召喚

「‥‥ISECHIROS ATHANATOS AGLA AMEN‥‥悪魔よ我に力を!!」
 部屋いっぱいに描かれた六芒星と怪しげな文字。その前でやや小柄な少年がおどろおどろしい響きの呪文を長々と唱え、最後にそう叫んだ。
 ‥‥沈黙。
 ‥‥‥‥沈黙。
 ‥‥‥‥‥‥沈黙。
「だめか‥‥今度こそ本物だと思ったんだけどな‥‥」
 内藤竜司(16)はがっくりと肩を落とした。その手には古色蒼然たる書物。半年前に、家族で中欧へ旅行に行った時、立ち寄ったプラハの古書店で求めたものだった。数ヶ月かけて最低限必要な箇所を解読し、こんどこそ悪魔の召喚を成し遂げられると信じていたのだが。
「はぁ‥‥他の箇所も全部読まなきゃならないのかな‥‥」
 彼はへたり込んだ。高校生らしからぬ童顔には疲労がにじみ、がっくりと落とした肩は失望のほどを雄弁に語っている。
 悪魔の召喚は彼にとって中学生以来の目標である。最初はいいかげんな通俗書のおまじないもどきで満足していたが、執着が昂じて本格的に悪魔召喚を目指すようになったのだ。必死にラテン語を学び、血のにじむような努力のすえギリシャ語さえ首っ引きながらもどうにかこうにか読むようになり、ことあるごとに妙な本を買いあさるようになったし、近頃は怪しげな人物との文通さえしている。おかげで小遣い・バイト代はもちろん、金持ちの親戚に恵まれたはずの彼のお年玉貯金もとうに底を尽いてしまった。
 実は彼の目的は悪魔の力を借りずともどうにかできるようなことだったのだが――こういう努力をする暇があるなら。
「ふぅ‥‥片付けなきゃ。――あれ?」
 ふと気がついた。自分の描いた魔法陣と、本に書かれているそれがほんの少し違うことに。少年が慌てて魔法陣を修正し、再び詠唱にとりかかったのは言うまでもない。

* * *

 部屋の照明が突如消え失せ、闇がすべてを包み込んだ。暗がりに魔法陣が蒼白く浮かび上がり、その中央に闇がわだかまるのが感じられた。少年の足はがくがくと震え、その顔は緊張と喜びでいびつにひきつる。
 凝集する闇が徐々にはっきりと形をつくりはじめた。うずくまる人間のような形をとったかと思うと、それはすぅっと立ち上がる。
「‥‥小さきものよ‥‥我を呼びしは汝か‥‥」
 影は低く唸るような声を発した。少年の身体がびくりと震え、だがそれにより彼は自らのなしたことと、なすべきこととを思い出した。
「あ、悪魔よ、父と、子と、せ、精霊の名において、汝の名を明らかにせよ‥‥!」
「くっくっ‥‥我が名はレギア‥‥昏き快楽と淫欲の使者‥‥」
 悪魔が名乗ると同時に、床の六芒星は青く激しく輝き、その姿をはっきりと映し出した。
 浅黒い肌に漆黒の髪、蝙蝠のような翼。こめかみからは雄牛のような二本の鋭い角が生えている。瞳に紅い光を宿し、薄ら笑いを浮かべた唇からは鋭い牙が覗き、なめらかな曲線に富んだ肢体は、レザーのような素材で要所要所が覆われているだけ。
 ――女だった。

「で、では悪魔レギアよ、汝に命――」
「あん? お断りだよ」
「――!?」
 先ほどまで時代がかった口調で声を発していた悪魔は、いきなりそっけなく断った。
 だが本には「悪魔が言うことを聞いてくれない時は、十字架などで脅してみると良い。ただし必ず成功するとは限らないので自分の責任でどうぞ(訳:内藤竜司)」とあった。気を取り直し、左手に聖書、右手に十字架を持って少年は強い口調で言う。
「悪魔よ、神の御名において命ずる。我が命に従――」
「お断り、って言ってんだろ‥‥。せっかくこっちの世界に出てこれたんだ、ガキのお守りなんてごめんだよ」
 悪魔は両手を組んで大きく伸びをした。薄い衣装から張りのある肉の双球があふれ出そうになる。
「ぼ、僕の命令を聞け!」
「うるさいな」
 ドンッ!!
 何気なく片手をかざしたかと思うと、召喚者は部屋の壁まで吹き飛ばされていた。

「‥‥っぐぅ、うう‥‥――ひっ、そ、そんなっ‥‥!!」
 痛みに歪んでいた顔が凍る。悪魔は魔法陣から、その外へ出つつあった。ブーツに覆われた右脚が、その線から踏み出す。蒼白い光がパリッ、パリッと火花をあげた。脚がその境界を難なく越えると、全身がするりと魔法陣の外へ出る。電光がバリバリと激しくひらめいたが、彼女はそれを意に介さない。結界を兼ねた魔法陣が用なしになった瞬間、照明が明るさを取り戻した。
「ふふふ、どうしたの? 結界を破られたのがそんなにショックかい?」
 悪魔は意地の悪い笑みを浮かべる。
「そんな‥‥そんな‥‥一番強力な結界を張ったはずなのに‥‥」
「ああ、そう。どうりで火花が派手なはずだ。だけどこんなのは術者の能力次第なんだよ、坊や。まぁ坊やが大魔導士だったとしても、あたしを押し込めておけたかどうかは知らないけどね」
 肩をすくめて笑ってみせる。
「ほんとだったら力不足のガキなんて食い殺されても文句は言えないんだよ、そこんとこをわきまえな。‥‥とにかく、呼び出してくれてありがと。じゃあね」
 くるりときびすを返すと、窓を開け放ち、そこから身を乗り出す。黒い翼を広げ――
「ま、待て! 待って!!」
「あん? 何よ。命令は聞かないと言ったでしょ」
「う‥‥ううっ‥‥」
 悔しさに涙がにじむ。せっかく苦労して召喚したのにこのざまとは。
「‥‥泣かれてもねえ‥‥。ふん、まあいいよ。呼び出してくれたお礼だ、言うだけ言ってみな。‥‥聞いてやるかどうかは知らないけど」
 口は悪いが案外気の良い悪魔だった。

 一気に元気を取り戻した少年は、派手な容貌の悪魔に自分の望みを語った。どういうわけか、語れば語るほど女悪魔の顔がゲンナリしたものになってゆく。
「‥‥ってことなんだ。お願い、力を貸して!」
「‥‥はあぁぁぁ‥‥」
 盛大な溜息。
「‥‥やっぱり、だめ、かな‥‥」
「‥‥いや、その‥‥。ええと、つまり、あんたは、惚れた相手を振り向かせるためにあたしを喚んだ、‥‥ってこと?」
「‥‥うん」
 やる気のカケラもない顔で問い返すレギアに、真っ赤な顔でうつむく少年。
「で、もう一回聞くけど、その佐々木まほちゃんだかは深窓の令嬢でもなけりゃ、今をときめく芸能人でもなくて、高校の同じクラスの子、なんだっけ?」
「‥‥‥‥うん」
「竜司」
「はい?」
「このバカ」
「ぐぅっ」
 言われてしまった。内心、こんな努力をするより当たって砕けた方が早いとは気付いていたが、それでも悪魔がこれほど「人間的」だとは思っていなかったから、自分の臆病さを隠したまま願いを叶えることができるかと思っていたのだ。彼としては、コンピュータに命令するような気分だったわけだ。
「‥‥それにしてもこんなガキに、しかも乳臭い恋愛相談でこのレギア様が呼び出されるとはねえ。欲の強さは力に影響を与えるだろうけど、仮にも高級淫魔のあたしがガキに呼び出されるなんざ初めてだよ」
 悪魔はうんざりした調子でぼやく。
「‥‥え? 淫魔‥‥?」
 少し驚いたように魔導士もどきが顔を上げる。
「――愛の渇望をかなえる悪魔じゃないの?」
「ハァ? 最初に言ったろ、『昏き快楽と淫欲の使者』って。愛なんざ管轄外だよ、あたしは」
「そんな‥‥えぇっ? ――も、もしかしてっ!!」
 あわてて魔導書のページをめくる。‥‥あろうことか虫食いのせいでページがくっついていた。かぶりつくように「新たなページ」を読むと、そこにはどうしようもないことが書かれていたのだ。

「ええと‥‥『愛に関するところのものである渇望を、かなえるための悪魔召喚については以上に記したるところの意味するとおりであるが‥‥』」
「ああもう、まどろっこしい読み方してんじゃないよ、あたしに貸しな! んー、『‥‥だけど愛ってのは神サマの野郎が管轄してるから悪魔に頼んでも無理っぽい。だからとりあえず肉体的に愛をかなえる方法を書いといた。楽しませてもらえよ』だってさ。‥‥要するにあたしとヤれ、って書いてあるんじゃない?」
「‥‥な、なんだそれ‥‥」
 竜司は呆然とつぶやいた。
「――ぷっ。っくくく‥‥あっはははははは!! 何やってんのよ坊や。あはははは!! あんたほんとにバカだねー‥‥あーお腹痛い‥‥くっくっ‥‥」
 レギアはしょげかえる背中をばんばんと叩きながら笑い転げる。
 ――が、突如我に返ったように竜司の目を覗き込み、ささやいた。
「ねぇ竜司。あんたの想いは、愛なの? 欲望なの? ‥‥ふふふ、欲望だよねぇ? 悪魔に頼ってでもモノにしようっていうんだから、それこそ強烈な欲望よねぇ?」
 にやにやと笑いながら、ぶっきらぼうな口調がうってかわって、ねっとりと甘く毒々しい声になる。
「その子をどうしたいと思ってたの? 抱きたかったんでしょう? あんたのチンポで、その子のマンコをブチ抜いてやりたかったんでしょう? 貫いて、かき回して、ヒィヒィよがらせて、ドロドロに、めちゃくちゃにしてやりたかったんでしょう?」
「そ、そんな‥‥僕は‥‥!」
 悪魔は獲物を見つけた黒豹のようにじりじりと迫る。竜司は床にへたり込んでずるずると後退するが、赤くらんらんと燃える瞳が、卑猥な言葉を紡ぐ唇が、竜司の心を追いつめ、絡め取ってゆく。
「おねえさんがその想い、かなえてあげようか? あんたの内に渦巻くどろどろした熱情、あたしが解放してあげようか?」
「ちがう! そんなんじゃない!」
 大きくかぶりを振る。
「くっふふふ‥‥嘘ばっかり。じゃあどうしてココはこぉんなにカタいんだろうねぇ?」
 しなやかな指先が少年の股間を襲いかかる。悪魔の妖気にあてられたのか、それとも言葉とは裏腹に、悪魔の言葉と肢体に魅せられたのか、そこは確かに張りつめている。
「っく! ちがう、やめろ‥‥くぅっ!」
 たとえズボン越しであってもうぶな少年が淫魔の指先に勝てようはずもなかったが、早々に声が出る。
「我慢しなくていい‥‥もっと喘いでごらん‥‥。ほら、あんたの欲望の権化はこんなにふくれあがってるよ‥‥ふふふ‥‥きもちいいだろう? 欲望に溺れるのは最高にきもちいいんだよ‥‥。感じるのは恥ずかしいコトじゃない、あたしにすべてをゆだねてしまいなさい‥‥」
 優しく、だが決して母性を感じさせない言葉を紡ぎ続ける。濃色の唇は残酷な笑みを浮かべ、その内には舌が淫らに蠢いているのが見て取れた。
「ああっ、やめろ、やめ‥‥くふあぁっ!」
 涙さえ浮かべて悶える。そして冷たい指先が甘く亀頭をつまんだ瞬間、張りつめてテントを作っていた肉棒が白い粘液を噴出した。びく、びく、と腰が跳ね上がるたびにズボンのシミが大きくなってゆく。
「ほぉら、イッちゃった。きもちよかったんでしょう? いやだとか言いながら、ほんとはおねえさんの指に溺れてたんだよねぇ? ‥‥かわいいよ、坊や。食い殺したくなってくる‥‥ふふ、おいしい」
 ズボンの布目から浸み出してくる粘液を指先ですくいとり、それを見せつけるように唇に運ぶ。強烈な絶頂感からさめやらぬ少年は、悪魔が何を囁いたのかさえ分かっていなかった。だが、焦点の定まりきらない眼でその卑猥な仕草を見つめていると、再び下腹部に血液が集まり始めているのを感じた。
「あらあら、しょうがないねぇ。もっともっときもちよくなりたい? ふふふ、じゃあ、生で見せてもらおうかな‥‥」
 にっ、と笑うとレギアはするすると竜司の衣服をはぎ取ってゆく。
「どれどれ‥‥ふふ、少し皮かぶってる。ま、いいよ‥‥きれいに洗ってるみたいだし。‥‥んー。だけどどうかなぁ? せっかくだから『ひとつふたつ上の男』とかいうヤツにしてあげようか?」
 まるで男性週刊誌の広告記事のようなことを言う。
「ふふ‥‥安心しなよ。あたしは悪魔‥‥手術なんて野暮なことはしないよ。見ててごらん‥‥んっ‥‥どう?」
「え? ‥‥うあっ! ちょっ‥‥くぅっ!!」
 びちゃ、じゅるっ、じゅるり。
 有無を言わせず、真っ赤な舌が少年のそれを舐め上げる。そしてそれを口内に含み、引き出し、甘噛みし、吸引する。唇に呑み込まれ、口内で巧みにもてあそばれるたびに、ぬめり、ざらつく熱い感触が神経を焼く。

「あ、ああ‥‥すごい‥‥――!? なっなにこれ、や、やめ、‥‥うぅっ!」
 竜司は困惑した。熱く激しい刺激に加えて、未知の感覚がそこに沸き起こっている。もちろん口による愛撫の刺激も初めてだったが、そんなものとは根本的に異なる刺激。快感を受容する部分そのものがふくれあがり、熱を帯び、それによってさらに快感が増加してゆく。だが、勃起するのとは断じて異なる感触。あってはならない感触に、脳が警告を発している。
「んっふ‥‥うんっ‥‥ぷはぁ。くふふ‥‥いい感じになってきたよ‥‥見てごらん」
 快楽の嵐が弱まり、悪魔の声に気付いた竜司はおそるおそる目を開けた。
 ――目を疑った。
 自分の股間を見た。反り返り、びくんびくんと震えて舌の感触を恋しがるそれは、どうあっても見慣れたものではなかった。勃起時で長さ14センチ、亀頭のカリに皮がかぶっていたそれではなかった。
「な、なんだよこれ!?」
「んふふ。言ったでしょ、あたしが包茎を直してあげたんだよ‥‥喜びなよ、こんな立派なのを持ってるやつは少ないよ?」
 確かにその通りだろう。赤黒くグロテスクな色になったそれは、もう普通のサイズとは言えなかった。長さは元の二倍近いだろう。皮は完全にむけ、がちがちになった亀頭が鎌首をもたげている。竿の根元にあるホクロだけが、かろうじて前と変わらない点だった。
「んふふふ‥‥うれしい? でっかいチンポは思春期の男の子にはあこがれでしょ。あん、だけどこれじゃ日本の女の相手はできないかな? あはは、ゴメンねぇ。おねえさんの好みだけでサイズを決めちゃったよ」
 苦笑も白々しい。何が起こったのか理性で理解しきれていない竜司は茫然自失になってしまい、レギアの説明にも上の空だ。
「さぁ、チンポもいい感じになったところで、そろそろ本格的にイイコトしてあげようか?」
「‥‥ちが‥‥う、ちがう! 僕はこんなことをして欲しいんじゃない! 僕は佐々木と恋がしたかっただけで‥‥!!」
「‥‥。まだ反抗するの‥‥?」
 悪戯っぽい視線が急に冷めゆく。
「しかたないね。悪魔を呼んで欲望を満たす、ってことがどういうことなのか、じっくり教えてあげるよ。いい? 泣いてもわめいても、あたしの快楽を味わってもらうよ、坊や。ふふ‥‥そうだね、小手調べに胸を楽しませてあげる」
 そう言うと、衣装の胸を覆っている部分――というよりも、乳首をなんとか隠している部分――を左右に押し広げた。ぶるん、と巨大な乳房があふれ出す。それは張りと艶が満ちているにもかかわらず柔らかさを湛え、しかも圧倒的な重量感を誇っていた。バランスの良い乳輪から、やや大きめの乳首がツンと突き出ている。
「ふふ‥‥でっかいでしょ? たっぷり楽しませてあげるよ。‥‥坊や、パイズリって分かる?」
「し、知らない、だからもう――」
 ほとんどうわごとのような反抗はやはり指先で封じられた。
「ふぅん‥‥知らないんだ。ほんとかなぁ? まぁいいや。だったらあたしがほんとのパイズリを教えてあげる。人間がやるようなままごとじゃなくて、本物をね‥‥」
 くすくすと笑いながら自分の両乳首を人差し指と親指で挟み、ほぐすように捻って刺激する。
「淫魔ならではの芸当なんだから、ありがたく思いなよ? んっ‥‥」
 つぷり。
 レギアの細い人差し指が、それぞれの乳首の先端に食い込む。そして――
「んくっ‥‥ふぅっ。見てごらん‥‥ここ、中に突っ込めるんだよ‥‥」
 指先がめり込んでゆく。第一関節、第二関節、そしてとうとう根元まで乳首に突きささる。しかし血が出る気配もない。そのまま乳房を両手で揉みながら、さらに中指を乳首にあてがい、同じように突き挿す。二本の指で乳首を貫き、ぐちっぐちっとかき回す。
「見て‥‥ここに坊やのチンポ、突っ込ませてあげるよ。ふふ、きもちいいんだから‥‥」
 乳首に挿した中指と人差し指を広げ、その穴を見せつける。中は肉色の孔が開いているようだ。
「ほら‥‥中がひくひくしてるの分かる? 入れていいよ、ほぉら」
 淫魔のくせにと言うべきか、あるいは淫魔らしくと言うべきか、気分に飲まれやすいらしい。レギアの顔は心なしか上気している。そしてその孔に目が釘付けになっている竜司の股間に手を伸ばし、巨大サイズとなったそれを左の乳首の孔にあてがい――挿し込んだ。

「うわぁっ! ‥‥あ、あ、くぅうっ!! な、なんだこれ、ああっ!!」
「んふぅっ‥‥はぁっ。入った‥‥どう? おっぱいの中、すっごくイイでしょ? ああっ‥‥奥まで挿して‥‥んんっ‥‥」
「うあああっ! す、すごいっ‥‥!! こ、これ‥‥がっ、パイズリ、な、の!?」
 仰け反り、女のように喘ぐ竜司の脳が沸騰する。最初の指による刺激や唇と舌の愛撫など忘れてしまいそうになるほどの快楽。しかも彼の予備知識では挿入するなどあり得ないはずの所に、信じがたい大きさになった自分の性器が飲み込まれてゆく。倒錯的でしかも甘美な快感。魂の契約や魅了の術に頼るまでもなく、彼の心は堕ちつつあった。
「そうだよ‥‥これが‥‥ああっ‥‥ん‥‥ほんとのパイズリ‥‥悪魔のパイズリだよ‥‥。もっと奥までねじ込んでごらん‥‥そう、根元まで――ああっ! くぅっ‥‥坊やの、でかいから、あたしもきもちいい‥‥ああ‥‥ぅ」
 吐息を荒くしながら、貫かれた乳房を揉みしだく。肉穴と乳肉との両方が余すところなく竜司の剛直を刺激する。それだけではなく、まるでその乳房の中が生きているかのように動き、固い肉棒が奥へ奥へと誘い込まれてゆく。
「はぁ、はぁ‥‥きもちいいでしょ‥‥だけどこのままだと動きにくいね‥‥立ってごらん。
そう、腰をつかって突いて――あはぁっ! そう、ああっ、突いて‥‥うふふ‥‥イイよ‥‥」
 覆い被さるようにして胸を犯させていたレギアは、乳房を貫かせたまま立て膝になり、竜司を立たせてそのままピストン運動を促した。竜司はそれに応えて夢見心地のまま腰を前後に動かす。乳房の中から粘液が溢れ、肉棒が前後するたびにそれが乳首から滴り落ちてゆく。挿入されていない方の乳房にも竜司の指を差し込ませると、何も言わないままにその指先が彼女の乳房の中を犯してゆく。
「あふっ‥‥あ、あ‥‥初めてのわりに、おっぱいの犯しかた、分かってるじゃない‥‥っ。‥‥そう、かき回して‥‥んっ。‥‥あん、腰をとめないで、突いてよ‥‥ああっ!」
 ぐちっ、じゅくっ。母乳ではない液がさらに分泌され、湿った音を立てる。一方の乳房に巨大なペニスが肉の誘いに応じて突き刺さり、名残惜しげにまとわりつく乳房から引き抜かれ、次の瞬間には再び奥まで突き刺さる。もう一方の乳房には竜司の指が三本もねじ込まれ、肉の穴をぐちゅぐちゅとかき回し、乳房全体を揉みしだく。乳首からは透明な蜜がとろとろと垂れ、竜司の肉棒、指、手のひら、そしてレギア自身の身体を濡らしてゆく。
 しばらくピストンを繰り返すと、今度は少年自身がさっきと反対の乳房に、ぶちゅりという音と共に逸物を突き入れた。
「あはぁっ! いいよ、調子でてきたじゃない‥‥あ、あ、すごい、奥まで刺さってる‥‥っ! き、きもち、いい、でしょ? あぅ、だめ、あたしまで感じそう‥‥! はぁっ、イキたくなったら、中で出しても、い、いいよ――くああっ!!」
 突如嬌声を上げて悪魔がのけぞる。挑発的に嗤っていた眼が熱を帯び、熔けたような笑みを浮かべた。
「うあっ、レ、レギアっ‥‥きもちいいの? ここ? ううっ、僕もいいよ‥‥!!」
 喘ぎながらも腰を動かし、召喚した悪魔の乳房を丹念に貫く。竜司はレギアの肥大した乳首をそこに挿入したペニスごと握りしめ、隅々までえぐるように突き上げた。本能のおもむくままに。
「そ、そこっ!! 突いて、ああっ!! こっちも、や、休まないで‥‥えぐって、かき回して――ひぃああっ!!!」
 肉の杭を打ち込まれ、指で蹂躙され、淫欲の使者は自らの肉欲に溺れる。乳首だけではなく、口角からはよだれが溢れ、股間の秘唇もひくひくと蠢きながらだらしなく粘液を滴らせる。胸はもう竜司に任せて大丈夫だと考えているのだろう、右手は少年の陰嚢に、左手は自らの股間に伸びている。
 その指先が蠢く秘裂に潜り込むたびに、愛蜜がびちゃびちゃと音を立てて水たまりをつくり、全身に回り始めた快楽に耐えきれないのか、半開きになった翼がときおりぴくぴくと震えた。
「っく、レギア、だめだ、もう僕っ‥‥!!」
「あ、あああっ!! いいよぼうや、イっても、イってもいいよ、あたしも、もう――っ!!」
 逆レイプはいつのまにか完全に和姦の様相を呈しているが、AVの王道展開だけあってふたりはそんなことにも気付いていないようだ。
「う、ううっ! っく――!!!」
「‥‥熱っ――んはぁぁあああっ!!!!!」
 声にならない声と共にびくっ、びくっと体をふるわせると、同時に二度ほど深く腰を突き入れる。高く絶叫した悪魔もそれにあわせて身体をひくひくとくねらせた。
 ぶちゅっ、ぶちゅ‥‥
 ペニスを引き抜くと同時に、大きく開いた乳首の先から黄色がかった精液が溢れ出す。レギアはそれを指ですくい唇に運ぶと、嫣然と微笑んだ。

「‥‥あ、ふぅ‥‥。どうだった‥‥?」
「す、すごかった‥‥」
 息も絶え絶えといった様子で、大の字に伸びた竜司が答える。
「ふふ。そりゃそうよ、レギア様のおっぱいなんだから。‥‥ま・ん・ぞ・く・し・た? うっふふふ‥‥」
 その身体にのしかかり、頬に口づけをして自信満々の顔で嬉しそうに言う――と、声色を変えてどろりとした口調で笑った。
「え、そりゃ‥‥?」
 そうだと答えようとして、はたと気が付く。なんだ、この疼きは。
「満足しちゃったの? おっぱいだけで? ‥‥あっはぁん、そんなのでほんとに満足できるんだ?」
 過剰なまでに色気を乗せた声でたたみ掛ける。
「僕は‥‥満足‥‥」
「――してないよねぇ? 悪魔の淫楽を味わってしまったんだから、もっともっと深みを味わいたいよねぇ? ふっふふふ、でなきゃこんなにカタくならないよねぇ?」
 一度は確かに萎えたはずの股間のそれは、再び硬度を取り戻している。
「満足‥‥して‥‥ない‥‥」
 そうだ。満足はしていない。灼けつくほどの刺激だったが、それでも身体全体が疼く。この女悪魔を心ゆくまで貪りたい、と。
「んふふふふふ‥‥そう――満足できなかったんだ――満足したいんだ――。いいよ、満足させてあげる。だけど、そのためには約束がほしいな」
「‥‥約束‥‥。――契約のこと‥‥?」
 悪魔の契約。誰もがその内容を知っている契約。もちろん、竜司もよく心得ている。
「そう、魂の契約。坊やの魂、あたしがもらうっていう約束。ふふ、契約してくれるならいくらでも抱かせてあげる、抱いてあげる。――安心しなよ。そんな悪い条件じゃないよ、死ぬまでは待ってあげるからさ」

(――死んだら魂はこの悪魔のもの。だけど死ぬまでは‥‥あの快楽が、この悪魔が僕のもの‥‥?)

 竜司の思考はすでに秩序を失っていた。当然だ。人を愛欲に狂わせ、破滅させる淫魔を呼び出し、その身体に触れ、あまつさえ肉欲を貪り、自らの精を放ったのだから。彼の心は完全にレギアに喰われていた。彼が想いを寄せ、それがために悪魔まで呼び出すことになったクラスメートのことなど、もはや心の隅からさえ追い出されようとしている。淫欲が心を占領し、彼の口を開かせたのは何の不思議もないことだった。

* * * * *

 華奢な学生服姿が内藤家の玄関に勢いよく飛び込む。数日前からの見慣れた光景だ。
「ただいまっ」
「お帰り。最近は帰ってくるのが早いね」
「うん、まぁ寄り道する理由もないし」
 母親の言葉にもそれなりに答えつつ、さっさと自分の部屋に向かう。竜司にとしてはそんな時間さえ惜しいからだ。だだだっと階段を駆け上がり、部屋に飛び込む。
「おっ、お帰り。ふふ、最近早いね」
 ベッドでごろごろしているのは角や翼の生えた美女。唇をにいっと笑みの形に歪めると、その端から白い粘液がとろりとこぼれた。
「母さんみたいなことは言わなくていいよ――また誰か襲った?」
「んふふー。さーて、ね。ふたりのとき以外は好きにするって言ったでしょ? いいじゃん、あたしがたくさん精を集めれば集めるだけ、あんたが味わう快楽も増えるんだから。――さ、おいで。抱いてあげる――ああんっ」
 レギアの言葉が終わる前に少年が襲いかかり、甘美な快楽がふたりを包み込んでいった――。

* * * * *

「ただいまー‥‥あー疲れた」
「あら、お帰り。今日は早かったじゃない」
 とんとんと包丁を響かせながら、帰宅した夫に、さっきと似たような言葉を掛ける。
「うん、道がすいててね。‥‥竜司は?」
「ずいぶん早く帰ってきたと思ったら、あとは部屋にこもりっぱなし。最近ずっとそうよ。隣の奥さんは『ネットで友達ができたんじゃない?』って言ってたけど‥‥。あの子は内気だからどうかなあ‥‥彼女でもできれば変わるんだろうけど」
 母親の推測は実はすべて外れているのだが、もちろんそんなことは想定の内に入りようもない。きざんだ野菜をフライパンに入れると、芳ばしい香りと水分のはぜる音がジューっと響く。
「‥‥あん、ああっ‥‥あはん‥‥」
 かすかに、艶めかしい声が聞こえた。だが、調理の音に紛れて母親の耳には届かなかったらしい。
「‥‥竜司も年頃だからな‥‥テレビは音量を下げるように言っておくか」
「えー? 何か言ったー?」
 じゅうじゅう。フライパンは楽しげに歌う。
「あ、いや、独り言」
「‥‥いく‥‥ああー‥‥」
「‥‥最近のエロビデオは激しいなあ‥‥」
 息子の部屋への階段を見ながら、父親はぽりぽりと頭を掻いた。

(終)

恥ずかし気もなく旧作を引っ張り出してきました。
純粋にニプルファックが書きたくて、それだけのために書いた1本。冒頭の呪文は「真・女○転生3」でマーラ様を召喚するときに出た呪文を拝借。ラミアや蜘蛛女も好きですが、ベタな悪魔っ娘も大好きです。

小説のページに戻る