ビルサ市街図

■地図について
どこかの書店が出したビルサ案内図。主要な公的施設を中心に街を大まかに解説している。建物の大きさや道路の太さについては誇張があるものの,おおむね正しいと言える。しかし著者の知識に偏りがあるらしく,道路図がひどく簡略化されている部分も見られる。以下本文。

【公的施設・宗教施設】

【ビルサ概観】
 元来の多種族雑居地が都市化するにあたって,交通の利便と地盤の強さを兼ね備えたアルム・シェダ西岸に建設されたのが現在のビルサ市街である。水源は同河であり,都市地下に作られた水路によって水資源は比較的潤沢。なお,都市への取水口は巧妙に隠されており,警備も厳重になっている。
 周囲は灌漑によって農地が広がり,さまざまな技術改良によってその生産量も急速に増大している。そのため,「砂漠の中に鎮座する大都市」という印象は過去のものになりつつあるが,西側はいまだに不毛の地であるため,西方からの旅人は昔ながらの「砂漠のビルサ」という風情を目の当たりにするだろう。
 市内はいくつかの地域に分かれている。まず,新旧市街の中心地は行政・商業の中心地であり,また,名だたる大商人の屋敷が建ち並んでいる。それを取り巻くようにして,中小の商人が住む地域が広がる。その外は各種の職人が,それぞれの業種ごとに固まって職人街を形成している。一部には貧民街もあるが,この街の貧民の生活は他の国々に比べれば豊かである。また,各城門付近の広場には荷物積み替え場や倉庫がある。
 道路はほとんどが舗装されている。しかし東西南北を繋ぐ大通りはともかく,そこから逸れた道路・路地は入り組んでいるため迷いやすい。なお,上記地図はあくまでも主要な道を示したものであって,この他にも細い路地が迷路のように走っている(都市計画がいい加減だからこうなるのだ)。
■城壁(市壁)
 ビルサ市街を防衛するための壁。ほぼ正円であるが,正確には二十角形であり,角の部分に塔が付随している。すべて石造りであり,極めて堅牢な造りになっている。出入りについては,東西南北に正門があり,通用門も複数ある。
 城壁の上には多くの投石機が配備され万一の襲撃に備えているが,ここ二百年の間これが稼働したことはない。が,整備は万端で,時には新型に更新される。また,城壁の中には通路や詰め所があり,衛兵が常に警備している。
■旧城壁
 かつての城壁。人口の増加に伴い市街地が城壁をはみ出して拡大したため,これを再度取り込むために建設されたのが現在の城壁である(現城壁の外へも市街がはみ出しつつある地域もある)。旧城壁はその後も残っていたが,交通の邪魔になるため約1/3が取り壊された。いずれはすべて取り壊される予定。現在の城壁に比べればずいぶんと弱々しい造りだが,それでも街を守ってきた老兵である。
■船着き場
 アルム・シェダ河に作られた船着き場。南北の交通・輸送を支える玄関口である。常に船がひしめき,活気に溢れている。アルム・シェダは春から夏にかけて増水するので,万一の洪水を避けるため市街自体は河に接していない。船着き場の側には倉庫街があり,また木材取引所・石材取引所がある。ビルサ周辺では木材・石材ともに産出量が少ないため,これらは船で大量に運び込まれている。
■市庁舎
 ビルサの政治の中心。最高決定機関である評議会と,行政府の機能がある。市街の中心に位置し,中央広場に面して堂々とした姿を見せつける。全面が精緻な浮き彫りで飾られており,その壮麗な外見は宮殿を思わせる。ビルサの富の象徴でもある。この国の政治家(評議会議員)はほとんどが大商人で占められているため,市庁舎へやってくる彼らの一行は見物に値する華やかさである。
■造幣所
 大陸中部に広く通用している通貨「ハダル」を作っているのがここだ。間違っても強盗しようなどと考えてはいけない。衛兵にその場で挽肉にされるか,捕まって城壁に吊されるかの二択だ。
■衛兵司令部
 新市街中央広場ににらみを利かせているのが衛兵司令部だ。市内の治安維持を一手に引き受けている。ビルサの衛兵は衛兵と思えないほど庶民に優しいが,それでも怒るとものすごい迫力なのでからかってはいけない。強盗・殺人などの重大犯罪の現行犯については,その場で実力行使に及ぶ。牛人,オークといった大柄な種族が多いため,その戦闘力は他国の衛兵と比較にならない。
■裁判所
裁判は元々市庁舎に含まれていた機能だが,商業が発展するにともなって訴訟の数も飛躍的に増え,そのため裁判所が独立して建設された。特に取引関連の揉め事を仲裁するのが重要な仕事になっているようだ。また,犯罪者を収監する牢屋も地下にある。ご厄介になりたくなければ悪いことをしないように。
■国立図書館
 旧市街の中心に位置する大図書館。かつての市庁舎だったが,庁舎が新市街中央(実際には旧市街周辺部なのだが,新城壁建設に際して大開発された地域)へ移転した際に,図書館へと改装された。膨大な蔵書を誇る。建物自体も古く,ビルサの歴史を感じさせる重々しい造りである。一般人の書庫立ち入りは禁じられており,書物の閲覧には学者や政治家の推薦状,あるいはそれなりの資格・身分が必要。1階の広間,2階の会議室(旧評議会場)は観光可。
■ビルサ大学
 旧市街のはずれに位置する。大規模な大学であり,大陸全土から知を求める人々が集う。白亜に輝く壮麗な学舎はビルサでも有数の美しさであり,観光名所にもなっている。周囲には学生や教授陣のために書店や飲食店が多い。閑静なところだが,稀に爆発事故を起こしたりするので近所の一般庶民には迷惑がられている側面も。
■施療院(旧・新)
 国立の治療施設。旧いほうは旧市街の外れに,新しいほうは新市街の外れにある。いうまでもなく,病人の治療・隔離に使われている。治療・入院ともに無料。健康なら特に行く必要もないだろう。
■練兵場
 ヴァスム神殿の隣にある,衛兵の訓練所。ビルサの平時の兵力は約3500人といわれ,普段は城壁や重要施設の警備,そして市内の治安維持に当たっている。しかし,万一の事態に備えて大規模な戦闘を想定した訓練もここで行われている。有事の際には予備役・傭兵を動員して数万の軍勢を整えることが可能。それを可能にしているのは言うまでもなく財力である。
 いちいち言うことでもないが,軍事施設なのでむやみにうろちょろすると少々怖い目に会うかも知れない。
■各種市場
 大陸最大の交易都市,という名は伊達ではなく,多くの商品について市場が置かれている。特に貴金属・宝石・ガラス器・絹織物といった贅沢品は,この街でなければお目に掛かるのも難しい量が盛んに取引されている。その他,図に示した以外にも様々な種別ごとに市場があり,交易商人でごった返している。これらの交易施設は基本的に交易商人向けのものであり,一般客は広場(大通りが交差するところである)の市や小売商のひしめく街路で買い物をすることになる。
 あなたがもしもビルサで何か土産物を買いたい,あるいは国へ持って帰って一稼ぎしたいというのなら,彫金細工の首飾りあたりが良いだろう。ビルサは腕のいい職人が多いため,細工物の品質は世界一だからだ。
■アプトス大神殿
 智慧の神・アプトスの神殿。アプトスは智慧・学術の神であると同時に商業と旅人の守護神でもある。そのため,商業都市ビルサでも最も古くに建立された。多くの大商人からの寄進によってその神殿は常に絢爛豪華であり,ビルサで唯一「大」神殿と呼ばれる。中小規模の商人の参詣も絶えない。また,ビルサ大学の学生もよく参拝しているが,お参りに熱心な学生ほど成績が悪いというのは世の常である。なお,商人や旅人の懐を狙うスリ・ひったくりも多いので,手荷物・財布にはくれぐれも注意のこと。
■ヴァスム神殿
 戦神ヴァスムの神殿。勝利・成功の神であるため,傭兵や冒険者,賭博師といった人々の信仰を受ける。また,武器の神でもあり,武器職人にも篤く信仰されている。周辺にはそういった人々のための宿泊・飲食店も多く,若干荒っぽい気風がある。さらに神官も気性が荒いので,うかつな相談をすると殴り倒されてしまうだろう(彼らは「これも説法である」と言うが)。
また,周辺の地域は武器関連の各種鍛冶屋,大工などの職人が多く住んでいる。
■ラミーサ神殿
 愛と豊穣の女神・ラミーサの神殿。愛といえば恋愛,と考える人間が多いが,ここでいう愛というのはもっと具体的な愛,すなわち性愛のことを指す。そのため売春業者から絶大な信仰を受ける。周囲には娼館が建ち並び,ある種の異世界となっている。はっきり言えば,ビルサで最もアヤしい地域である。周辺路地には魅力的かつあこぎな売春婦(多くはサキュバス)が手ぐすねを引いて待ちかまえているため,特に男性は要注意。ちなみに,神殿では不妊・不能の治療も行っているため,それらの悩みを抱える人々の参詣も絶えない。
 なお,いちおう豊穣の女神でもあるため,近郊の農民の信仰も篤い。が,朴訥な農民は猥雑な神殿周辺には近づきたがらず,自前の祠を祭っていることが多いようだ。

【民間施設・店舗】

■キダシュ医院
 アプトス神殿参道に面する町医者。キダシュ氏はビルサでもかなりの古老であり,誠実な人柄と確かな腕で愛されている。ただし,リザードマンらしい無表情さと妙にひんやりした屋内は,初心者には不評である。やたらと苦い薬も不評であるが,効き目は抜群。ビルサで体調を崩したなら,国立の施療院よりもここへ行く方が確かだという話もよく聞く。ただし,施療院と違って有料。
■ナイアのお店
 魔導具店。看板も店名もかなり怪しいが,風俗店ではない。美貌と巨乳で有名な,かの大魔導士・ナイア氏が経営する。最近若い弟子を取ったらしく,夜な夜ないちゃつく声が外まで響くため,青少年が聞き耳を立てている様もよく見られる。‥‥重ねて言うが,風俗店ではない。筆者はかつて間違えて入り,店主氏の尻尾によってしたたかな一撃を食らったと言うことを恥ずかしながら添えておく。品揃えも豊富である由だが,悲しいかな一般人である筆者にその良し悪しは判断できない。目の保養に行くのも悪くないが,店主氏の胸元に気を取られて無用の買い物をしないよう注意されたい。‥‥

「ちょっとなんなのよこの書き方は!?」
「俺が書いたんじゃありませんってば!」

「‥‥外まで聞こえてたのね‥‥」
「‥‥どうしましょう」
「ま、いいんじゃない? あたしは声を抑える気なんてないし、聞かれても別に気にならないし」
「‥‥少しは恥じらってください。嘘でもいいですから」
「あんたも共同責任でしょうが」
「う‥‥」

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