ナイア宅見取り図

■間取りについて
「だいたいこんな感じの構造ですよね?」
「間取り自体は間違っちゃいないけど‥‥通路の幅とか部屋の大きさとか、なんかいろいろ変じゃない? もっと手狭な気がするわ」
「そ、そこは大目に見てください」

■概観

■場所・周辺の様子
 真鍮細工職人街の端、鍵職人街との境目にある。当然、ご近所は職人ばっかりだ。魔導士も一種の職人だけど、町を作るほどの人数は居ないので、こうして職人街に埋もれている。普通の魔導具屋はビルサ大学周辺やアプトス神殿の裏手に店を構えるんだけど、なぜか師匠はここに住んでる。
 うちの店に向かって左側はお隣さんが接し、右側は路地になってる。何の変哲もない路地なんだけど、夜になるとなぜか若い男の子が溜まりはじめる。特に騒ぐわけでもないし放ってあるんだけど、何をしてるんだろう。路地を挟んだお隣に聞いてみても、ニヤニヤ笑うだけで教えてくれない。‥‥不思議だ。まあいいや。
■建物
 木造3階建てだ。職人街によくある感じの細長い家だけど、周囲の家は石造りや煉瓦造りが多いので、ちょっとだけ目立つかも知れない。この家は師匠が建てたんじゃなくて、職人一家が住んでた空き家を買い取って改装したんだそうだ。だから3階なんかは不必要に部屋が多かったりする。
 窓は明かり取りのためにいくつも開いてるけど、日差しが強いので多くの窓は鎧戸を閉めてる。もちろん、これには防犯の意味もある。
 防犯と言えば‥‥ビルサは大都市のわりに犯罪が少ない。そりゃまあ、忍び込んだ家にどんな種族が住んでるか分からないんだから、泥棒としてはちょっと怖い街だろう。とはいえ、みんな自衛はきちんとしてる。うちも貴重品は多いから、施錠は厳重だ。
 店先には看板がぶら下がってる。「投げキスをするラミア」をあしらった模様と「ナイアのお店」という文字が、黒地に金で表現されてる。この看板、なんだか妙に色っぽいんだけど師匠のお気に入りらしい。

■1階
 1階は店と倉庫がほとんどだ。

■店
 魔導具店「ナイアのお店」だ。お客はここまでしか入れない。商品の陳列棚は自由に見てもらって構わないんだけど、大抵のお客は直接店員(要するに俺)か店長(師匠だ)に聞いてくることが多い。冷やかしのお客は珍しそうに眺めてるけどね。
■カウンター
 お勘定をするところだ。長話のお客にはここでお茶を出すこともある。
 帳簿やおつり用の銭函、暇つぶし用の本なんかはカウンター裏にある。背中側にある棚はちょっと危ない商品(劇薬類)だ。もっとも、ここで売ってる商品はほとんどが悪用しようと思えばできる物ばかりなんだけど、その辺りはお客を信じることにしてる。
 店先で扱ってる品物は小さめの物が多いけど、大物を買ったりまとめ買いをしたりしたお客には後日配達、ということもある。
■倉庫
 仕入れた商品やうちで作った売り物を保管している倉庫。
 細々とした材料など、あんまり重要じゃないものは店に近い方の倉庫(倉庫1)に。大きな棚が四つもあるから、通路はとても狭くてすれ違うこともできない。
 貴重品や危険物は奥の倉庫(倉庫2)へ。もちろん、こっちの鍵は厳重だ(師匠と俺にしか開けられない魔法鍵が二重に掛かってる)。仕入れは魔導具や材料専門の問屋が定期的にやってくる。そういう荷物は路地に面した搬入口から直接運び込んでもらう。
 うちから顧客へ配達する予定のものは、個別の箱にまとめて荷物置き場に仮置きしておく。荷造りと配達は俺の仕事。結構重労働だ。
■押し入れ
 階段下の空間には掃除用具が入ってる。
■廊下
 狭くて長い。「住む」という面だけから考えると、あんまり住みやすい家じゃないと思う。
■食堂・台所
 食事はここで取る。食器棚の下には師匠用のお酒が何本か置いてある。師匠はかなりお酒に強いけど、飲み過ぎるとやたら絡んできたりいきなり寝てしまったりするのであまり飲ませてはいけない。
 台所は一通りの調理用具が揃ってる。一般家屋にあるかまどの代わりに、魔導具を利用した調理設備になってる。だから煙が出ないのはとてもありがたい。でもあまり強火が出せないので、料理の幅が狭くなるのだけはちょっと不満かな。
 台所の脇には勝手口がある。ここから水汲みやゴミ捨てに出て行くわけだ。ちなみに水は、アルム・シェダ河から引いた水が網の目のような地下水路を通って供給されているので、住民はそれぞれ近所の井戸でそれをくみ上げる(嘘かホントか知らないけど、粘っていれば井戸で魚が釣れるらしい)。大河から引いてあるとは思えないほど綺麗な水だ。俺は料理なんかに使うときは簡単に濾過・煮沸してるけど、気にしない人も多い。
■風呂
 乾燥地帯にある割にこの街は水が豊富なので、風呂を自前で持っている家も結構あるらしい(もちろん、割合から言えば少数派だ)。うちの風呂桶は大きめだけど、師匠の下半身全部を収めることはできないので、師匠は戸を開けっ放しにして入る。排水は下水溝へ直接流す。 
■階段
 狭くて急。原理的なことを言えば師匠に階段は必要ないんだけど(太い柱があれば垂直にでも上れるから)、来客の可能性を考えて残したらしい。‥‥残しておいてくれて助かった。

■2階
 2階は実験室・作業室といった魔導士宅らしい部屋が主だ。でも一番広い部屋は師匠の寝室。

■実験室
 理論の証明、新たな器具・薬の発明、素材の鑑定といった魔導実験を行う部屋。師匠が休業日や夜にここで実験にいそしむことが多い。俺もよく手伝う。二部屋ぶち抜きになってて(というか扉を撤去した形跡がある)、奥の部屋は実験用具の倉庫みたいな扱いになってる。所狭しと器具類が並んでいて歩きにくいので、動くときは要注意だ。
 加熱・冷却その他様々な作業を行うための設備が一通り揃ってる。特殊な器具も棚の中にひしめいてる。煙や蒸気が出る実験も多いので、壁に煙突が付いてるけど‥‥効いてるのか? と思うときもある。特に大鍋をかき回してると、煙突なんてあってもなくても大差ない感じだ。とはいえ、お隣に迷惑なので窓を開けるわけにも‥‥。 
■作業室
 店で売ったり、注文を受けたりした魔導具を作成する部屋。実験室と重複する設備もあるけど、こっちの部屋は作業効率を重視した造りになってる。注文が立て込んでる時(あんまりないけど)は、俺に店番を任せて師匠がここで仕事をする。奥の部屋は材料・道具置き場。
■資料室
 よく使う最低限の資料はここにまとめてある。座学的な講義はここで行われる。‥‥座学は苦手。
 もともとは本棚しかなかった部屋なんだけど、俺が弟子入りしてから机を押し込んだので通路が狭い。
■研究室
 師匠の研究室。貴重書ではない資料がたくさんある(もっとも、一般の感覚からすれば本自体が貴重だ)。図書室・資料室みたいな感じの部屋だ。本の他は読書用の机や筆記具、照明しかない。
 師匠はこの部屋に籠もって本を読むよりも、本を持ち歩いて店のカウンターや食堂の机で読んでることの方が多い。読んだ本はどうせその辺に置きっぱなしになっているので、それをこの部屋へ片付けるのは俺の仕事だ。
■寝室
 師匠の寝室。なんだか良い香りがする。ベッドはものすごく大きくて、店の売り場面積と同じぐらいあるんじゃないか、ってほど。ちなみにこのベッドは2代目で、先代のベッドは今より少し小さかった。枕が二つ置いてあるのは気のせいだ。
 ベッドの他には衣装棚と鏡台がある程度。師匠の衣装はあまりかさばらないので(年中あの露出度だからね‥‥)、衣装棚も大した大きさじゃない。

■3階
 3階は物置ばかりだ。夏の盛りには暑くて居てられない。

■天文観測・占星術室
 月や星の運行は魔導実験に影響を与えるため、その観測や運行の変化を知ったり予測したりすることは魔導学の基礎だ。師匠は占星術にあんまり興味はないようだけど、それでも一通りの設備は揃ってる。床に同心円が書いてあって、その時の観測結果に応じて星に見立てた水晶玉を配置していく。
 天体の観測は窓や天窓(はしごで登る)から行うけど、もっと正確に行うためには天窓から屋根に上がるしかない。けど、ものぐさな師匠がそんなことをするわけもない。師匠曰く「だいたい分かればそれでいいのよ」だそうだ。
■弟子の部屋
 俺の私室。ベッド、机の他に若干の私物がある。弟子の個室にしてはなんだか広い。でも日中は店の仕事があるし、夜は勉強・修行やその他お楽しみの時間なので、この部屋はほとんど使ってない。ベッドも古物市でわざわざ買ったんだけど、ここでは数えるほどしか寝てないんじゃないかな。体調を崩した時とかね。
■物置
 3階ははっきり言って場所が余ってる。三部屋は師匠の雑物やガラクタが放り込まれて、物置になってる。俺の私室になってる部屋も、元はそういう物置だ。
 物置はどれもひどいありさまで、整理する勇気が出ない。
■特殊実験室
 外界の影響を一切排除する結界を張った実験用の部屋。本格的な術式を併用する実験を行うときは、この部屋を使う‥‥んだけど、めったに使わない。師匠はどっちかと言えば、特殊な技術が無くても使える無害な道具・薬を研究する方が好きみたいだから。
 設備・器具はほとんど置いてないので、この部屋を使うときは2階からいろんな道具を持って来ないといけない。

■地下

■地下室
 地下室は書庫になってる。貴重書籍や研究文献がぎっしり。なんでも、国立図書館やビルサ大学にもない本まであるらしい。魔導士にとっては宝の山のような部屋だから、ここも施錠は厳重。俺も師匠の許可がないと入れない。
 実験や講義で必要になれば、ここから2階(下手をすれば3階)まで資料を持って上がらなきゃならない。これは割と‥‥というか、かなり疲れる。

* * * おまけ: 住み込み弟子の一日 * * *

【平日】

【休日1】(ナイアが起きる場合)

【休日2】(ナイアが起きない場合)

「‥‥こんな書き方されたら、あたしがものすごく怠け者の淫乱女みたいじゃない」
「実際そのとお‥‥いや、勤勉で清楚です」
「よろしい」

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