明かりのない部屋に、ぼんやりとした光が黒い影を壁に投げかけていた。整然と並んだ事務机の一つに、男が息を潜めてかがみ込んでいる。冷却ファンの静かな音と、かすかなキーボードの音だけがひっそりと響く。画面にはしばし大量の文字列が高速で流れてゆく。それが止まると、男はようやく体を動かした。コンピュータに差したコネクタを静かに抜き、そして大切な記憶デバイスを鞄に入れ――
パチン!
鋭く小さな音が響いたかと思うと、天井の明かりが一斉に点灯した。
「!?」
「こんな夜更けに‥‥忘れ物かしら?」
くっくっ、と喉で笑う声と、どろりとした艶のある声が響く。
「え、ええ。どうしても手元にないと困るものがありまして‥‥失礼しました」
音の反響が予想以上にあり、相手の声がどこからしているのか確信が持てない。組織職員の制服を着たその男は、油断なく周りを見回した。音もなく握った拳銃を隠しながら、神経をとぎすます。
だが、声の主はさほどの警戒感もなく姿を見せた。廊下へと続くドア――いつの間に開いていたのだろうか、そこから黒い影がすぅっと現れたのだ。
すらりとした――しかし起伏に富んだ長身を黒いスーツに包み、艶やかな、だが冷ややかな笑みを浮かべてドア枠に寄りかかる。
「ふふ‥‥忘れ物、ね。悪いけどデータの室外持ち出しは許可してないわ‥‥」
紅い唇が笑みの形にゆがむ。それを目にして、男は背筋を冷たいものが流れるのを感じた。彼は秘密組織《シュヴァルツ・バタリオン》情報部門の情報処理関連に携わっている。いや、携わっているふりをしている。この邪悪な組織の情報を得るために内偵任務を遂行していたのだ。半年以上にわたって彼らの手先として働き、そして遂に彼が手にしうる最高レベルの機密に接した。そのデータを密かに持ち出すべく行動を起こしたのだが――まさかここで尻尾を捕まれるとは、それも現場を押さえられるとは、《ヴァンガード》情報職員として鍛えられた彼でさえ信じられなかった。しかし、ここで諦めることはできない。なんとしてもこのデータを持ち出さねばならないのだ。そう、たとえ命に代えることになってもだ。幸い、この場には「上司」の女――最高幹部の一人、情報統括ザーラしかいない。うまくすれば逃げることもできるだろうか。しかし油断は禁物だ。
「困るのよね‥‥そういうことをされると。もしもそれを敵に売られると、私たちの仕事がやりにくくなるのよ‥‥」
当然だ。それが目的なのだから。女は悠然と笑みを浮かべながら、コツコツとヒールの音を響かせてゆっくりと男に近寄る。少なくとも、一見したところ丸腰だ。なぜこれほどの余裕を持って近寄ってくることができるのか‥‥彼には理解できなかった。しかし、それにもかかわらず、凄まじい威圧感が押し寄せてくる。カツン、カツンと音が響くたびに、背中に冷や汗が流れる。かすかに膝が震えそうになる。冷たい炎が身を焼くかのような錯覚を感じながら、彼は全く動かずにいた。手の中の拳銃を汗でぬめる手で握りしめ、必死に隙をうかがう。
(――強化人間とはいえ、至近距離で撃てば‥‥)
《シュヴァルツ・バタリオン》の幹部は全員「強化人間」だ。並の人間に対してなら十分な手段であっても、彼らに対しては効果が激減する。しかし勝算はそこにしかなさそうだった。仮にこの場を脱しても、もう外へは出られないかもしれない。それでも、彼は無為に命を失うことだけは避けたかった。それが、奴らに家族も恋人も永遠に奪われた男の意地だった。
「ふふ‥‥観念したの?」
繊細な指が男に触れる。ベロア地のスーツの襟元からは信じられないほど豊かな胸と深い谷間がのぞいていたが、当然それどころではない。白い指先がスッと彼の左手に触れ――
「‥‥っ‥‥!」
瞬間的に動いた右手が女の腹に押しつけられ、間髪入れず拳銃がくぐもった咆吼を上げた。
――だが。
「くっくっ‥‥ふふふ‥‥」
「そん‥‥な‥‥っ!」
傲岸な含み笑いが響く。女の白い手が、彼の右手首を掴んでいた。それは死にゆく者が最後の抵抗として掴んでいるのではない。――ザーラは何事もなかったかのように、平然と立っていた。お前の行動は何の意味もないのよ――口は何も言わずとも、その態度が雄弁に語っていた。男が茫然としていたのは、実際にはほんの一、二秒に過ぎない。掴まれた手を力任せに引っぱり、女を組み伏せようと――
みしり。
「ぐぁっ!?」
しかし苦悶の声を出したのは彼だった。身体を動かそうとした瞬間、手首が悲鳴を上げたのだ。ザーラは涼しい顔で彼の手首を掴んでいる。にもかかわらず、男は彼女を引き倒すどころか手をふりほどくことさえできない。
恐慌状態に陥りつつある男に、情報統括は優しげな声で語りかけた。
「‥‥思ったより根性あるじゃない‥‥。でも、もう終わりね。最後のチャンスをあなたは自ら捨ててしまったから」
そう言ってくすくすと笑う。だがその笑い声はぞっとするほど冷たいものだった。言葉だけは穏やかだが、聞く者を芯から震え上がらせるほど威圧感のある含み笑い。内偵に従事していたときからこの女の恐ろしさは知っていたはずだが、彼は今になってその認識が甘かったことを知った。それはもはや生理的な恐怖だった。
「走って逃げるのが正解だったのよ‥‥このフロアの他は全部押さえてあるから、せいぜい名誉の戦死、ってところだけど。次点は私に命乞いをする‥‥“軽い取り調べ”をして、“それなりの刑”を与えてあげた」
そこまで言うと、女は不意に腕を引いた。
ガシャァンッ!
男の体を軽々とデスクに叩きつける。雑物が飛び散り、コンピュータが派手な音を立てて倒れる。苦痛が悲鳴となって漏れたが、それは騒音にかき消えた。
「お前が選んだのはそのどちらでもない、最悪の選択肢よ‥‥。この私に、このザーラ様に銃口を向け、引き金を引いた‥‥」
凄まじい怒気をまとった声が鼓膜を打つ。男は全く身動きできなかった。叩きつけられたという苦痛だけではない。そんな痛みなど、もう感じる余裕もなかった。圧倒的な恐怖に神経が麻痺していた。
眼前に、顔があった。女の、美しい――あまりにも美しく、妖艶な顔が。もしその顔が般若のごとき表情であったなら、これほど恐ろしくはなかっただろう。通った鼻筋、深紅の唇、鋭い瞳――すべてが妖しいまでに美しく、それゆえに激烈な怒りを湛えていた。
細く長い指が男の髪を荒々しくつかみ、頭を無理に引き上げる。耳元に密着せんばかりに唇を寄せ、囁く。
「‥‥簡単に死ねると思うな‥‥」
ガンッ!!
死刑宣告と同時につかんだ頭をデスクに打ちつけ――男の記憶はそこで途切れた。
* * * * *
「う‥‥っ‥‥」
頭が痛い――そのことを知覚すると同時に、男は状況を思い出した。最後の最後、大詰めで発覚し、そして‥‥。
「お目覚めかしら」
背後から声が聞こえた。低めの、女の声。
「‥‥っ」
振り向くことはできなかった。かろうじて首を持ち上げると、身体が拘束されていることが分かった。手術台のような長椅子に、手足は固く戒められている。同時に、衣類がすべてはぎ取られていることにも気がついた。横に顔を向けると、台の上にナイフや注射器、拳銃といった物騒な道具が並んでいる。部屋自体は暗く、はっきりとは見えないがあまり広くはなさそうだった。
「話すことはない‥‥さっさと殺せ」
観念し、そう言う。
「くっくっ‥‥頭を打って忘れたのかしら? 言ったはずよ、『簡単に死ねると思うな』って‥‥。それにね、お前に聞かなければならないことなんて何もないのよ」
カツン、カツンと足音を響かせ、ゆっくりと近づいてくる。背後に立ったかと思うと、冷たい指先がするりと首筋を這った。
「‥‥!?」
男はびくりと体を震わせた。指の感触にではない。女の言葉の内容に、だ。――簡単には死ねない‥‥それはもう、織り込み済みだ。だが問題はその後、「聞かねばならないことはない」という言葉だ。普通、情報を盗もうとする相手を尋問するのは当然のことだ。誰の指図かはこの場合分かり切っているとしても、今までにどのような情報を流したのか、いつから流したのか、そのほか様々なことを知らなければならない。ほかの協力者についての情報も重要だ。しかし、この女はそんなことは必要ないという。
「驚いた? 片桐聖次くん」
「な‥‥っ!!」
「ふふふ、さすがに意外だったかしら。お前の本名、知ってるわ‥‥」
くすくすと笑いながら、女は背後から男に絡みつく。生暖かい舌が首筋を這う。ひんやりとした指先が、胸板をつぅっとなぞる。
だがそれどころではなかった。――名前が知られていた。ここへ潜り込むときの偽名ではなく、正真正銘の本名が。‥‥もう、終わりだ。おそらく、すべてが知られている。
「‥‥くく‥‥。分かったかしら? 全部知っていたのよ‥‥お前が何者なのか、何を狙っていたのか‥‥。だから泳がせてあげた。いかにも重要そうな偽情報をたっぷりつかませて、ね。気づいていなかったみたいだから教えてあげる。お前がいた部署、あれ自体がダミーなのよ。‥‥ふふふ、楽しいでしょう?」
艶っぽい声――だが、暖かさや優しさはカケラもない、氷のような声。淫らな唾音を交えながら、耳元で囁く。指先は徐々に下腹部へ達し、股間のものに絡みついた。
「ふふふ‥‥まあまあの大きさね。たっぷり感じさせてあげる、苦しませてあげる――私の身体で、ね。喜びなさい、最後の最後で世界最高の美女に抱かれるのよ‥‥」
「最低のクズ、だろ」
なけなしの抵抗として減らず口をたたく。だがそんなものが堪えた様子はない。冷ややかな微笑を浮かべると、
「いつまでそう言っていられるかしら? 無様に射精しながら、快楽と屈辱のハーモニーに酔いしれなさい‥‥ふふふふふ‥‥」
* * * * *
「っく、や、やめろ‥‥っくぅぅっ‥‥!!」
ブビュッ、ドビュッ、ビュクッ‥‥。
「くっくっ‥‥最初の減らず口はどうしたのかしら? 手でしごかれただけで、情けないわね‥‥」
そのとおりだった。彼女は相変わらず聖次にしなだれかかり、白い指先だけで責め上げる。だがそれは手だけで与えられる快感とは到底思えなかった。自分の手でするのと異なるのは当然としても、女性の手がこれほどの快感を呼び覚ませるとは想像もできなかった。かつて風俗で同じことをされた経験はあったが、それとは比べものにならない。その指使いに半ば呆然としながら、聖次はたちまち三度目の射精をするはめになっていた。自分自身の腹や脚に、白濁した粘液が飛び散っている。
「良かったわねぇ、私に捕まって。痛いだけの最期よりは楽しいでしょう?」
にちっにちっと精液の音を絡ませながら、男根を巧みにしごく。その行為、言葉が与える屈辱感――聖次の頭に、ただひたすらに「情けない」という思いばかりが旋回する。そしてそれを見透かしたように冷たく笑うと、女は服を脱ぎ始めた。が、
「これを見て。お前のおかげでお気に入りが台無しよ」
スーツのジャケットを脱ぐ前に、思い出したように一点を指さした。焦げたような跡が残り‥‥穴は開いていない。
「ふふっ、完全に無駄だったわね。お前の銃弾は私の素肌にさえ届かなかったのよ。まあ届いていても大したことはないけれど。――甘く見すぎていたわね、くくく‥‥」
含み笑いをすると、今度は表情ががらりと変わる。冷たい笑みから、淫らな色へ――。そしてことさらに扇情的にゆっくりとタイトスカートを脱ぎ、下着姿になると、黒いストッキングに覆われた長い脚が聖次の上をまたいだ。妖艶で冷酷な瞳が傲然と見下ろし、
「さあ‥‥抱いてあげるわ‥‥。壊してあげる‥‥」
黒いレースのショーツを横へずらし、濡れそぼった裂け目に亀頭をあてがい――腰を落とした。
「くぅうううっ!?」
その瞬間、聖次は目を見開いた。これが、女の身体だというのか。もちろん彼も女性経験はある。だが、こんな凄まじい動きをする肉襞が女――人間だとは到底信じられない。無数の襞が絡みつき、いくつもの肉の輪が蠕動するように締め上げてくる。熱い肉粒が男根の隅々にまでまとわりつき、吸い付いてくる。
「ふふっ‥‥我慢しても無駄よ」
ぐぢゅうぅっ!
「っぐあっ――!!」
ザーラは腰を動かしたわけでもなかったが、押し寄せる快感の津波は聖次の限界を軽々と超えた。三度も精を放ったはずのペニスが激しく脈打ち、白い液を女体の中へ吹き上げる。焼け付くような快感が尿道を何度も走り抜け、身体がこわばる。
「くふふっ‥‥脆いわ。お楽しみはこれからよ‥‥本当の快楽を教えてあげる。狂いなさい」
ずちゅっ、ぐちゅ、ぬちっ‥‥!
淫らな音を立てながら、ザーラは腰を弾ませた。ブラジャーの上から見せつけるように乳房を揉みしだき、くすくすと笑いながら。余裕たっぷりな女とは裏腹に、聖次は苦しげに呻き続ける。
「っく、ぅううっ、ぁあっ!!」
「またイくの? ふふっ、ほら、もっと出しなさい‥‥!」
聖次の身体がビクビクと震える。固定された手首、足首が突っ張り、股間に集中する快感をなんとか逃がそうと暴れるが、しかしびくともしない。そうしている間もなく、またしても凄まじい快楽が攻めあげてくる。
「ぐぁあっ、あ゙あ゙ぁあっ!!」
「くくく‥‥ほらほら、もっと、もっとよ‥‥」
耳元に唇を寄せ、邪悪に微笑む。彼女にとって、男を虜にするなど呼吸するより簡単なことだ。色香と肉体に魅了され、すべてを彼女に捧げる――だが、聖次を堕としはしない。自分に危害を加えようとした男を虜にして「許し」てしまうほど、ザーラは優しい女ではないのだ。溺れることも許されず、ただひたすらに翻弄され、命と理性を削り取られてゆく――。
* * * * *
どくん‥‥どく‥‥ん‥‥
聖次の肉棒がゆっくりとした間隔で、だがはっきりと脈打った。しかし、もはや女の肉穴へ白濁液を注ぎ込むことはできず、ひくっひくっと跳ねるだけだ。
「あ‥‥ん‥‥もう終わり‥‥?」
うっすらと汗を浮かべ腰をくねらせていた女は、何度となく男を果てさせていたにもかかわらず不満げな声を上げた。
「やっと気分が乗ってきたのに‥‥どこまでも使えない男ね、お前は。でもここで殺したんじゃ欲求不満になっちゃうわ‥‥ふふ、もう少し頑張りなさい。そうしたら殺してあげる」
「も‥‥もう、無理だ‥‥許し‥‥」
残酷な死を覚悟していたはずの男が、哀れな悲鳴を上げた。だが、女がそれを聞き届けるはずもない。
ぐぢゅぅっ。
「くっくっ‥‥男が私相手に『無理』なんて、あり得ないのよ‥‥。そのこと、体に教え込んであげる。ま、覚えた頃にはもう用済みだけどね」
男の嘆願と同時に腰をくねらせて見せる。悪魔の肉襞がうねる。一瞬萎えかけていたペニスを強制的に奮い立たせ、引き締まったウェストが前後にくねるのを見せつける。吐き出す物さえなくなった肉棒が勃起し、飲み込まれ、嬲られる。目の前で淫らにくねる絶世の美女に例えようもないほどの恐怖を感じながら、聖次は快楽という名の拷問を受け続けるしかなかった。
* * *
狂宴はしかし、突如破られた。
『ザーラ様、緊急報告です』
壁に取り付けられた画面に映った若い女が、几帳面に敬礼しつつそう言った。
「取り込み中よ。後にして」
『しかし‥‥どうしてもお耳に入れねばならないことが』
「‥‥いいわ、入りなさい」
『はっ』
解錠音が響き、かすかに電動音を響かせてドアがスライドし――
「――っ、申し上げます、ザーラ様‥‥」
さすがの部下もたじろいだ。上官の淫乱さは十分知っているが、それでもセックスの現場をいきなり目にしてはやはり面食らう。
「私は忙しいの、見れば分かるでしょう? ‥‥手短にお願い」
部下の声に、ザーラは苛つきをにじませて応える。視線だけを背後に送ると、直立不動の女がいた。秘書官のリサだ。ザーラ直属の部下にして腹心。しかし、彼女は上官とは異なりこの手のことを目の当たりにするのはあまり得意ではない。報告を求められたものの、反応が遅れた。
「こっちで報告して。――何をしてるの? 早くしなさい」
ザーラは顔色一つ変えず、腰をくねらせながら督促する。ぐちゅっという音、男の呻き声が漏れた。リサは思わず顔を赤らめたが、上官の命令に従い、絡み合う二人の脇へ足を進める。
「んぁっ‥‥こいつのことは気にしないで。――報告を」
「はっ。0230時、A−28基地が奇襲を受け壊滅しました。基地司令官を含め戦闘部門幹部2名が戦死した模様です。詳細はいまだ不明ですが、その際の映像は届いています」
味方基地壊滅の報にも表情を変えず、ザーラはリズミカルに腰を弾ませる。
「――見せて」
携帯用の薄い液晶画面を部下が差し出し、再生ボタンを押すと、襲撃の模様が映し出された。
数に物を言わせて手薄な基地になだれ込んできたのかと予想したのだが、そうではなかった。画面に映っているのはこちらの多数の戦闘員と、敵の男が一人だけだ。逞しい、長身の男――そのたった一人の前に、改造されているはずの戦闘員たちがぼろ雑巾のように吹き飛び、引き裂かれ、潰されてゆく。
「あ、ん‥‥っ。こいつは‥‥?」
興奮のためか、快楽のためか。ザーラは声をうわずらせながら部下に尋ねる。腰の動きは徐々にスピードを上げ、聖次の荒い息が不規則になり始めた。
「――外見データは敵の『黒瀬龍牙』に該当するのですが、それにしては戦闘力が異常です。分析班に解析を急がせていますが、まだ結果は出ていません。‥‥申し訳ありません」
淫らな行為を直視するのはさすがにためらわれるのか、やや視線をそらし気味に報告する女。きまじめそうな風貌は、あまり《シュヴァルツ・バタリオン》に似つかわしくはない。
「‥‥龍牙‥‥ね。そう、ありがとう。‥‥っく、はぁっ‥‥!」
じっとりと汗を浮かべながら、部下の差し出す画面を食い入るように見つめる。戦闘員が次々に飛びかかり、次々に粉砕されてゆく。強い。壮絶に強い。
「‥‥ぁっ‥‥はぁ‥‥っ、敵の‥‥強化人間かしら‥‥、ふふ、欲しいわ‥‥」
唇を舐め、うっとりとした目でその敵の姿を追う。脇の台から拳銃を手に取り、その銃口を舌先で舐めると、セーフティを外し聖次の額に押しつける。
「あぁあっ、はぁ‥‥ふふ、もっと頑張りなさい‥‥もう少しでイけそうなんだから‥‥」
そう言いながらも、視線は画面から外さない。戦闘員だった肉塊が画面中に満ちあふれ、その中心に男が立っている。激戦を一段落させたというのに、その呼吸は全く乱れていないようだ。
――不意に、その男が顔を上げた。精悍で整った顔立ちを返り血が彩り、鋭い目が隠しカメラ越しにザーラを射抜く。画面一杯に拳が映り――
「あっはあぁぁあああっ!! っくうぅうっ――!!」
凄艶な絶叫。――そして、銃声が響いた。
* * * * *
シャアァァ‥‥。
湯気の中、女がシャワーを浴びていた。大きな、それでいてまったく垂れることのない乳房が攻撃的な色気を発散する。温かい水滴が張りのある肌を流れ、くびれた腰とむっちりとした尻、太ももを濡らす。濡れた黒髪がつややかな肌にまとわりつき、赤みを帯びた水が排水溝へ吸い込まれてゆく。
「ふふ‥‥黒瀬、龍牙‥‥ね‥‥。手に入れてみせるわ‥‥ふふふ‥‥」
肌に付着した赤い液体を洗い落としながら、ザーラは笑った――。
(終)
外伝、ザーラ悪行編その2。まあ,要するに逆レイプです。再録にあたって多少改稿。書いた順としては外伝第1作。
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