超特殊浴場物語

 やたらと物腰柔らかな店員に案内され、俺はその建物に足を踏み入れた。床には赤い絨毯が敷き詰められ、室内を照らすのはシャンデリア風の照明。高級感といえばその通りだが、もちろんそれだけ儲けているという証拠だ。
 入り口近くのカウンターで店名の入ったカードを見せ、総額ということで何枚かの諭吉さんを渡す。帰ってきたのはわずかな英世くんだった。ああ、今月の生活は一段と貧しくなるな‥‥。

 予約の時間まではまだいくらかある。大画面テレビをぼんやりと眺めながら、俺は自分の妙な運――運命、なんていうほど大仰なもんじゃないが――を改めて認識していた。
 デリヘルの誤配、って時点で普通じゃなかった。そのままお楽しみ、ってのも普通じゃない。さらにはその業者がソープ店を開いていて、そこの常連になるなんてのはそれこそ普通じゃない。待合室で見かける他の客はそれなりに金を持ってそうな連中なのに、俺だけ貧相な身なりの大学生ときては、意識しなくてもその妙な運――金運的には最悪だが――を実感するのもしかたない。
 しかし今日から、俺は栄えある「VIP」だ。VIPになるには何度も通って店のなじみになるだけじゃなく、他のVIP会員からの推薦を得なければならない。推薦については、この店を教えてくれた人物に頼めばどうにでもなるとはいえ、「高級ソープでなじみの客になる」ってのがどれだけの出費だったかはあまり思い出したくない。何単位がバイトの犠牲になったことか‥‥。ともあれ、そんなわけで、VIP以外には秘密になっている「裏」のコースを今日、初めて味わえる。‥‥要するに、俺がここの客になる原因になった女の子にようやく会えるってことだ。何度も坐っているはずの待合室も、なんだか椅子のクッションが固いように感じてしまい、自分の緊張度合いに我ながら驚いた。
 テレビの向こうでは売り出し中のお笑い芸人がどたばたやっているが、あいにく俺の趣味じゃない。置いてあった男性週刊誌のページを漫然とめくりながらお茶をすすっていると、不意に店員の声が響いた。

* * *

「はじめまして、しずくです。よろしくお願いしますね」
 落ち着いていながらも華やかな声が、俺に挨拶した。
「あ‥‥えと、こちらこそ」
 ぎこちなく挨拶を返し、しずくさんと手をつないで階段を下りてゆく。体温が低めなのか、少しひんやりした柔らかい手が気持ちいい。
 VIP以外の普通のコースなら手前の階段を上に上がるんだけど――こっちにも通路があったとは。いや、そんなことはどーでもいい。こりゃどういうことだ。店の手違いか? この女の子も確かに美人だけど、俺が予約を入れた子じゃない気がする。チェンジってのも悪いし‥‥ちょっと鎌を掛けてみようか。
「前に会った、よね?」
「うふふっ、そうでしたっけ?」
 意味ありげに微笑み返すしずくさん。黒いミディアムドレスの胸元からは谷間が覗き、甘い香りが漂う。うーん‥‥確かに声は似てる‥‥? 頭を悩ませている内に階段を下り、通路に出る。いくつもの扉が並ぶ中を歩き、そして一つのドアの前まで手を引くと、彼女はおもむろにその中へと案内した。
 ぼんやりとした暗めの照明、化粧台、ベッド、風呂。たしかにどれも普通のコースで案内される部屋よりも数段上等だ。くるくると視線を向けていると、背後でぱたんと扉が閉まり――その刹那。
「やっぱりここにいらしたわねっわたくしとの熱いひとときが忘れられなかったんでしょう当然ですわ、ほほほほほ!」
「うわっ!?」
 こ、この声はっ。聞き覚えのある怒濤のトークに振り返る。立っているのはやはりさっきのしずくさん。だけど――
 どろり。その顔が、崩れた。表面が溶けるかのように、人肌の色をしていた表皮が歪み、そして下へと滑る。かわいらしかった顔が溶け、流れ、崩れ去り‥‥その下からは不定形の半液体が姿を現した。と、見えたのもつかの間、その液体は見る間に新たな姿を取りはじめた。音も立てずに半透明の流動体が動き、新たに顔を作り出してゆく。そしてそれは、あっという間に別人の顔になっていた。さっきまでの顔はおっとりとした雰囲気だったが、いまや自信満々のおねーさん顔だ。うん、こいつだこいつ。見覚えあるぞ、この顔といいさっきの声といい。
 ――ならば遠慮は不要ッ。びしっと指を差し、
「出たな怪人ゼリー女!」
「な、なんですって!? スライムですわ、スライム!! 初対面の時はいきなりマドハ○ド呼ばわりしたかと思ったら今度はゼリー女だなんて失礼にも程がありますわあなたごときの豆腐でできたような脳みそでは区別なんてつかないかもしれませんけれど女性に対してもう少しデリカシーというものが必要ではありませんこと!?」
 と、豆腐‥‥客に対するデリカシーも要ると思うぞ、俺は。
「確かにこの前はわたくしの勘違いでしたけれどもそれでもあなたのような野郎に怪人呼ばわりされるいわれはなくってよだいたいせっかくの再会だというのにもう少し雰囲気のある言葉はありませんの!?」
「いや‥‥まあ、その‥‥ごめん、調子に乗りすぎた。でもいまの変身、みんな怖がらないか?」
「あら、わたくしを指名してくださるお客様はみなさんこういう趣向がお好きですけど」
 ‥‥世の中、変態ばっかりだと言うことはよく分かった。まあ‥‥「人間以外の女性」と楽しめる、という特典をわざわざ求める連中が出入りする店なんだから、いわば「VIP=変態」なんだけどな。俺を含めて。

 色気がないにもほどがある立ち話もそこそこに、彼女は優雅な所作――たしかに振舞い自体は上品に見えるんだよな――で俺に近づくと、半透明の腕をすうっと俺の首に絡め、そしてくすりと笑った。
「スライムにしかできないこと、その快楽‥‥虜になってしまったのでしょう? うふふ、わたくしがもう一度あの快楽を味わわせてさしあげますわ」
 つややかな声、妖しい微笑。ハイテンションな言動から一気に「女」の振る舞いになるその変化は、以前に一度味わったとはいえやっぱりあまりに急激で、俺の脳みそは対応に苦慮している。そんな顔を見てか彼女はもう一度くすっと笑い、顔を少し傾けて――。
「ん‥‥ん‥‥っ」
 彼女が触れた。スライム、という俺の理解を超えた存在――その彼女の「唇」が、俺の唇に触れる。人間とするのと変わらない行為、それをひんやりとしたゲル状のものが行う。水饅頭のようにやわらかい唇が触れ、吸い付き‥‥互いに舌を絡め合う。と、その舌がじゅるりと変化した。俺の舌を包み込むようにして、もみほぐし、絡め取り、それでいながらあごの裏や歯茎をにゅるにゅると這い回る。そしてさらに、粘膜という粘膜に彼女が吸い付き、キスを落としてゆく。うあ‥‥こいつの‥‥キスって‥‥!
 信じられないほど複雑な口づけに翻弄されるまま、夢中で彼女の身体を抱きしめる。ひやりと冷たい表面が心地良いが、そんな感触に浸らせてくれるような女じゃない。情けないほどいきり立ったモノをいとも簡単に取り出すと片手でそれを握りしめ、ゆっくりとしごき始めた。
「ぷはっ‥‥、ち、ちょ‥‥っ、待って‥‥!」
「ふふっ、どうなさったの? ――あら、もしかしてもうお出しになるのかしら。キスに翻弄されたあげく、手先だけの技で? んふふっ、それもいいかも知れませんわよ‥‥ほら‥‥!」
 指先だけをそこに這わせる。握っているわけじゃない。でもその先端が触れるたびに、小さな唇に甘噛みされているような感触が次々に襲いかかってくる。かと思えば、ぎゅっとからみつき、細かく震えるような振動を与えつつ前後にしごきあげて――!
「ま、待っ、ぁ、――出るっ‥‥!」
 下半身が限界に近いのを伝えた次の瞬間、その興奮はあっさりとボーダーラインを越えた。ぱんぱんに張り詰めた肉棒がびくんびくんと跳ね上がり、白い液体を彼女の手の中へとまき散らす。しずくは半透明の指越しにそれを見せつけ、得意げに微笑んだ。
「ふふっ‥‥わたくしの手コキ、いかが?」
「‥‥良かった‥‥けど‥‥ううっ」
 気持ちよかった。それは間違いない。こいつの手コキは手でされているような感触じゃないから、普通の手が味わわせてくれる感覚と同列に扱うわけにはいかないくらいの快感だ。でもな、この店は二発が限度なんだよ! ふ、フェラもしてもらってないのに‥‥。
「うふふっ、そんな情けない顔をなさらないで。VIPコースは何度でも出していただいて構いませんわよ」
 そ、そうなのか。‥‥我ながら簡単に気分が上下するものだと思う――けど、常人に「何発でも」と言われても体力と時間の関係から見て二、三回が限度じゃないのか? でもまあそれなりに気休めにはなった。頑張るぜっ。
 表情の変化を見てだろう、しずくは雰囲気たっぷりの笑みを浮かべ、
「それにしても相変わらず濃い精子ですわね‥‥わたくしの体よりも粘っこいんじゃありませんこと? うふっ、深い味ですわ‥‥んっ‥‥」
 お椀のように形作った手の中に、俺の汁が溜まっている。それを手の中に握り込んで見せたかと思うと、白かったはずの液体は見る間に薄らぎ、消えていった。そういえば以前もこういう現象を見たよな‥‥。
「殿方の精液はエネルギーに満ちてますの。わたくしのような者にとっては他の何よりも効率的な食料ですのよ‥‥だからこうして‥‥いただきますの‥‥んっ‥‥あ、ふふっ‥‥美味しいのをいただいたからかしら、体が少し熱くなってきましたわ」
 興味深げな視線を察してか、彼女は俺をベッドに誘いながら説明してくれた。なるほど‥‥そういうものか、と感心するほかない。に、しても‥‥こいつ‥‥エロいな‥‥。
 放っておくと明後日の方向にずれた話題を鉄砲水のような勢いでぶちかましてくれるくせに、いざこういう場面になるととたんに別人(?)のようになる。色香たっぷりの仕草、声。男の劣情をかき立てるような、優雅でいながら淫らな動作。まさに高級娼婦、といった雰囲気だ。
 俺をベッドの上に寝かせると俺の体にもたれるように寄り添い、萎え気味の股間のものをゆっくりとしごく。形の良い胸を俺にこすりつけながら、時には首筋や唇をついばむ。
「‥‥気持ち‥‥いいよ」
「うふふっ‥‥。さっきたっぷりお出しになったから、少し休憩が必要かも知れませんわね」
 しずくはそう言って俺の唇にちゅっとキスを落とすと、おもむろにベッドから立ち上がった。
「――何かお飲みになる?」

* * *

 冷たいジュースで喉を潤しながら、しばし無駄話に興じたあと。軽く体を洗ってもらい、いざ風呂へ。頭を縁に預け、脚をだらんと伸ばしてゆったり漬かっていると――
「熱くはありません?」
「大丈夫、ちょうどいいよ」
 律儀に声を掛けると、たぽん、と音を立ててしずくが浴槽に入ってきた。
「‥‥溶けないの?」
「‥‥溶けられますけど、その方がお好み?」
「いやそういうわけじゃ」
 小首をかしげてごく自然に問い返されるとは思ってなかった。っていうか、言ってみただけで実際に溶けられてもどうしようもない。やっぱり美人さんの姿でないと。
「‥‥でもなんかこのお湯、ちょっとぬるっとしてない? とろみがあるっていうか――」
「わたくしが溶けているからに決まっているでしょう自分で聞いておきながら何を言ってらっしゃるのまったく困った方――」
「いや、だから溶けなくていいって――」
『最初から溶けてたんですもの、しかたありませんわ』
「え‥‥?」
 にやっと笑ったその言葉は、妙にエコーが掛かっていた――と思ったとたん。
「――うわっ!?」
「うふふっ、驚かれました?」
 その言葉は斜め後ろから聞こえた。振り向くとそこにはスライム美人。待て、落ち着け俺。さっき正面にいたはず――確かにいる。ふ、増えた‥‥。
「そんなに驚かなくても‥‥」
「いいんじゃありませんこと?」
「めいっぱい」「感じさせて」「差し上げますわ‥‥」
 驚く俺の周囲で次々に声がわき起こる。さすがにこれはちょっと怖――!?
「うふふ‥‥つかまえたっ」
 さすがにやりすぎだろ、と言おうとした瞬間――背後から現れた新手に抱きしめられた。それを合図に、周囲の「しずくたち」が一斉に襲いかかってくる。なすすべもなく押し倒され、唇をふさがれる。同時に体中に彼女のサービスが加えられる。腕を掴み、胸を揉ませる奴。乳首を舐める奴。お湯の中で脚を持ち上げ、それを全身で愛撫する奴。手足の指は咥えられ、舐められ、甘噛みされる。視線を巡らせても、どこを見てもしずくしか目に入らない。ここまでスライムまみれだと、一体どこまでがしずくの形をしての行為なのか全く分からないが、全身が一分の隙もなく愛撫されてゆく。
「ぷはっ‥‥ぁ、す‥‥ご‥‥」
 思わず声が漏れる。それを見てしずくは嬉しそうに笑い、愛撫の激しさを増してゆく。裏筋を揉み、ついばむような感触が襲いかかる――かと思うと、同時に亀頭の先端を舌がてろてろと嬲り、吸い付くようなキスがペニスの竿や亀頭、カリに次々に、あるいは同時に襲いかかる。さっきまで少し疲れ気味だったとは思えないほどそこは張り詰め、自分でも分かるほど熱を蓄えている。
 その間も休むことなく、俺の全身はスライムに半ば埋もれるようにして愛撫されている。半透明の美貌が顔中にキスを落とし、首筋を舐め上げ、お椀型の乳房が俺の胸板を巧みに刺激する。

「ふふ‥‥カチカチになってきましたわ‥‥。そろそろ、いただきますわね‥‥」
 熱っぽい声が耳元で囁く――返事も待たずに、亀頭の先に彼女の体がぐっと押し当てられるのを感じた。
――ずぷ‥‥っ。
「んあっ‥‥ぁんっ‥‥」
「くぁ‥‥っ!」
 表面を突き抜ける感覚が届いた瞬間、強烈な快感が脳髄を走る。
「あふっ‥‥熱い、ですわ‥‥」
「っく、そん、な、締める‥‥なって‥‥!」
 しずくの「中」は、俺のモノを取り込むと同時にぐちゅぐちゅと揉みしだき始めた。しごき、撫で、吸い――ひねりやうねりを加えたその動きは、俺の知っているあらゆる感覚と異なるものだ。そして――彼女の内側は、熱い。表面はつるりとしてむしろひんやりとしているのに、その内側は想像も付かないほど熱く、激しい。何重にも締め付けられ、抱きしめられているチンポが彼女の体ごしに透けて見える。持ち主である俺さえ見たこともないほど、それはガチガチに反り返っている。
 じゅるじゅると吸われ、嬲られるたびに、こらえきれないほどの電流が下腹部から脳髄へ走り抜ける。‥‥さっき手コキで一発出してなけりゃ、とっくにぶちまけているだろう。
 股間を食い尽くさんばかりの快感に堪えてはいても、体中に加えられる刺激は弱まるどころか激しくなる一方だ。体が沈まないように支えられ、それでいながら乳首をいじられ、首筋を舐められ、指の一本一本まで愛撫され――何人ものしずくに、俺の体は隙間なく犯し尽くされてゆく‥‥。

 * * *

 ぬぷっ、ずぷっ、じゅるっ‥‥。
 粘液の音と、俺の荒い息、そしてしずくの甘い声。手近にいた彼女の一人を抱き寄せ、唇を味わいながら。理性では到底信じられないような快感に溺れ、朦朧とする快楽に身をゆだねていると――俺のチンポを体の内に取り込んで貪っているしずくが、唇を開いた。
「あんっ、はぅ‥‥っ、ねぇ、もっと、わたくしも、感じさせてくださいな‥‥以前の、ように‥‥っ」
 腰を動かすこともなく激しくペニスを絞りながら、恨めしそうな声を漏らし――俺の手を掴むと、それを胸元に導いた。――そうか‥‥。
「こう、か?」
 人間の胸を揉むように、彼女のそれを揉む。だが反応はあまりない。――知ってるよ、どうすれば感じるのか。
「こう、だろ?」
「っっ!」
 胸を掴んでいた指先に、一気に力を込める。表面を突き抜け、その指先は彼女の体の中へと潜り込んだ。そしてその瞬間、彼女の体が震えた。
「は、あぁあっ、いい、ですわ‥‥っ! もっと、かき回してくださ――あっぁあっ!!」
 腰の上でしずくは喘いだ。彼女の求めに応じ、腕を動かす。肘まで一気に突き入れ、ぐちゃぐちゃという音を立ててしずくの体をかき回す。腕を、チンポを取り巻く温度が跳ね上がる。
「あふっ、は、っく、いい、いい‥‥っ!! もっと、して、くだ、さ、い‥‥!!」
 俺の体に倒れ込むように、すがりついてくる。快楽は分身にも伝わるのか、乳首や玉を愛撫していたしずくたちは身体を震わせたかと思うと、どろりととろけてゆく。俺の身体を支えていた力も弱くなり、もう風呂の中で対面座位でやっているような体勢だ。ぷるぷるとした腕が俺の首に絡められ、きれいな形の唇が、俺の口に重ねられる。遠慮なくその唇を貪りながら、絶えずしずくの中で手を動かす。大きく、勢い良く動かすたびに彼女はびくびくと震え、それは俺のチンポへの刺激となって――。
「あ、あ、だ、だめ、ですわ‥‥っ、こん、な、わたくし、ばかりが‥‥あぁっ、夢中に、なって‥‥いては‥‥ぁっ!!」
 プロとしての意地なのか、体を起こして何とか主導権を回復しようとするしずく。ふっふっふ、そうは行くかっ、このままイかせて――
 じゅるぅっ‥‥!
「くぉぁっ‥‥!! ま、待って、それはっ‥‥!!」
 焼け付くような刺激がペニスの中を走り抜ける。熱い彼女が、鈴口をいとも簡単に突破し、尿道をさかのぼって‥‥っ!!
「や、ちょっ‥‥、マジで、や、やめっ‥‥!!」
「あはぁっ! いい、いいですわ、もっとぉ‥‥っ!」
 陶然と悶えながら、しずくの責めはますます苛烈になっていく。尿道の中で彼女の体が暴れ回り、湧き上がる先走りを吸い尽くすかのように蠕動する。一秒でも早く精液を吐かせようと、絞り上げるように外側も内側も蹂躙される。尿道を奥へ奥へとさかのぼってくる感覚、会陰部をぐりぐりと責める刺激――!
「ぐ‥‥ぁ‥‥っ!」
「あぅ、ひぃ‥‥い、い‥‥っ!」
 彼女をどうにかしようとして手を動かすと、それは完全に裏目に出て、凄まじいまでの蠕動、そして尿道の中でのうねりとなって――! 堕ち‥‥る‥‥!!
「あ、あ、くぁ‥‥っ!!」
 ぐちゅっ――ぬぷんっ!
「んあぅっ‥‥!!!」
 突っ張ろうとした腕が、彼女の体を突き抜ける。声にならない嬌声が響き、俺に渦巻く沸騰が極限を超え――瞬間、視界が――飛んだ。

*

「う‥‥っ」
「はぁん‥‥大丈夫‥‥ですか?」
 目を開けると、顔の前にはとろんと惚けた顔があった。半透明の顔、薄暗い部屋、暖かい風呂‥‥ああ、そうだった。――って、俺は初対面の時に続いてまたしても失神たのかっ。くぅ、勘弁してくれ。
「気持ち‥‥よかったですわ‥‥。わたくしがこんなに感じさせていただいては、立場が逆ですわね‥‥」
 気だるげな眼に柔らかな笑みを浮かべると、彼女はゆっくりと立ち上がり、浴槽から上がる。俺も続いて――
「あれっ‥‥っと‥‥」
 視界が一瞬ぐらりと傾き、あわてて浴槽の縁に捕まる。
「大丈夫ですの!?」
 うん‥‥ただの湯あたりだと思うよ‥‥ははは、格好わりぃ‥‥。

* * *

 にゅるん‥‥にゅるっ、にゅるん。
 マットにうつぶせる俺の上を、柔らかな感触が上下に往復する。しずくが俺の体に舌を這わせたり愛撫したりしながら、全身でマッサージをしてくれている。体重も心地よく、何より体の隅々まで行き渡るローション――いや、彼女自身――が何とも言えないリラックス効果をもたらしてくれる。穏やかな動きと温度に、のぼせていたのも治ってきた。
「ところで‥‥さっきのお風呂でさ――」
 顔を後ろに向けようとしても、体勢の都合上うまくいかない。が、彼女には聞こえているだろうと判断して、言葉を続ける。
「最初から溶けてた、って言ってたけど‥‥あれは?」
 にゅるんっ。
 俺の耳元まで一気に体を滑り上がらせる。そして覆い被さるようにしながら、耳元で彼女が口を開いた。
「水道設備に仕掛けがありますの。そこにわたくしの体をいくらか隠しておいて、お湯と一緒に注いだだけですわ‥‥楽しんでいただけました?」
「そりゃもう‥‥最高」
 語彙の貧しさを痛感するが、掛け値なしに最高だった。それが伝わったのかどうかは分からないが、彼女はふふっと笑う。
 それにしても本当に不思議だ。あまりにも人間――いや、俺が知っていた「生き物」という概念と違いすぎて、その感覚や体のつくりがどうなっているのか、さっぱり想像がつかない。一体どこに意識の本体があるんだろう。物理的に切り離された部分とは、どうやって意識を共有しているんだろう。そもそも、彼女は「生き物」なんだろうか――そんなことさえ脳裏をかすめた。
 でも、そういう謎はあまり意味がないことかもしれない。なんといっても、彼女はこうやって会話が(いちおう)成り立つ存在なんだから。少なくとも、エッチをして「楽しい」「気持ちいい」と互いに思える相手なんだ。そういう風に考えると、彼女の存在そのものに対して感じていた「不思議さ」は、それこそ不思議なほど急速に薄らいでいった。そういう相手なんだ、でいいじゃないか。――第一、成績表に「可」が行列を作っている俺の頭じゃ考えても無駄だし。
「‥‥どうかなさったの?」
 無言になった俺を不審に思ったのか、しずくが耳元に触れんばかりに唇を寄せて訊ねた。
「ううん‥‥きみと会えて、ここで遊べて、俺は幸せだな‥‥って」
 油断していたのかも知れない。あまりに素直に心の中を吐き出してしまい――大失敗だった。
「ま、まあっ! 頭に杏仁豆腐がつまっているのかと思ってましたらなんて素敵なことを不意打ちでおっしゃるのかしらいやだわわたくし本気にしてしまいましてよやっぱり美しすぎるのは罪だったのかしら――」
 ‥‥ムードぶちこわし。
 そろそろ臨戦態勢になりつつあった股間が一気にしぼみ、それを回復させるためにしずくが必死になったのは言うまでもない。

* * *

 二度目のコトを終えて一息ついた頃には、もう時間が間近に迫っていた。なんだかいつになくあっという間だったな。
 ベッドの縁に腰を掛け、氷が溶けてすっかり薄くなったジュースをすすっていると、彼女は鏡に向かったかと思うとずるずると身体と顔を変化させ始めた。そして部屋に入る前の容姿になると、もう一度黒のドレスを身につける。うーん、こうして見ていると本当に普通の女性に見えるよなあ。
「どうしたの? じーっと見つめて」
 口調も変わり、ますます「普通の」女性らしい。
「いやその‥‥なんでその格好に戻るわけ? しゃべり方まで‥‥」
「人間を装わないと万一無関係な方の目に触れたときに困るでしょう? でもあまり長時間は姿を維持できませんけれど。しゃべり方は‥‥その、店のほうから言われてしかたなく、ですわ」
 微妙に地の口調を出しながら、肩をすくめて見せるしずく「さん」。
「わたくしのように高貴で上品な雰囲気があふれていますと周りが気後れするからでしょうけど、無粋ですわね」
 いや、そういう理由じゃないと思う。

 待合室の手前まで送られ、お別れのキスをして――彼女は俺の肩に腕を絡め、囁いた。
「またいらしてね‥‥あなたの精も責め方も、とてもわたくし好みですの‥‥」
 瞬時に変わった声音と、地の顔つき。遅まきながら、俺は今後の生活費がどうなるか不安に駆られ始めていた。

(終)

単発ネタのはずなのに続きが書けてしまいました。スラ娘は何でもできそうですが,私の筆力では手に負えない気もします。

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