勝負師の憂鬱

 二列に分割されたテレビ画面内に、つぎつぎと物体が降ってくる。ゼリー、あるいはグミキャンディーを思わせるカラフルなそれは弾力的な描写で降り積もってゆく。大きな目が二つあるところを見るとたぶん生き物なんだろう。湯にくぐらせれば白っぽくなるのは間違いないな。合うのは酢醤油、いや、梅肉かな。夏の味覚にふさわしい雰囲気だ。――なんてことを漫然と考えていられるほど、勝負は圧倒的だ。
「よし、十連鎖!」
 俺の力強い宣言と同時に、画面の中のキャラクターがなにやら叫び始める。それが一通り終わった瞬間、どどん、という音とともに灰色のブロックが隣の画面を一瞬で埋め尽くす。ふ、勝った。
「はい、五連勝。ご感想をどうぞ」
 隣で2Pコントローラーを握っている相方に会話を振ってみる。
「‥‥」
 おや、返事がない。床の上に座ったまま、いささかむくれ気味だ。先に黒い房のついた尻尾がぱたんぱたんと左右に振れる。あちゃー、拗ねたか。
「勝負は勝負だろ。だいたいパズルっていったらお前の得意分野のはずじゃないか、負けたからって拗ねるなよー」
 肩を抱いてゆっさゆっさと左右に振ってみる。反応がない。むぅ、いい年して困った奴だ――と思ったら。
「勝負は勝負‥‥そうか、そうだな。敗者がのうのうと居座るわけにもいかん‥‥ぬしよ、世話になった」
 いきなり相方が四つ足で立ち上がる。そして俺の制止も聞かずに窓辺へ向かってのっしのっしと歩き始めた。
「わっ、たっ、ちょっ‥‥!!」
 やめ、止まって! などとみっともない声を上げつつしがみつくが、残念ながら俺の力で彼女をくい止めるのは無理だったりする。
 しがみつく俺を引きずりながら、彼女は窓をがらっと開け、ベランダから身を乗り出し――
「敗者などと言う屈辱を味わうならば、いっそ――!!」
「ぎゃー!! やめてやめておねがいします!! 俺が大人げなかったですすいません!!」
 懇願する俺の顔を、相方が見る。澄んだ瞳に思い詰めた(かのような)光を浮かべ、寂しげな(ふうを装った)視線を投げかけ――
「そうか」
 その一言で、彼女はあっさりと部屋に戻った。そしてベッドの上に悠々と上がり、我が物顔でどっかりと腰を下ろす。そしておもむろに後足でがががががっと首の後ろを掻く。‥‥やめて、毛が飛ぶから。知っててやってるんだろうけど。
「自分が大人げないということに気付く――良い兆候だな、ぬしよ」
 ベッドの上に置いてあった俺のおやつをつまみながら、まるで自分が大人物であるかのようにのたまう。
「――負けたからって身投げを図るのも大人げないと思うけど。そんなんだから『なぞなぞに答えられて自殺した』とか言われるんだろ」
「う、うるさいぞ! あれは‥‥その、なんだ‥‥」
 しどろもどろになりつつ、明後日の方向を向く相方。顔立ちは彫りが深く、癖のある金髪と相まって、顔だけ見れば美女だ。胸より下はライオン、背中には鷲の羽根が生えてたりするけど。――そう、スフィンクスってやつだ。本人曰く「勝手に英語読みで呼ぶな」ということだが、今さら「スピンクス」ってのもなんだか収まりが悪いし、俺は「スフィンクス」で通している。
 「朝は四本足、昼は二本足、夕方には三本足の生き物は何だ」という、今となっては古典的な謎をオイディプスに問いかけ、答えられたショックで海に身を投げて死んでしまった――というのが有名なエピソードだ。生きてるけど。そういう故事が残るぐらいクイズだの謎解きだのが好きで、さらにゲームの類にも目がないんだが‥‥弱いんだよな、こいつ。で、負けるとだだをこねるわけだ。
 こいつがなぜか俺と同居するようになってから、最初の頃は一度ならず身投げをされた。ここは二階、窓の下は公園。彼女は裸。――えらい目にあったぞ、ご近所の目が冷たいのなんの。
『奥さんご存じ? あの人、白昼堂々裸の怪物女と公園から出てきたのよ!』
『まあ〜、なんて破廉恥な!』
『しかも女の方は窓から飛び降りたんですって! ‥‥流行りのドメスティック・バ‥‥バイオレット? とかいうやつかしら‥‥』
 裸なのは俺の趣味じゃなくてあいつの趣味だし、飛び降りたといってもたかが二階、しかも翼があるから全然支障はないんだが‥‥今度飛び降りられたら、警察沙汰とまではいかなくても、ちょっとここに住めなくなる可能性はある。大家にも目を付けられている気配が‥‥。それ以来Tシャツを着せてはいるが、下半身に衣類を着けることはかたくなに拒むので(毛皮に引っかかってものすごく気持ち悪いらしい)、かえって卑猥な格好になっているような気がしないではない。

「まあそれはそれとして‥‥どうだ、もう一勝負といかないか。ちょうど袋も空になったことだし、今度は冷蔵庫の中のプリンを賭けるのが良いと思うが」
「袋が空‥‥あっ、全部食べたな!?」
 お、俺がせっかく買ってきた味噌煎餅‥‥二枚しか食べてないのにっ‥‥。勝ったのに何でこんな羽目に。しくしく。
「なかなか美味かったぞ、次はもう少し大きな袋で買っておいてくれないか? さて、何の勝負にするかな‥‥プリンを賭けるにふさわしいゲームというと‥‥」
 俺の嘆きなど顧みるそぶりさえ見せず、ゲームソフトの箱を漁りだす。えーい、勝負ぐらい乗ってやらあ!
「分かった、俺はプリンを賭けよう。あれは死んだ爺さんが名も知れぬ南洋の島から九死に一生を得て持ち帰ったという形見の品‥‥なんとしても守り抜かねばならん。だがそれ相応のものを、貴殿にも賭けていただこう!!」
「むっ、良かろう!!」
 口から出任せの口上を述べつつにらみ合い――
「――とはいえ、私は賭けられるようなものを持ち合わせていないのだが」
 こっ、この、着の身着のまま居候スフィンクスがっ!
「そう睨むな、ぬしは相変わらず気が短くていかん。――そうだな、ならば貴殿の求めに応じ、私は私のすべてを賭けよう! 勝負っ!!」
 やたらと派手な身振りで格好を付けたかと思うとスフィ子が取り出したのは、プロレスの体裁を取ったお色気ゲームのソフトだった。は、恥ずかしい勝負‥‥。
「恥ずかしいのは勝負ではなくてこういうモノを持っているぬしの方だろう」
 やかましい。

* * *

「さて、こてんぱんに負けたわけだが」
「むぅうう‥‥」
 眉間に皺を寄せて唸る相方。ほんっとーに弱いな、お前は。それに俺のプリンを食べ損ねただけでそこまでむくれることもないとは思うが、こいつにとってはたぶん「また負けた」ということの方が問題なんだろう。俺のプリンまで食おうなどと意地汚いことを考えるからそうなるんだ。
 ふるふると頭を振ったかと思うと眉間に手をやり、大きくため息をついて。
「やむを得ん、プリンは諦めよう‥‥無念だ」
 何か勘違いをしているな、このいやしんぼスフィンクスめ。
「アホ。賭に負けたんだからお前の賭けたものは俺のもんだぞ」
 冷厳な現実をそのまま言葉に出すと、スフィ子はがばっと振り向いた。形の良いおっぱいがぷるんっと弾むのが、薄いTシャツごしに見える。うーん、アホだが良い乳だ。
「アホとはなんだアホとは! ‥‥いや‥‥えっと‥‥あれ、何を賭けたか記憶に――」
 俺の肩をつかんでくってかかったかと思うと、自分の立場を思い出してか視線が泳ぎ始める。肩に乗った腕を掴んでぐいっと引き寄せ、額がくっつきそうなまでに顔を寄せて――
「『私は私のすべてを賭けよう!』とかいってポーズを付けてたよなあ?」
「あ、あれはその‥‥言葉の綾というやつで‥‥いや、ま、待て‥‥あーれー! ご無体なっ!」
「ええぃやかましいっ!」
 脇に手を突っ込み、暴れるスフィ子をベッドに押さえ込む。こちとらお色気ゲームでなんだかむらむら来てるってのに、無防備にノーブラでいるからこうなるのだっ。って、痛い痛い痛い!! 猫キックはやめろ!!
「ぬ、ぬしはケダモノかっ! こんな昼間から――んむぅっ!?」
 手っ取り早く黙らせるにはこれに限る、とばかりに唇を奪う。みずみずしい唇を舌で割り、しつこく抵抗する歯列をくすぐってやる。歯肉をちろちろと嬲ると、小さな吐息とともにあっさりとあごの力が抜ける。なだれ込む俺の舌をスフィ子の舌が迎えてくるので、それと丁寧な挨拶を。上あごの裏をついっと舐めると、肩に突っ張っていた手がひくっと震える。味噌煎餅の味が残っているのがなんとも色気に欠けるが、それはあえて気にしない。
 甘えてくる舌を優しく構ってやると、形だけの抵抗を見せていた手足が徐々に弛緩し、俺の体に絡みついてくる。その体をベッドに押しつけ、そして一端唇を離す。溢れた唾液がとろり、と垂れた。
「‥‥あ‥‥」
 半開きの唇から、惚けたような吐息がもれた。
「賭けたモノが何だったか、思い出したか?」
 意地悪い俺の問いかけに、スフィ子は頬をほんのりと桜色に染め、こくり、とうなずいた。

* * *

「はむ‥‥ん、ふぅ‥‥。ここ‥‥か‥‥?」
 自分の立場を理解してからのスフィ子は、驚くほど素直になった。‥‥単にスイッチが入っただけかもしれない。俺のチンポを頬張りながら、上目遣いに視線を投げかけてくる。
「そう、そこ‥‥くびれてるところを、舌先で‥‥っ」
 言葉の意味を完全に理解しながら、桃色の肉がちろちろと動く。あまりの的確さに思わず腰が疼く。
「おまえ‥‥っ、『こっち』の覚えは本当に良いよな‥‥。っつ、うぁ‥‥」
「ぷはっ、んんっ‥‥。私は物覚えが良いんだ、『こっちだけ』みたいな言い方をするな。‥‥ぁ、はぅ‥‥」
「ゲームの操作はいつまでたってもボタン連打のくせに‥‥って、そこ、やば‥‥!」
 ちろちろと動いていた舌がスピードを増す。モノを大きくくわえ込み、口内の粘膜を使って亀頭を責め、同時に舌が裏筋を刺激する。青い瞳には挑発的な光。「ふふん」という声が聞こえてきそうな表情が異様に色っぽい。‥‥ツボを教えすぎた、かも‥‥!
「っ‥‥出‥‥る‥‥っ!!」

*

「んっ‥‥」
 こくん、と小さく喉を鳴らすと、スフィ子は顔を上げた。口の端から溢れた汁が一滴こぼれたが、それも指先で掬って舐め取る。こんなことを教えた覚えはないのに、見せつけるようにして――いや、間違いなく見せつけている。
「ふふっ‥‥。相変わらず大した量だ、何か精力剤でも飲んでいるのか?」
「バカ、そんな歳じゃねぇよ」
 金髪をくしゃっと掻き上げてやり、頬にキス。
「そうか、だがまだ出したりないのだろう? このケダモノめ」
 悪戯っぽく笑ってそう言うと隣に腰掛け、俺の背中に腕を回し、つうっと指先で背筋をなぞる。俺もそれに応えて、Tシャツの下から手を差し入れ、お椀型の胸をすくい上げるように揉んでやる。
「嬉しそうにチンポ頬張って、言われもしないのに精液飲み干して、どっちがケダモノだよ」
「道理だ」
 普段のアホさからは想像もつかないほど艶のある笑みを浮かべ、唇を軽く重ねてくる。甘い香りの髪が顔に触れる。ベッドにもつれ込み、絡まり合う。右手では背中から生える鷲の翼ごと抱きしめ、左手では黄金色の毛皮に覆われた下半身をまさぐる。甘い吐息が耳に触れる。
「愛撫‥‥要るか?」
 ぷんぷんと漂う雌の匂いは、今すぐにでも俺を迎えられると主張している。それでも訊いてみると、
「必要かどうか、という意味なら必要ない。でも――」
 言葉を切り、気だるい喘ぎを交えた吐息が耳を打つ。俺の背に回した肉球つきの手、その指先からきゅっと爪を出し、
「愛撫してくれるというなら‥‥ぜひ頼む」
 妙に理屈っぽい物言いのおねだり。返事の代わりに額へキスを落とすと、俺は彼女をベッドの上で四つんばいにさせ、高く突き出された尻を両手で鷲づかみにした。

 黄金色の毛皮に覆われたスフィンクスの尻は、ライオンのものだ。もちろん、そこから生える尻尾も、きゅっとすぼまった尻の穴も、愛液を垂らす性器も。だがそれは――俺はライオンの尻なんてまじまじと見たことはないが――妙に人間的というか、やたらと色っぽいラインを描いている。もしかするとライオンそのものではなく、人間の要素もいくらか混ざっているのかも知れない。そうでないなら、俺がここまで魅力を感じるはずがない。‥‥も、もちろん、こいつと出合う前も後も、ライオンや猫に欲情することなんて無いぞ。
 たっぷり鑑賞して楽しんだ後、おもむろに尻尾を掴んで持ち上げる。期待にひくつくアナルを指先で軽くつつくと、かみ殺した吐息が漏れる。短い黄褐色の毛に覆われた土手を指先で左右に広げると、ピンク色の秘穴が露わになった。
「‥‥俺、お前に何かしたっけ?」
 思わずそう言ってしまうほどだった。むにっと広げた瞬間、ぽたぽたと透明の液体がしたたり落ちた。淫液と獣の匂いが混じり合った、強烈なフェロモン。それは溢れ落ちてからもつぎつぎに湧きだし、こぼれてゆく。内側の花びらが身をよじるたびに、たっぷりと湛えられた愛液が浸みだし、溢れる。
「い、いつまで、眺めている気だ‥‥は、早く‥‥――くぁあっ!」
 花びらに触れそうなまでに顔を近づけ、息を吹きかける。びくん、と尻尾の先が跳ねる。断続的に息を何度も吹くと、そのたびにびくんびくんと尻尾が跳ねる。息の流れに乗って、淫臭が漂ってくる。‥‥こいつの体臭、何か含まれてるんだろうか。匂いが鼻孔をくすぐるたびに、股間が疼く。
「は、ぁひっ‥‥、息、で、吹くのは、っ‥‥愛撫じゃない、だろう‥‥っ、や、約束が――うぁあっ! っく、あう、ああぁっ!!」
 しっかり悶えてるくせに注文の多い奴だ。文句が終わらないうちに、うるさいとばかりに入り口に吸い付く。甘酸っぱい蜜が顔中に付くのも気にせず、割れ目に顔を押しつけて舐めまくる。じゅじゅぅっ、じゅるるっと思い切り大きな音を立てて吸い、舐めてやる。こうすればこいつは腰を押しつけて鳴きまくる。いい声だ。
「うあ、あぁあ、っく、ひぃいっ!! ――ゆ、指は、やめっ‥‥ああぁあ、あぅううっ!!」
「もっと鳴けよ」
 指先を差し込み、軽く曲げて手前の肉壁を擦ってやる。びんびんになった雌核も弾いて、秘裂の周りにキスを隙間なく落とし、そして舐める。あふれかえる蜜でぐちゃぐちゃと派手な音を立て、その音と匂いが俺と淫乱スフィンクスをますます追い詰める。
「すごい匂いだな‥‥この淫乱。体臭の始末はしてるのか?」
 手で思い切りかき回しながら、背中越しに耳元で囁いてやる。と、真っ赤に染まった顔を振り向かせ、
「だ、誰が、淫乱――あぐうぅううっ!! あはぁっ、あぁっ!」
「匂いについては異議なしか?」
「う、うるさ‥‥っく、やめっ‥‥イく‥‥‥ぅっ!!!」
 ベッドにしがみつき腰を突き上げて、スフィ子がくぐもった呻きを上げる。同時に、透明の液体がぶしゅっと溢れ、俺の腕をずぶ濡れにした。

 肩で息をしながらベッドに突っ伏す彼女。その髪を撫でて、耳にキス。
「ずいぶん派手にイったなー、お前」
「‥‥あふっ‥‥ぁっ、はぅ‥‥」
 息が落ち着かないらしい。かわいいやつだ。
「予告なく潮を吹きやがって‥‥シーツがびしょびしょじゃないか。それにしても強烈だな、この匂いは」
「‥‥匂い匂いと言うな‥‥。――そんなに臭いか、私は‥‥?」
 眉間に寄った皺は余韻のせいか、不満のせいか。髪をふるふると振り、なんとか腕をついて体を起こしながらスフィ子は低い声でつぶやいた。その唇を軽く塞いで、そして上半身を抱き起こす。こりこりになった乳首を汗で蒸れたTシャツ越しにつまむと、んっ、という短い喘ぎが漏れた。
「俺は『匂う』とは言ったが『臭い』と言った覚えはないぞ。――いい匂いだ。たまらない。チンポにびりびり響く匂いだ」
「‥‥この‥‥ケダモノめ‥‥っ」
「お互い様だろ」
 眉間の皺はそのままに、口元を笑みにゆがめてみせる。抱き起こした体を改めて仰向けに押し倒し、俺は本格的に襲いかかった。

* *

 家の前をちり紙交換の軽トラックが通ってゆく。かと思えば、今度は竿竹屋。さらにわらび餅。‥‥いいかげんにしやがれ、気分が削がれることおびただしい。
「苛つくな、こんな時間に、している方が、っ、ぁふっ‥‥悪いんだ‥‥あぅっ‥‥」
 俺の首に腕を絡めながら、耳元でつまらないことを言う。お前は業者の回し者か、とばかりに腰を押し込むと、奥歯を食い締めて喘ぎをかみ殺す。
「俺に合わせて腰を振ってるくせに‥‥っ」
「うっ、あうっ、‥‥っ、くはっ‥‥そう、だ、な‥‥っ」
 切なげに眉をゆがめ、またしても俺の背中にしがみつく。柔らかい肉球と、尖った爪が背中に二種類の感触を与えてくる。それに応えて、俺は左腕でスフィ子の頭を強く抱きしめ、右手で胸をこねくり回す。Tシャツは着せたままだ。その方がケダモノな俺たちには似合ってる。
「あ、あぁ‥‥っ、ぬしが‥‥奥ま‥‥で‥‥! んあっ‥‥っ‥‥っ!!」
「っ!!」
 くぐもった呻きを詰まらせ、彼女は大きく震えた。ぐちゅぐちゅに濡れた肉洞が、不規則にうねる。俺も歯を食いしばり、その刺激を何とかやりすごす。――背中には爪の食い込んだ後が痛いが、後まわしだ。一旦チンポを引き抜き、がくがく震えるスフィンクスを四つんばいに――そう、ギザのピラミッド前と同じポーズだ――にさせ、尻だけを上げさせて、そこへ襲いかかる。亀頭の先で濡れそぼる割れ目をくちくちといじるのもそこそこに、ゆっくりと、でも体重を掛けて一気に陥落させる。

 ずぶんっ。
「くああっ!!」
 根元までノンストップで撃ち込まれ、スフィ子は大きく喘いだ。どちらかといえば控えめに喘ぐこいつだが、こうやって一度口を開けさせればうるさいぐらいに悶える。真っ昼間だが、今日も思い切り鳴かせてやろう。
「はあぁっ、っく、ああっ!! ふ、深‥‥いっ‥‥!! んあぅううっ!!」
 背中の翼をびくんびくんと跳ね上げる。無理な力を掛けないように注意しながら、その根元を掴んで、犯す。
「羽根、痛かったら‥‥すぐに言えよ‥‥っ」
「だ、大丈夫、だ‥‥うあああっ! あはぁっ、っく、あ、ひぃいっ!!」
 幸い、見た目より頑丈にできているらしい。翼の根元を掴んで上体を引き起こし、突きまくる。そうすればこいつは喜ぶ。こんなふうに。
「ああ、ああああっ!! っだ、だめ、だめだ、もう――っ!!」
「痛いか?」
「違、う、‥‥し、子宮‥‥っ、ああっ、く、狂う‥‥っ!!」
 じゃ、遠慮なしだ。限界寸前のスフィ子をベッドに押しつけ、仕上げの準備を手早く進める。腰はもちろんリズムを付けて打ちつけながら。
 まず、尻尾の先、黒い房の手前を口に咥える。そして右手で腰を押さえ込みながら、左手は両翼の間、くぼんだところで待機。
「はぁっ、あうっ、っく、すごい‥‥奥も‥‥手前も、えぐれて‥‥っ!!」
 純白の翼、その先がひくひくと震え始める。あと、ほんの少しだ。ストロークは大きめに、だがリズムはできるだけ早く。激しい攻めに声がますます甘く、蕩けてゆく。
「あぁ、ああっ、っく、も、もう‥‥っ!!」
 いやいやと言うように首を左右に振りたくる。今だ。――尻尾を噛む。両翼の間をまさぐる。
「んあああっ!? そ、そこ、は‥‥っ!!」
 跳ね上がる喘ぎ、暴れる翼。巻き起こる風が金髪を靡かせる。よがり狂う神話の怪物を見つめながら、突く。思いきり深く、そして早く。突く。突いて突いて突きまくる。
「あああっ、だめ、だめだめだめっ‥‥っく、あああああっ、ぁっぁああっ!!!」
 熱い淫肉が、震えながら俺を抱きしめ――俺は嫌になるほどたっぷりと、その中へ放った。

* *

「っく、はぅ‥‥ああ‥‥」
 突っ伏していたスフィ子が、気だるげに寝返りを打った。綺麗な髪が汗で顔や首筋に張り付いている。それを指先で面倒そうに払い、ゆっくりと息をつく。見れば、Tシャツも汗でぐっしょりと濡れ、華やかな色の乳首が透けている。その胸が荒い息に上下する。しばしうつむいて額を手で支えていたが、汗を手の甲で軽く拭うとようやく視線を上げた。
「‥‥ん‥‥、どうした、ぬしよ。‥‥へ?」
 俺が差し出した物に間の抜けた声を出す。
「プリン。いらないのか?」
 甘くてきめの細かいそれをスプーンで味わいながら訊くと、スフィ子はまだ間の抜けた顔で俺とプリンを交互に見る。
「‥‥くれるのか?」
「ああ、二つ買ってあったし。ふふふ、一個は隠してあったからな」
 その言葉が耳に届いた瞬間、
「――だったらこの勝負はなんだったんだっ!!」
 なんだなんだ、急に元気になったな。
「いいじゃないか、セックスは嫌いじゃないだろ?」
「それは‥‥その、まあ‥‥。って、話をはぐらかすな!」
「人の菓子を片っ端から食う奴に、駆け引きなしでやるかよ。――で、いらないなら二個とも俺が食うぞ?」
「異存はないので頂きます」
 根性なしめ。

*

「‥‥ぬしには勝てた試しがないな」
 プリンを妙に大切そうにつつきながら、スフィ子がつぶやいた。
「‥‥何が」
「勝負全般だ。ゲームは‥‥説明書をちゃんと読めば私でも当然勝てるはずだが――」
「いや、無理だから」
「話の腰を折るな! ――駆け引きも‥‥ベッドの上でも‥‥な?」
 なんだか艶っぽい目で俺を見ながら、しなだれかかってくる。アホのくせになんだこの色気は‥‥くそっ。あんまりこの雰囲気に乗せられていると体力的に厳しいものがあるので、ここはちょっとはぐらかさねば。
「‥‥じゃあ、お前の得意分野でやってみろよ。謎々とか」
 ふむ、と小首をかしげ、何故かより一層俺に絡みついてくる。肉球付きの指先を股間にまとわりつかせ――
「‥‥では――入れるときはビンビンに硬くて、出す時はふにゃっと柔らかいものは‥‥何だ?」
「ガム」
「‥‥せっかく仕入れたネタなのに‥‥」
 分かりやすすぎるんだよ、お前は。

(終)

珍しく神話ネタを混ぜてみたのですが,あまりうまくいかなかった気配。

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