まみれになり、迫力すら感じさせる色香を全身で発散している。むちむちの爆乳がベッドに押しつけられて潰れ、左右に大きくはみ出してる。それを左手が掴み、自分で揉み潰しているのが見える。何ていやらしい女なんだろう。ただひたすらに淫乱で貪欲な俺の恋人。そのいやらしいラミアの下半身を肩に担いで支え、尻肉を掴み、後ろから攻め立てる。
 パンッ、パンパンパンッ、パンッ――
 やや不規則な音が響く。人間同士ならもっと自由に動ける体位なんだろうけど、ラミアが相手じゃそうはいかない。でも、俺なりの工夫でそこを乗り切らないと。それでこそラミアを愛する人間、ラミアの夫だと思うから。もっとも、ナイアさんにそんなことを考えてる余裕はなさそうだ。
「壊れる、壊れちゃう‥‥あ、ああ、‥‥壊して、あたしを、――あぁあっ! あぁぁああぁぁっ!!」
 囁くような悲鳴、うわごと――その期待に応え、さらに深く押し込み、そしてナイアさんの体を強く揺さぶる。肉棒は完全に突き刺さり、振動で子宮をいたぶってあげる。跳ね上がる絶叫。シーツをがむしゃらに掴み、髪を振り乱して叫ぶ。ものすごい乱れっぷりだ。どんないやらしい顔をして悶え狂っているんだろう‥‥鏡を前に置いておけば良かった。肩に担いだ蛇体はベッド端の鉄柵に絡みつき、ぎりぎりと不穏な音を立てている。もしも俺の体に巻き付いていたら‥‥というのは考えないことにする。雑念を払い、ただただナイアさんを愛し、抱き、犯す。
「すごい、すご‥‥い‥‥!! ――あ゙っはぁぁあああっ!! いっぐぅぅうううっ!!!」
「まだ、まだまだ‥‥!」
「ひぃいいっ!! ゆ、ゆるし‥‥いくいくいく、いっ‥‥くぅうううっ!!」
「ま、だ‥‥!!」
 灼熱の溶岩が出口を求めて渦巻き始める。その熱さを必死でこらえ、しゃにむに腰を叩きつける。子宮を砕かんばかりに、めちゃくちゃな強さで。衝撃と痙攣が合わさり、ナイアさんの頭もがくんがくんと揺れる。肩の上でひくつく蛇の体も、焼けるように熱い。
 奥歯を食い縛り、汗を飛び散らせて、欲望と愛情を叩きつける。ひりひりとした切迫感が下腹部を覆い尽くしていく。
「ぐぅ‥‥っ!!」
 呻きが漏れ、次の瞬間――
 ドプッ、ドビュッ、ドクンッ、ドプッ、ドクッ‥‥!!
「あっはあああぁぁぁぁあああぁぁっ!! あ、あぁ、あああぁぁっ!!!」
 長い髪を思いきり跳ね上げ、ナイアさんは渾身の歓喜を爆発させた――。

* * *

「はぁん‥‥すご‥‥かった‥‥」
 熱戦が一段落付いた時、ナイアさんはとぎれとぎれにそう言うと、手の甲で額を拭った。俺もさすがにひと息入れないと体がもたない。しばしナイアさんの上に覆い被さっていたけれど、ずるずるとずり落ちるようにしてその隣に転がる。――深呼吸。体に入ってくる空気が心地いい。
 隣でもナイアさんが熱い息をついている。――視線が合う。指が絡み合い、手を握り合う。横になったまま抱き合う。互いに汗ばんだ肌がぬめり、生々しいにおいが沸き立つ。鱗の感触が脚を撫でた。下半身がゆったりと俺を巻き、抱きしめる。俺もむちむちのおっぱいを体で楽しみながら、ナイアさんの上半身を抱きしめる。自然に唇が触れあう。ついばむようなキス、キス。何度も何度も繰り返す。
「綺麗だよ、ナイアさん」
「ありがと。あんたもかっこいいよ‥‥」
 思わず口を突いて出た言葉に、ナイアさんが応えてくれる‥‥のは良いんだけど、めったに言われないセリフに思わず顔が熱くなる。は、恥ずかしい‥‥。
「そこで照れるのがいかにもあんたよね‥‥。狂暴な抱き方してくれたくせにさ」
「そ、そうかな‥‥」
「そーよ。相変わらず童顔のくせに絶倫なんだから」
「‥‥ナイアさんも相当なものだと思うけど‥‥」
 実際、これに関しては何だかんだと言ってナイアさんのほうが体力がある。たぶん。
「それはまあ‥‥あたしを誰だと思ってんのよ。で、そのあたしを満足させられるんだから‥‥ふふ、だからあんたはかっこいい、って言ってんの。凄かったわ、さっきの‥‥」
 頬をほんのり赤らめ、ナイアさんはいっそう強く俺を抱きしめる。熱い肌、熱い吐息。耳元をくすぐる甘い声。俺も強めに抱擁を返し、その感触に満たされる。
「‥‥ラート、愛してる」
 とびきり甘い声が、脳に響く。もちろん、俺も愛を囁く。抱擁、口づけ‥‥そして、夜はまだまだ続く――。

* * * * * *

「おーい、ナイアさんよー! 開店はまだかーい!!」
 職人街に野太い男の声が響く。魔導具店「ナイアのお店」が定時になっても開かないのはよくあることだが、それにしても今日の開店はずいぶん遅い。待ちくたびれた客が、店主の私室があるらしい二階に向けて声を張り上げている。すでに太陽は高くなり、強烈な日差しが降り注ぐ。開店待ちの男は急ぎの用でもあるのか、汗を拭き拭き店主を呼ぶ。恰幅の良い体型とひげ面が相まって、暑苦しいことこの上ない。
「おおーーーい!!」

*

「お客さん来てますよ‥‥こんなことしてる場合じゃ‥‥」
「いいのよ、待たしとけば‥‥黙ってしゃぶられてなさい」
 じゅぼっ、ぬぱっ、じゅるるる‥‥。すでに一度は顔で精液を受け止めているのだろう、白い粘液が残る口元を拭いもせず、淫乱魔導士は弟子の高ぶりを情熱的にしゃぶりたてる。こちらも精液をたっぷり浴びたのだろう、ぬらぬらと光る乳房をみずから揉みしだきながら。力強く青筋の走る幹を甘噛みしたかと思うと、彼女はそれをこともなげに喉奥まで飲み込む。喉を使って巧みに締め上げ、同時に舌が裏筋を徹底的に攻める。男根はギチギチに張り詰め、口内から飛び出さんばかり。魔導士は頭を左右に揺すって、その感触を楽しんでいる。
 ――ぶぱっ!
「あんっ‥‥」
 限界まで反り返った肉棒が、ついに派手な音を立ててラミアの口から飛び出し、威容を誇示するかのようにそそり立った。ナイアはそれを見てにやりと笑い、今度は豊満な乳房に挟み込む。潤滑液は唾液と、ラート自身がさきほど吐き出した精液だ。焼けつく肉棒を谷間に挟み、にちっ、にちっと粘着質な音を立てて爆乳が上下する。長い舌が伸び、谷間から顔を出す鈴口をつつく。いたずらっぽく、なおかついやらしく微笑むナイア。
「く‥‥はっ‥‥」
 弟子も眉根を寄せて顎を上げる。もう客のことなど口にしそうもない。
 ――開店には、まだしばらく掛かりそうだ。

(終)

弟子シリーズ外伝。夫婦の日常(休日)でした。
前に設定集のおまけとして書いた住み込み弟子の一日(→こちらの末尾)をベースに文章化してみたものです。‥‥「いつもと同じじゃねーか」というのは言わない方向で。

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