師弟夏旅行〜海水浴編〜

 ぼんやりと、意識に霞が掛かったまま‥‥心地よい暖かさに抱かれて、柔らかな感触に沈む。温かくて、滑らかで‥‥。
「‥‥ん‥‥」
 柔らかくて、温かい。なのに、どこかくすぐったい。それが何かはよく分からない‥‥良く知っている感触、そんな気がする‥‥けれど‥‥。
「‥‥ふふ‥‥まだ起きないの?」
 ‥‥声だ‥‥師匠の声‥‥。んん‥‥。
「いいかげんに目を覚ましなよ、ほら‥‥」
 また、声‥‥――うわっ!?
「あん、急に飛び起きないでよ。そんなにびっくりした?」
 思わず起き上がって横を見ると、全裸の師匠がくすくすと笑ってる。俺の上になかば乗りかかりながら、添い寝していたらしい。‥‥び、びっくり‥‥しました。ものすごく。寝てる最中に耳元で囁くのはともかく、耳を舐めるのは勘弁してください。
「し、師匠‥‥起きてたんですか」
「起きてたわよ。もう朝って時間じゃないのに、珍しくあんたが起きないから‥‥どうやったら起きるかなー、と思って観察してたんだけど」
「うあっ‥‥」
 言葉と同時に、股間に刺激が走る。ちょっと‥‥こんな時間から‥‥!
「あれだけたっぷり楽しんだのに、しっかり朝立ちするのね‥‥いい感じよ」
 生理現象で勃っていたそれに、ナイアさんの指先が絡み付く。そして亀頭を丁寧に揉んだかと思うと、付け根から包み込むように掴み、優しく上下する。
「パンパンになってるじゃない‥‥一回抜いてあげるわ」
 返事をしようとしたときには、もう手遅れ。開きかけた唇は指先で即座にふさがれた。シーツを跳ね飛ばすほどの勢いで起き上がったナイアさんは、それが待ちに待った朝ご飯だといわんばかりにむしゃぶりつく。遠慮なしの舌使いと唇の愛撫。喉奥まで使いそうな、深い愛撫が襲いかかる。快感のあまり腰に力が入ってしまう――それを感じてだろう、愛撫が中断された。じゅるるっ、といやらしい音をことさらに響かせて、視線を俺のほうへと返し――
「ガッチガチね‥‥どうする? このまま口でしてほしい? それとも‥‥入れたい?」
「これって自然にそうなるだけで、別に溜まってるからってわけじゃないんですが‥‥」
「そう、口でイかせて欲しいのね。いいわ、いっぱい出しなさい‥‥」
「人の話を聞いてくださいよー!」

* * *

「く‥‥う、あ、‥‥っ!!」
 射精の後も、ナイアさんは唇を離さなかった。じゅぅぅうっ、と音を立てて残っている精液を吸い出そうとする。もう残ってません、と言おうとしても、その瞬間を見計らったかのように鈴口を舐め、あるいは根元まで一気に呑み込む。こ、このままじゃまた絞られてしまうっ。
「んんっ‥‥美味し‥‥。あはは、まだ勃ってる。ね、あんた自分のチンポが無節操だって自覚してる? 夜にはいっぱいして、でもちゃんと朝立ちして、しかも一発出しただけじゃ萎えないなんて‥‥」
 衣擦れの音を立てつつ、ナイアさんの上体が這い上がってきた。へそ、胸元、首筋、そして耳元に軽いキスを落としながら。もちろん、手は股間を掴んだままだけど――さすがに、「朝の部」はこれでお終い、だよね。そう‥‥ですよね?
「あんたのをしゃぶって、濃いのを飲んで‥‥暑くなってきちゃった」
 不穏な空気だ。もちろんこれが夜なら不穏でも何でもなくて、大喜びで覆い被さるところなんだけど‥‥!
「お願い、軽くでいいから‥‥抱いて‥‥」
 だ、だめだ。このまま襲ったら、もう絶対「軽く」で済むわけがない。ナイアさんが「軽くでいいから」と言ってその通りに終わったことなんて、一度もないんだ。でも体を這い回る指先や鱗の感触、そして股間をしごく手つきは、俺の本能を直に揺さぶってくる。ううう‥‥。

 ――コンコン。
 理性と本能が口論を始め、殴り合いの喧嘩になりそうになったその時、いきなり仲裁の鐘が響いた。顔を見合わす俺と師匠。
「ちょっと邪魔するよ、入っていいかい」
 女将さんの声だ! さすがの師匠も慌てて口元を拭い、シーツを引き寄せて体を隠す。もちろん下半身はほとんど見えてるけど、これは気にしちゃいけない。
「ど、どうぞ」
 俺も急いで下着を着け、とりあえず股間を覆った状態で返事。間をおかずに、女将さんはドアを開け――
「悪いね、ちょっと話が――‥‥」
 口を開きかけたかと思うと、顔を一瞬引きつらせて黙ってしまった。と、わずかに固まった表情が今度は極めつけの苦笑いになる。
「‥‥ったく、元気だねえ‥‥凄い匂いだ、窓くらい開けなよ」
「(あんたのせいよ、あんたの)」
 顔を赤らめた師匠が俺の背中をつつく。俺だけのせいですか。小声で言い合いをしてると、こほん、と咳払いが。視線で振り返ると、何とも言えないあきれた視線が見てる。
「あー‥‥まあ、ここはそういう宿だからね、気にゃしないよ。で、そういう宿だから――ちょっとお願いがあるんだ」

 女将さんの言葉を一言でまとめれば、昼間をここで過ごされるのは困る、ということだった。たしかに、売春宿として営業しているのに、関係ない客を泊めていては他の客にけじめが付かないんだろう。幸い、俺と師匠は男と女‥‥女将さんの言葉を借りると「ヤることをヤってりゃ、素泊まりの客だとは感づかれない」。とはいえそれは夜の間の話。営業時間外――要するに昼間はそうはいかない、ということだ。
 実は‥‥女将さんがこう言ってくれて、俺はちょっと助かった気がした。だって海と観光が目的だったのに、このままだと朝から晩までナイアさんに絞られてしまう。‥‥朝から晩までかぁ‥‥っと、いやいやいや。それはそれで素敵なんだけど、やろうと思えば家でもできることだ。せっかく旅先なんだから、こっちじゃないとできないことを優先しないとね。

* * *

 日よけの帽子が飛ばないように押さえながら、先をずんずん進むナイアさんが振り返って手招きしてる。もうちょっと、ゆっくり、歩いてください‥‥うう、胃が‥‥。朝昼兼用の食事は地元の名物「虹鯛の唐揚げ」――これはいいんだ。美味しかったし。でもその後で出た「とげはまぐりの酒蒸し」とやらが‥‥どう言えばいいのか、味は悪くないんだけどうんざりするくらいしつこくて、しかも量が多かった。そして食後はさっそく海岸へ行くことに。
「ほらラート、しっかりしなさい! 海で遊ぶ、ってのをあたしに満喫させるのがあんたの仕事よ!?」
「ちょ、ちょっと‥‥うぷっ‥‥」
 よたよたと足を進めながらどうにか師匠の所までたどり着くと、
「どうしたのよ。食あたり?」
「いえ、ちょっと、食べ過ぎみたいです‥‥」
 いちおう心配はしてくれるみたいだ。そういうのがあんまり態度に表れないのが、師匠らしいといえば師匠らしい。
「まったく‥‥そういう間抜けなところをあんまり見せないでよ。――を食べたぐらいで」
「ううっぷ‥‥すいません‥‥。え、何がですか‥‥」
 何かを聞き漏らした気がして、訪ねてみても答えが返ってこない。‥‥なんだかとても重要なことを聞き漏らした気がする。気のせいかな。
「もう、仕方ないわね‥‥ちょっとこの辺りで休んでなさい」.
 建物の陰に適当な空き箱を見つけた師匠は、俺をそこへ引っぱって行く。日陰で腰を下ろすと、重い荷物を下ろしたときのような開放感がふわりと感じられる。
「師匠はどうするんですか」
「ん、ちょっと馬車でも呼んでくる。徒歩で充分行けるそうだけど‥‥あんたに合わせてたら全然進まないし、歩くのめんどくさいし。――馬車が来るまでに治しておきなさいよ。まったく‥‥師匠にこんな雑用をさせるなんて、困った弟子なんだから」
 すいません。

* * *

「ふーん、結構人がいるのね。みんな暇なのかしら」
「‥‥人のことは言えませんよ」
 街近く、岬の東側に広がる砂浜。太陽の光を浴びて砂が白く輝き、波の泡も光って見える。そして波打ち際に遊ぶ人や、砂浜で休む人。中にはわざわざ大きな傘を立てて、その陰でくつろいでいる人までいる。もちろん、種族もいろいろだ。俺が思っていたよりもずいぶん賑やかで‥‥どうやら、「海で遊ぶ」っていうのがこの地域では娯楽として定着してるらしい。乗合馬車が小屋に控えて客待ちまでしてる。――俺の故郷じゃそういう言葉はなかったけど、このあたりでは「海水浴」なんて言葉さえあるそうだ。ナイアさんに「海で遊ぶ」っていうのを教えるつもりだったのに、もしかすると俺まで教わる立場なのかも。それはそれで珍しい体験だ。
「あの辺、店があるのね。行ってみましょ」
 言うやいなや、ナイアさんは砂地に跡を残しながらするすると進み始めた。‥‥なんだかずいぶん速いんですが‥‥もしかして浮かれてますか、師匠。

*

 これほど誇らしげなナイアさんを見るのは、これが初めて。そう言いたくなるほど、ナイアさんはふんぞり返っている。――それはもう、思いっきり視線を集めてるから。
 さっきの店は、「着替え」の場所だったんだ。なんでもこの辺りじゃ、海に入るときにはわざわざ専用の衣装を着けるとか。土地の習慣には従わないとね、ということで、その店で売っていた衣装を買ったわけだ。で‥‥男の場合は下着とほとんど変わらないんだけど、女の人の場合は――
「んふ、ふふふ‥‥ねえ、似合ってるでしょ?」
「似合ってます、似合ってますから見せつけないでくださいっ」
 ただでさえ肌露出の多い師匠、本日のお召し物は‥‥これ、全裸と何が違うんだろう。三角形の布地で胸の先は覆ってるけど、あとは紐で結んでるだけ。泳いで流れちゃ困るから、ということで紐をきつめに結んだから、溢れた柔肉がむっちりとはみ出て殺人的なまでに色っぽい。前の大事なところも小さな布でどうにか隠れるかどうか。これも紐で結んであるだけだから、お尻は全開だ。‥‥ラミアのお客はめったにないから店にも置いてなくて、人間型用ので間に合わせたからきわどいどころの騒ぎじゃない。そしてそういう格好だからか、それともナイアさんの容姿がそうさせるのか、浜辺の視線を釘付けにしている。その視線の雨を感じてだろう、なんだか芝居臭ささえ感じさせる色っぽい仕草をわざわざ見せつけるように振る舞うからタチが悪い。前屈みの男がそこかしこにいる。‥‥俺もね。
 そしてナイアさんへの視線は、手を繋いでいる俺にも降り注いでくる。悪意じゃなくてきっと羨望なんだろうけど、だからといって胸を張る気分にはなれず‥‥どっちかというと恥ずかしさばかりを感じてしまう。もちろん、心の中には誇らしさもたっぷりなんだけどね。だって‥‥この視線の主を、俺は毎晩独り占めしてるんだから。みんなの視線を集めてる部分がどんな感触なのか、知っているのは俺だけ。
「あんたさぁ‥‥恥ずかしがるかニヤつくか、どっちかにしなさい」
 ごめんなさい。

* * *

 それからはもう、ちょっと恥ずかしいぐらいはしゃいだ。最初は砂浜や波打ち際を走り回ったりしたんだけど‥‥師匠の尻尾が他の人を豪快に跳ね飛ばして海へ叩き込んでしまう事故があったので中止(もちろん謝ったのは俺だ)。あとは水辺でばしゃばしゃやったり、並んで泳いだり。泳ぐことに興味はなさそうだったのに、ナイアさんの泳ぎが実はかなり速いのには驚いた。まあ、人間とは体のつくりが違うからね。蛇の下半身を左右に振って、しゅるしゅると泳ぐんだ。ときどき海面から顔を出す鱗が夏の太陽にきらめいて、宝石の帯のように輝く。そんなナイアさんの雰囲気に当てられたのか、だんだん俺も大胆になっていく。泳いでいるナイアさんの体にちょっかいを出したり、人目も気にせず唇を交わしたり‥‥。
 体が冷えたら砂浜に上がって軽食を食べたり、また海へ入ったりして‥‥そうこうしているうちに少しずつ太陽は傾き、色づいてゆく。人も徐々に減り、帰り支度も目立ち始めた。馬のいななきが聞こえたかと思うと、乗合馬車が車輪を響かせながら遠ざかっていった。それでも、まだ浜辺には人影が残っている。帰りたくなくてだだをこねている子供、それをなだめる親もいるけれど、それ以外にもいくらもいる。大抵は若い男女――俺たちもその一組なんだけど。赤みを帯びた金色の光を浴びながら、砂浜の端に近いところにいる。海流の具合か、そこは波も穏やか。二人で仰向けに浮かんでいた。
「うぅ〜ん‥‥気持ちいいわー‥‥」
 くつろいだ声を上げるナイアさん。見れば、両手を左右にだらんと伸ばして仰向けに浮いてる。海は広いから下半身も伸ばし放題だ。幅広の鱗が波間に長々と浮かんで見える。そして、二つの膨らみが小山のように水面から盛り上がって影を作る。‥‥なかなか壮観だ。
「塩水が目に染みるのはともかくとして、水の中って思ったより気持ちいいのね‥‥」
「気に入ってもらえました?」
「うん。合格よ。‥‥つまらなかったらどうしてやろうかと思ってたんだけど」
「‥‥それは何よりです」
 ナイアさんは軽く笑うと、ばしゃんと音を立てて今度はうつぶせに転がる。横からたっぷりはみ出す、柔肉。顔をこちらに向け、妖しく微笑む。夕日に染まったその肌は、いつもの艶やかさにもう一味も二味も加えたような色香を漂わせる。俺の視線を返すように眼を細め――視線を俺の後ろ、浜のほうへ向けて、口を開いた。
「‥‥見てごらん、あっちの二人」
 指さす方へ目を向ける。紅い残光に照らされながら、砂浜に座った若い男女が唇を交わしていた。長い間そうしていたかと思うと、二人の影はゆっくりと砂浜に倒れ込んで――。薄暗がりに目をこらしてよく見れば、そのずっと向こうにも似たような影がごそごそと動いている。浜辺にいるのは、俺たちを含めてもう三組だけのようだ。魅入られたようにそちらを向いていると、知らず知らずのうちに熱が顔に籠もって――。そして、勘の鋭いナイアさんがそれに気付かないはずもない。いつの間に近づいたのか、耳元で囁きが聞こえた。
「――キス、して‥‥」

* * *

 岬の向こうに見えていた赤みはもう消えてしまい、群青色の空には満月が顔を出していた。それをはばかるようにして、暗みに星々が瞬く。さわやかで、それでいて少し神秘的な波音が響き、泡が足をくすぐった。
 暗がりの中、月明かりに白い肌が浮かぶ。柔らかく、しなやかで、張りのある肌。ほっそりした指に掴まれて砂がえぐれ、そして波に洗われて元通りになっていく。
「いい、いいわ、ラート‥‥。奥まで、届いてる‥‥っ」
 ゆっくりと腰を動かし、根元まで押し込む。蕩けた声が、海風にかき消されながら響いた。寄せる波に合わせて、ナイアさんの奥底を突く。静かなベッドの上でなら淫らな粘液の音が聞こえるはずだけど、それは聞こえない。代わりに、波の音とナイアさんの喘ぎが不思議な和音を奏でる。
「あ、ぁ、あぁんっ!!」
 砂のまとわりついた手が、腕にしがみついてくる。俺の肌を求める仕草だ。眉根を寄せて、眼を潤ませて切なげに乱れる表情。なのに、濡れた唇の奥に潜む舌が、淫らに蠢いて俺を誘う。そして‥‥この誘惑に耐えられたことは、今までに一度だってない。
「ナイアさん‥‥!」
 我慢できずに覆い被さる俺の体。波と夜風に表面が少しだけ冷えた乳房が触れ、むにゅっと形を変えて受け止めてくれる。でも、肌が触れあうと内側の熱さが伝わって‥‥それを感じながら、思いきり身体を抱きしめた。唇を重ね合い、俺を誘惑していた唇とじゃれ合い、絡み合う。熱くたぎった口の中、そこで熱を湛えて待ちかまえていた舌。互いに息を荒げながら、言葉もなく貪り合う。繊細な指先が俺の背中、腰、そして尻の近くまで這い回る。せっぱ詰まったような渇望を爪先に乗せて。
 砂浜から浮かせるようにして、ナイアさんの腰が押しつけられてきた。それに応えてぐいっと腰を押し込むと、お返しの反応は背中に表現された。爪が食い込んでも、それはナイアさんの気持ちだからありがたく受け取る。
「んんぅっ! いい、気持ちいいっ‥‥!!」
「こう?」
「そう、そうよ、ああ、あぁあっ!!」
 根元まで差し込んで、腰の動きだけで奥を突く。大きく動いて中を掻き乱すんじゃなくて、突く衝撃で子宮を揺さぶってあげる――その攻め方がお気に召したみたいだ。とん、とん、とん、と拍子を刻んでゆくと、穏やかで甘ったるかった喘ぎが燃え上がり始めた。
「いい声だよ、ナイアさん‥‥もっと鳴かせてあげる。波で聞こえにくいんだ‥‥」
「はぁ、ぁああっ!! あ、あ、あぁっ!! いいわ、すき、これ‥‥っ!!」
 俺の言葉を聞いてなのか、淫らな声は波音を裂いてはっきりと耳を打つ。その声がもっと聞きたくて、俺の腰が勇み立つ。子宮の入り口をうれし泣きさせてやろうと、ドンドンと叩く。左腕はナイアさんの体をますます強く抱き、右手は二人の間に入り込んでおっぱいを揉みしだく。唇、頬、首筋、耳。口がとどく範囲で手当たり次第にキス。激しい淫声に、うわごとのような言葉が混ざりはじめる。
「あああぁんっ、はぁっ、ぁ、ああっ!!! すき、ああ、これが、ああ、たまらない、の‥‥っ!!」
「この攻め方、いつもそこまで燃えないのに‥‥今日は大好きなんだ?」
「好き、好きなの、ああ、すごいっ‥‥!! あんたの、固いのが、あ、はぁっ、子宮を、く、狂わせてる‥‥っ!!」
 俺を抱きしめ、俺に抱きしめられながらも思いきりのけぞるナイアさん。背中に食い込む爪は、血が流れそうなほどに痛い。その痛みが、俺の力の元になってる気さえする。足のほうでは下半身が暴れ回って波を打ち、砕いている。その激しい暴れ方に合わせるように、俺の体も暴れ始めた。ナイアさんにもらった熱、そして体の中に沸き立つ熱。激情。それをチンポに込めて‥‥!
「ナイアさん、ナイアさん、ナイアさん‥‥っ!!」
 うわごとのように口から溢れるのはその言葉だけ。何も考えられずに、感情と本能が荒れ狂う。すべての熱をぶちまけたいのに、嵐は出口を求めて渦巻くばかり。――自分の腰が暴れていることに気付いたのは、響き渡る喘ぎが凄まじい荒さになってからだった。
「く、ああ゙っ!! す、ご、‥‥っく、くあ、はぁっ――ぁぁああっ!! だめ、また、ぃっ――くぅううっ!!!」
 バンッバンッと腰が跳ね、奥の奥を突き破らんばかりに攻め立てる。絶叫と絶頂で肌は薄紅に染まり、爪先から髪の先まで全身で快楽を表現し、俺に見せつける。なんていやらしい人なんだろう。――たまらない。何から何まで、本当に‥‥!
「あああぁっ!! ああっ!! か、はっ、んああああぅううっ!!」
 耳を打つ声はますます荒く、激しく、淫らに燃え上がる。波の音はもう伴奏ですらない。聞こえるのはナイアさんの絶叫だけ。全身に感じるのは煮えたぎる体温、そして――
「ああぁあっ、ラート、ラート、す‥‥き‥‥っっぁああああああっ!!」

「ん‥‥ん‥‥っ」
 満ちてきた潮に半ば浸かりながら、それでも離れられずにいた。大切なところを合わせたまま、抱き合ったまま、唇を重ねたまま。不思議なほどに冴え渡る月明かりの下で、いつまでもそうしていた。
 続けて三回したんだから、足りないって訳じゃない。でも、いくらでもしたくなる。このままどちらかが少しでもそういうそぶりを見せたら、もちろんそのまま継続になるだろう。でも‥‥さすがにそういうわけには、ね。名残惜しいけれど、と未練たっぷりにもう一度唇を重ね、離して、でももう一回だけ。それでようやく二人の意見は一致した。ゆっくりと腰を引き、一番奥まで入り込んでいた肉棒を引き抜く。
「あぁ‥‥ん‥‥。抜いちゃうの‥‥?」
「そうしないと宿に帰れないでしょ?」
 まだ未練を残すナイアさんに、ちょっとふざけた調子でキス。それに合わせて、なぜかチンポがびんっ、と跳ねた。‥‥おかしい。いつもなら少しは疲れてるはずなのに。昨日の夜だっていつもより五割増しくらい激しかったんだけど‥‥って、ちょっとナイアさん!? なんでまたしごいてるんですか!?
「んふふ。なるほど、さすがは名物・とげはまぐり‥‥精力増強効果は抜群みたいね」
 え‥‥えぇっ!? とげはまぐり‥‥あの、くどい味の、あれ‥‥そーゆーモノだったんですかっ!?
「ふっふっふ。旅行へ行く前には土地の食べ物のことをちゃんと予習しておくものよ? そうすれば美味しいものも食べられるし、こういう素敵なモノにもありつけるってわけなのよねー」
 ‥‥参りました。なんだかやるせない気分の俺を尻目に、ナイアさんは体を起こして大きく伸びをした。おっぱいがぶるんと跳ねて、月夜に映える。律儀に反応する俺の股間。自分の持ち物とはいえ‥‥節操のない‥‥。そういえば今朝も無節操だって言われたっけ。

「さーて、帰りましょうか。遅くなって閉め出されちゃかなわないものね。馬車も残ってないみたいだし、速めに歩きましょ」
 きわどい服を着なおす師匠。岩陰に置いていた手荷物を回収して、目指すは宿だ。
「宿に帰ったら‥‥そう言えばお風呂ってあるのかしらね。塩を流さないと。あとはご飯を食べて‥‥後半戦よっ。思いっきり、ね?」
 とびきりの笑顔でそういうきわどいことを言うんだから‥‥まったく、困った人だ。まあ、この旅行中に関しては俺も人のことは言えないけどね。

* * * * *

 ダハーシュのすぐ側、砂浜の沖‥‥波間に二つの頭がぷかぷかと浮いていた。
「まだヤってやがる‥‥」
「他の場所にするか? アタシは構わないけど」
「オレが構うんだっ。あそこはオレと姐さんの特等席だってのに‥‥」
 誰のものでもない砂浜に勝手な権利を主張する少年、そしてその体を支えつつ暇そうに浮かぶ人魚。二人は波が静かなその場所が空くのを、所在なげに待っていた。遠目にははっきり見えないが、砂浜で熱の籠もった交歓を繰り広げているのは、どうやら人間の男と異種族の女のようだ。女の下半身は人間と大きく異なるらしく、あたりの水を派手に跳ね飛ばしている。その乱れようは相当なもので、声さえ波間の観察者たちまできれぎれに届いてくるほどだ。
「んん‥‥? あの声‥‥どっかで聞いたような‥‥」
「‥‥アタシの前で他の女の声に聞き耳立てるとは、いい度胸だなあ‥‥ぼうず?」
「い、いや、そういうつもり――っ!?」
 弁解しようとした口を、褐色の人魚は前触れもなく唇で塞いだ。――そのまましばらくして、
「前に言ったよなあ‥‥泳ぎながらヤるのも燃えるぞ、って」
 月を背にした獰猛な笑み、そして有無を言わせない腕力――かなづち少年の悲鳴は、折しもの波にかき消されてしまった。

(終)

夏旅行編・後半でした(夏は終わってるけどな!)。エロより掛け合いを中心に書いていたら、どうしようもなくバカップルに。

小説のページに戻る