鉱石の使い途

「姐さーん、おーい‥‥っくぅ、重てぇ‥‥って、おいこらラート! てめぇ何ぼーっと見てやがる! さっさと手伝え!!」
 得意先にご用伺いに行った帰り、職人街の坂道を行くファイグの姿が見えた。‥‥反応が後れたのは必ずしも俺が不注意だからじゃない、と思う。なんたって大荷物を背負ってるから、後ろからじゃ誰だか分かるわけない。坂の下から見上げてるからなおさらだ。横を通り過ぎて振り返り、それでも顔はうつむいてるし、頭の上まで荷物が来てるからやっぱり誰だか分からない。声を掛けられて、ようやくそれがファイグ――うちに出入りの問屋――だってことに気がついた。
「うわー、何だよこの荷物‥‥もしかしてうちの仕入れ?」
「だー! 黙れアホ! この辺の店で『姐さん』っつったらお前の師匠しかいねぇだろ!! んで姐さん以外の誰がこんな重てぇ大荷物を俺に頼む!? いいから手伝えこの野郎!!」
 ‥‥相変わらず口が悪いなあ。
「荷車に積めばいいのに‥‥わわっ!?」
 重っ!!
 荷物の片方を不用意に受け取ると、危うく肩が抜けるかと思うほどの衝撃が来た。
「ふぅ、だいぶ楽になったな。‥‥荷車か‥‥全部一気に乗っけたら車軸受けが壊れちまった。仕方ねぇからとりあえず半分持ってきたんだが――どうよ、俺の苦労が分かったか」
「うっ‥‥わ、わかった‥‥で、‥‥これ、中身は‥‥」
 ファイグは荷物運びに慣れてるせいか、三分の一の荷物を手放しただけでずいぶん楽そうだ。俺はと言えば息も絶え絶え‥‥。すぐそこに店が見えてるのに、なんでこんなに遠いんだ‥‥。
「この前の鉱石。結局名前もまだ無いって話だが、姐さんが大量の追加注文をしてくれてな‥‥って、お前聞いてねぇの?」
「ぜ、全然‥‥」
 重たい。ひたすら重い。腰が折れそう。‥‥足腰は痛めると師匠に何をされるか分からないから、それは避けたい。うー‥‥。
「よーし、着いたな。――おいおい、もうへばってんのか? ったく‥‥なんでこんなのが姐さんの弟子なんだか‥‥ま、いいか。――おーい、ナイアの姐さーん、荷物持ってきたぜー!」
 ううっ、好き放題言われてる。荷物を一旦下ろして腕を回してみる。あー、疲れた。
 ファイグも荷物を下ろし、体だけ店に入って中で師匠と話してる。師匠のなんだかはしゃいだ声が聞こえるけど、俺はそれどころじゃ‥‥。

* * *

 ファイグが意気揚々と帰ったあと、店に戻って運び込んだ荷物をほどくと、麻袋の中には嫌というほど例の鉱石が詰まっていた。袋の編み目からも細かい砂埃がこぼれて――やだなあ、床が汚れそう。たださえ埃っぽい街なのに。
「それにしても、なんでこんなにたくさん‥‥?」
 この前仕入れたこの石。ファイグは伝説級の魔導鉱石「秘星石」だと思って持ってきたんだけど、実際は未知の鉱石だった。確かに調べる価値も必要もいっぱいある。でも、性質を調べるにしてもこんな量が必要なんだろうか。少なくとも師匠はむやみに材料を無駄にする人じゃないし、今までの実験の様子からしてもこれほど大量の材料を使うことはなかったと思う。そう思って聞いてみると、師匠は人差し指をぴっと立てて胸を張り、
「ふふん。ラート、私の肩書き、言ってごらん」
「‥‥大魔導士ナイア様です」
 えらそうに「うむ」とうなずいて、もったいぶった様子で口を開きはじめた。
「そう、あたしは大魔導士様なのよ。で、その大魔導士様が一ヶ月もかけて――夜はあんたがさんざん邪魔してくれるけど――、とにかく一ヶ月もかかって新発見の鉱石を徹底的に調べたのよ? 性質や応用法、見抜けないと思ってんの?」
 ‥‥一言たりとも「分かった」とか「こんなふうに使えそう」とか言わなかったくせに‥‥。一人でうんうんうなずいてるとは思ったけど。
「えと、じゃあ、応用法が――」
「そゆこと。応用法が分かったから、次はそれを実用化するの。ふっふっふ、あたしのすごさ、その身で思い知るがいいわっ!」
「‥‥!?」
 ま、待って、何ですかその脅しかたはっ。
「おっと。何をやるのかはお楽しみ。ま、うまくいったら売れるよ、これは。とにかく試作品を作らないとね。‥‥よし、今日はこれで臨時休業。はいはい、そうと決まったらさっさと片付ける!」
 え、え、ええー‥‥?

* * *

「そっちはどうなのー」
「問題ないですー」
 ごうごうと放炎器がうなり、鉱石が一杯に入った石製の容器へ炎を吹き付ける。最大出力だ。最初は火花がばりばりと飛び散っていたけれどそれは落ち着き、鉱石が赤熱している。青白い光を放つ雫が、その熱せられた鉱石からときおりぽたぽたと垂れ、容器の底に開いた穴から薬液の入った容器へと落ちてゆく。
「抽出物は大丈夫ー?」
「見たところ大丈夫です‥‥」
 薬品溶液へ落ちるたびに、雫は緑色の火花を散らして消えてゆく。この火花が出なくなれば、第一段階は終わり、らしい。
「ふんふんふん‥‥ふふんふん」
 師匠が鼻歌を歌ってる。珍しい‥‥っていうか、なんでこんなに浮かれてるんだ。ちょっと気持ち悪いぞ。歌いながら、次やその次の段階で必要な薬を調合してる。上機嫌なせいか、材料の計り方が大雑把な気がするんだけど‥‥きっと大雑把でも構わない調合なんだろう。
「あれっ‥‥計り間違えたかな‥‥まあいいわ、エーテルで希釈すれば――ああっ、薄まりすぎたっ」
 ‥‥大雑把すぎます、師匠。ほんとに大丈夫なんですか。
 そうこうしてるうちに、緑色の火花がだんだんと赤みを帯びてきた。
「師匠ー。火花の色が変わってきましたー」
 音がうるさいからはっきり聞こえるように話すんだけど、我ながら間抜けな口ぶりになってると思う。
「んー。順調順調っと‥‥ふっふっふ」
 なーんか怖いな‥‥嫌な予感が‥‥。

* * *

 それからしばらくして、第一段階は終わった。今度は雫が溶け込んだ溶液を反応させる、らしい。
 紫マンドラゴラの煮汁、三ツ目なまずの干し肝、黒水晶の粉末を順に放り込んで、氷精石から作った冷気で冷やす。色が変わってから、今度はそれを煮詰めてゆく。‥‥臭いっ。緑色の煙が猛烈に臭いっ。
「師匠‥‥これ、臭いです‥‥っ」
「臭いのが分かってるからあんたにやらせてるんでしょうが。我慢我慢‥‥ほらほら、手を休めない!」
 あっ、自分だけ部屋の隅っこに避難してるなんてずるい!
「ああそうだ、その煙はあんまり吸わない方がいいよ。禿げるから」
「!?」
「嘘に決まってるでしょ」

 それから様々な工程を経て、ついに「試作品」ができた――らしい。大鍋一杯にあった鉱石から抽出され、固められたそれは、小指の爪ほどの大きさだった。丸い玉が、紅く光って存在感を主張している。充分冷えていることを確認すると、師匠はそれを慎重につまみ上げた。光にかざしてでき具合を観察する。なんだか口元がほころんでいるように見える。言いがかりかも知れないけど、こっちは何も知らされてないのに一人でにやにやされるとあんまり楽しい気分じゃないな。
「‥‥で、師匠、そろそろ何を作ってたのか教えてくださいよ」
「んふふふふふっ。だーめ。――はい」
「へ?」
 嬉しそうに眺めていたと思ったら、その粒を俺の口先に持ってくる。‥‥まさか飲めとか言わないよな‥‥。
「ほら、さっさと飲みなさい。大丈夫だって‥‥たぶん」
 何ですかその「たぶん」は。不安に駆られながらも、その粒を受け取る。指先にぴりっとした痺れが走った。うあ、なんか物凄い量の魔力が凝り固まってる‥‥。
「えーと、俺の予想なんですけど‥‥これ、飲んだら魔力が高まったりします?」
「へぇ、なかなかいい線いってるじゃない。ま、飲めば分かるって」
「‥‥何で師匠は飲まないんですか?」
「あたしには必要ないから」
 澄ました顔で答える師匠。いかにも「たいしたことじゃないから早く飲め」って感じだけど、蛇の尻尾が床の上でぴこぴこと跳ねている。浮かれてる証拠だ。――怪しい。怪しすぎる。なんなんだこれは。見た目はきれいだし、特に意識しなくたって指先から伝わってくるほど魔力も強い。でも師匠の態度が妙にひっかかる。だいたい、師匠が俺に何かさせようとするときってのは‥‥あっち方面の何かだったりする。――超強力精力剤だったりして。まさかね。
「‥‥ほんとに飲むんですか?」
 聞いては見たけど、返事がない。代わりに、きらきらと期待に満ちた眼が俺を見つめる。くっ、くそー、ええい、なるようになれ!

*

「‥‥どお?」
「なんか‥‥身体が熱い、です‥‥。師匠、やっぱりこれって――」
 どくんっ。
「うあっ!?」
 自分でも驚くほど大きな鼓動、それが響くと同時に体が熱くなってきた。鼓動はますます力強く、激しくなっていく。体の熱も、燃え上がるように高まっていく。や、やっぱり変な精力剤だったんじゃ‥‥!
 師匠の指示とはいえ、うかつに呑み込んだことを後悔しながら数十秒の間体の熱さをこらえていたけど、不意に平衡感覚がおかしくなって椅子にへたり込んでしまった。頭を動かすと気分が悪くなりそうだから、首だけは前を向いたまま。意識ははっきりしてるのに、周りの音だけが――現実感だけが急速に遠ざかっていく。
「うふふっ、‥‥い、すっご‥‥やっ‥‥りあたしは‥‥の大‥‥士‥‥、ああ、すご‥‥‥‥れ‥‥う」
 師匠のはしゃぐ声が、とぎれとぎれに遠くから聞こえる。俺はと言えば、まるで体が自分のものじゃないかのように熱いばかり。椅子から立ち上がることもできず、荒れ狂う熱の暴走を茫然と意識することしかできない。瞳も動かせない。中空の一点だけを見つめて、その他は何も視界に入らない。見えているのに、意識できない。音も、耳の奥がキーンと響くような、不思議な無音だ。幾部屋も隔てているかのように遠くから、師匠の声がわずかに聞こえるばかり。
「――ート、ラート、‥‥る? 聞こえてる?」
 かすかに聞こえた声の方へ、どうにか視線を動かす。師匠がほんのちょっと心配したような顔で、俺を見てる。――何か言ってるみたいだけど、ほとんど何も聞こえない。熱い。体が燃える。
 師匠の手が、俺の額に近づいてきた。――次の瞬間、
「どう、大丈夫?」
 突然、音が帰ってきた。体も動く。熱さは変わらないけど‥‥。
「うーん、ちょっと暴走気味ね。次からは調整しないと‥‥。さてラート君」
「なん‥‥ですか‥‥」
 声がうまく出せない。それを見た師匠が、もう一度俺の額に手をかざす。わずかに熱さがゆるみ、体も少し楽になった。
「下、見てごらん」
「下‥‥」
 床だ。特にどうということもない。
「違うよ。こ・こ・の・こ・と」
 そう言って師匠の指先がつつつ、と俺の鼻先から下りていき――
「何が――うわっ!」
 な、なにこれっ! いや、ある程度想像はしたけど!
「ふふ、自分で気付かなかったの? ああ、すっごいわ‥‥いつものあんたも凄いけど、今日はそれどころじゃないわね‥‥」
 いやその喜んでる場合じゃなくて‥‥。
 ――下、師匠の指がたどり着いた所を見た。案の定と言うべきか、股間がギンギンになってた。や・っ・ぱ・り怪しい精力剤ですかっ!! あまりといえばあまりな展開に頭を抱えていると、師匠が俺の股間に顔を寄せる。そして舌先をちろり、と布越しに這わせた。
「ああん、なんて熱さ‥‥火傷しそうね‥‥」
 うっとりとそう言うと、ちろちろと舌を使い始めた。紅い舌先が張り詰めた布地を濡らし、唾液が染みを作っていく。師匠の頭にはもうこっちのことしか無いみたいだ。もぉ‥‥なんなんだろう、この師匠は。淫乱蛇女めっ。
「だ・れ・が、淫乱蛇女だって?」
「痛たたっ! な、何にも思ってませんっ‥‥だから握りしめないでっ!!」
「すぐ顔に出るね‥‥ま、それがかわいいんだけど」
 い、いつものこととはいえ、なんで全部バレるんだろう。顔に‥‥出てるかなあ‥‥?
「こんな素敵なチンポしててさ、あたしを毎日気持ちよくしてくれるんだから‥‥あたしがスケベだとしたら、それは全部あんたのせいなの。分かった? ――んぅ、はふ‥‥っ」
 上目遣いに俺を睨んだかと思うと、すぐに気だるく色香たっぷりの微笑を浮かべる。そして器用な手つきであっというまに俺のそれを取り出すと、制止する間もなくくわえ込んでしまった。
 長い舌を絡めて――形は人間のそれと同じ、でも長さや動きは蛇に近い――その舌がカリの周りに絡み付いたかと思うと、にゅるっとした感触を与えながらしごき上げる。舌先を上下左右に細かく動かしながら裏筋を舐めていったり、そうかと思えば一気に喉奥まで呑み込んでしまったり。その間も白い手は動きを止めず、俺の体を這い回る。左手が玉の後側をくりくりと愛撫し、同時に右手が服の下へ滑り込んでへそや脇腹をするっとなぞると、俺の乳首を探り当てて爪先で軽くひっかくようにして弾く。三箇所に同時に襲ってきた快感に、思わず腰がびくっと跳ねてしまう。先が喉奥を突いたはずなのに、ナイアさんはむせもせず悠然としゃぶりたててくる。
「ああ、いいわ‥‥先走りもいつもより多いし、なんだかおいしい‥‥」
 じゅぽん、と音を立てて口からチンポを放すと、鈴口にちゅうっとキスをして、うっとりと微笑んだ。俺はと言えば、ナイアさんが愛撫してくれるところ全部に信じられないような熱さが渦巻いて、体がうれし泣きしてるような変な感じだ。強烈に気持ちいいのに、でもイきそう、ってわけでもない。もっともっとこれを味わいたい、不思議な感覚。――これもあの薬の効き目なのかな。
 なんて思っていると、今度は口を軽くすぼめてくわえ込み、カリの部分だけに唇がかするように頭を上下させてくる。いつもの吸い込みや舌の絡みつきとはまた違ったやりかただ。たまらない。じゅぼじゅぼと大きな音を立てて上下する頭、その髪に俺の手が吸い寄せられ、するりとすいた。白い耳に指が触れると、軽い吐息と同時に口元に笑みが浮かんだのが一瞬見えた。

 なんだか妙に濃い愛撫を受けて、俺のそれは限界まで反り返って腹にくっつきそうなまでになってきた。でも、ナイアさんはやめない。イかせるつもりなんだろうか――
「おいしい、おいしいわ‥‥口の中が、なんだか熱いの‥‥あんたのチンポで、あたしの口が‥‥犯されてる‥‥んはぅっ‥‥」
 甘ったるい声でそう言うと、またしてもむしゃぶりつく。見れば、目はとろんと惚けて淫らな熱を浮かべている。そして、じゅるじゅるじゅぼじゅぼといやらしい音を奏でて、おしゃぶりに没頭する。いつも口での行為はたっぷりしてくれるけど、普通はここまで長引かない。固さがしっかりしてきたら、今度はおっぱいで挟んでくれたり、キスを交わしながら互いのあそこをまさぐり合ったりして、それからおもむろに――って感じなんだけど。
「ねえ、イかないの? ‥‥イってよ、早く‥‥お願い、早くイって‥‥あんたの精液、飲ませて、いっぱい‥‥ちょうだい、早く、ねえ、気持ちいいでしょ、だから、ほら‥‥!」
 顔を上げたかと思うと、今度は常軌を逸した激しさでねだりはじめる。‥‥なんだか様子が変だ。こんな風に欲しがるなん、て‥‥うぁっ、ちょっ‥‥! 唾液でぬるぬるになった亀頭を、繊細な指が巧みに撫でまわす。間髪入れず強烈な吸い込みが襲いかかる。口の中では暴れ回るかのような舌さばき、そして頭どころか上半身全体を使った動きでの往復。いつのまにか椅子ごと俺を抱きしめていた尻尾が俺の唇をこじ開けて入ってきた。鱗にぴっちり覆われたそれは、深い口づけをしているときのように舌に絡み、口じゅうを犯してくる。応えて、俺の舌も尻尾を丁寧に愛してあげる。痛くないように軽く、でもちゃんと刺激が伝わるように噛む。鱗を舌で逆撫でしてあげると、尻尾が、体がぴくぴくと震える。いやらしい唾液音に、甘い吐息が交ざってきた。ナイアさんはチンポに没頭しながらも、自慢のおっぱいを俺の脚にすり寄せ、体をくねらせている。乳首がこすれるたびに吐息が鼻へと抜け、乳肉の形が変わるたびに甘ったるい喘ぎが漏れる。
「く、あ、すごいっ‥‥」
 刺激に耐えかねて、俺の口が開く。尻尾の先がつるりと逃げていった。
 俺の声を聞いてか、ナイアさんの口技はさらに激しくなっていく。指先は玉と竿の根元を這い回り、尖った爪が柔らかく引っ掻く。亀頭をなめ回す感触、呑み込まんばかりの吸引。卑猥な音がますます大きくなり、刺激が全部合わさって、俺の股間に襲いかかる。そして‥‥極めつけの、淫らな視線。――高ぶっていた快感はついに爆発し、ナイアさんの喉へとあふれかえった。
「ぐぅっ‥‥で‥‥るっ‥‥!!」
「んぅううっ!! んく、んぐっ‥‥ぷはっ、ああ、あああっ! 飲ませて、掛けて、もっと‥‥っく、あ、あ、だめ、あ‥‥あぁ‥‥!!」
 ナイアさんは最初の何度かの射精は飲み込んだものの、それ以上は飲めずに息を継ぐ。それでも射精は止まらない。魂ごとまき散らしてるんじゃないかと思うような、根こそぎ噴き出してゆくような射精。それがナイアさんの顔に直撃し、飛び散り、飛び越し、顔を、髪を、おっぱいを、お腹を、鱗を、すべてを汚していく。射精を続けるチンポを掴むと、またしてもむしゃぶりつく。まだ、止まらない。また飲み干せずに手を放す。まだ飛び散る精液。なにかに憑かれたようにそれを飲み、浴び、淫らに悶えるナイアさん。徐々に、本当に徐々に、勢いが衰え、量が減り‥‥どくん、どくんと最後に二回大きく跳ねて、何十秒か、もしかすると一分近く続いた射精は終わった。
「ああ、はぁっ‥‥ぁあぅ‥‥っ」
「ご、ごめん、ナイアさん‥‥目とか、大丈夫‥‥?」
 ナイアさんはチンポを握りしめたまま、力なくへたり込んでいた。そして、股間に顔を埋めるように倒れ込み、荒い息をつく――と思いきや、椅子に腰掛けたままの俺と抱き合うように、ずるずると這い上がってきた。精液にまみれた体がかくんとくずおれ、俺の胸に倒れ込む。
「‥‥掛けられて‥‥イっちゃった‥‥嘘みたい‥‥」
「それも‥‥あの、薬の効き目‥‥?」
「そう、かも‥‥ああ、はぁん‥‥体中、熱いよ‥‥ねえ、抱いて‥‥もう限界なの‥‥」
 胸板にすがりつきながらら、きれぎれに答える。どんな顔をしているのかは分からない。目を合わせちゃいけない、もし目を合わせたら、俺が俺でなくなりそうな――そんな気がしたから。股間はあっというまに元気に――いや、一瞬たりとも萎えてなかった。ナイアさんを食い荒らそうと、もう涎をしたたらせてる。抱きたい、襲いたい。前から、後ろから、犯して、めちゃくちゃにして、精液で染めて、何度も鳴かせて、壊してしまうほどに――

「だめだっ!!」
「ひゃうっ!?」
 俺は叫んだ――叫んでいた。なぜか分からないけど、何かが怖かった。激しく抱き合い、絡み合うのはいつものことなのに。今日はどういうわけか、このまま暴走するのが、怖くて――その暴走を振り切ろうと思ったときには、喉が声を上げていた。ナイアさんが驚いて変な声を上げた。
「な、何よ突然‥‥だめって‥‥どうして」
「え、う、それは‥‥、そう、そうそう、だってほら、ここは実験室だし――前にここでやって、機材がめちゃくちゃになったじゃないですか」
「そんなのいいのに‥‥じゃ、ベッドに行きましょ」
 ちゅっ、と俺の頬にキス。自分が掛けたとはいえ、ものすごい精液の匂いだ。――ナイアさんは片目を軽くつむって見せ、実験机の上にあった布で体を軽く拭くと、俺の手を引いていそいそと寝室へと向かう。――酔ったような異常に熱っぽい求めは収まり、いつのまにかいつもの様子に戻っていて‥‥俺はほっとした。でもそれはほんの一瞬、部屋を移る間だけの演技だった。寝室に入った途端にナイアさんは襲いかかってきた。――そして、目が、合った。蕩けて、熱っぽく、肉欲が溢れんばかりの瞳。

 欲望が、爆ぜた。

* * *

「つ、突いて、深くっ――あぁっ!! そこ‥‥っ、当たる、はぁ、あ、くっ、んああああっ!!」
 ナイアさんを組み敷き、貫く。ベッドにうつぶせにさせ、長い蛇の下半身を肩に担ぐようにして。ナイアさんが大好きな――ナイアさんが、「犯され」たい時にせがむ体位。汗と精液に濡れた背中が、ランプの明かりにぬらぬらと光る。
「あはぁっ!! し、しん、じられ‥‥ない、‥‥っ、あ、あ、こわれ‥‥る、こわれる、ああ、こわされちゃうっ‥‥!!」
 止めどなく流れる涙、涎、愛液。シーツを掴み、引っぱり、顔を横に向けて泣き叫ぶ。壊してあげるよ、と誰かが俺の声で言う。ますます狂乱するナイアさん。俺の腕がナイアさんの体を強く抱きしめ、結合部がより一層深く密着する。先端が子宮の入り口にぐりぐりと当たり、甘い悩乱がひときわ大きくなる――
「イく、イっくぅううっ!! らー‥‥とっ!! すご‥‥い‥‥っく、はあぁぁぁああっ!!!」
「イけよ、ほら、もっと壊してあげるから――」
「だめ、突かないで、イってる、イってるから、これ、いじょう‥‥ああああっ!!」
 誰かがまた、残酷な言葉を掛けながらナイアさんを壊していく。嘆願にも聞く耳を持たず、突き上げて、抱きしめて、ますます激しく、荒々しく。

 絡み合いは続いた。射精も二桁の回数になり、ナイアさんの体で白濁液に濡れていない場所はないも同然だった。射精のたびに、あの異常な量の精液が飛び散る。そして、そのたびに俺の意識が変になっていく。自分の体が自分のじゃないような、何もかもが人ごとのような。気持ちよくて、熱くて、たまらなく愛おしい行為なのに。体はますます激しくナイアさんを抱く。今まで試したありとあらゆる体位でナイアさんを貫き、責め立て、追いやって、絶叫させる。ナイアさんの狂乱だけが生々しく耳を打つ。汗ばんだ髪、大きく淫らなおっぱいが跳ねる。叫び続けて真っ赤になった喉が、反り返って絶叫する。
「っく、出す‥‥よ‥‥!!」
「あぁ‥‥はぁあっ‥‥」
 精も根も尽き果てたような、弱り切った喘ぎが聞こえた。何度目だろうか、下半身の熱がぶちまけられていく。

 ――そこで、意識が途切れた。

* * *

「はい、『あーん』って」
「いや、自分でできます‥‥」
「いいからいいから。ほら、食べなよ」
 ベッドに寝かされたまま、口元に麦粥が運ばれてくる。枕元にはでっかいおっぱい‥‥じゃなくて、師匠。ええと‥‥昨日の夜、あの変な薬を飲んで、師匠がしゃぶってくれて――覚えてるのはそこまで。あとは全然記憶にないんだけど、師匠と肌を重ねて‥‥その最中、俺は倒れたらしい。
「どう?」
「――おいしいです。‥‥すごく」
 俺の答えを聞いて、師匠は微笑んだ。麦粥なんて珍しくも難しくもない料理だけど、それはほんとに美味しかった。なんだよ、師匠って自分で料理ができるんじゃないか。
「起きられそう?」
「‥‥まだ、力が入りません‥‥」
「そっか。‥‥悪かったね、変なの飲ませて」
 変な薬――大魔導士ナイア謹製、超強力魔導強壮剤。勃起状態半日持続、射精量激増、そのうえ精液に性感作用が付くというおまけつき。それだけなら良かったんだけど――
「まさか、飲んだ人の魔力を勝手に放出しながら効果を発揮するようなことになるとは思わなかったわ‥‥。精神も遊離しかけて、その‥‥実はけっこうヤバかったの。ごめんっ!」
 平謝りの師匠。師匠がここまで謝るのは初めて見た。師匠のせいでこんな目に遭ってるとはいえ、あまりに慣れない光景だから、かえって居心地が悪い。なんといっても、記憶がないからあんまり怒る気にもならない。‥‥むしろ枕元で存在感を発揮する胸のほうがよほど気になる、というか目のやり場に困る。
「それで‥‥変なこと聞くんですけど、その――『良かった』ですか、薬の効いた俺って‥‥」
「‥‥ふふっ、あんたが倒れて、あわてて手当てして――動転したのもあって、あたしもあんまり覚えてないのよね」
 ‥‥なにそれ。徒労ですか。
「でも、気持ちよかったのは覚えてる。すごく激しくて、嫌っていうほどイかされて‥‥でも‥‥いつものほうが良かったな。何て言うか、その‥‥欲望だけ叩きつけてくる――そんな感じがした、気がするし。いつものあんたは‥‥その、ほら。ね?」
 そう言ってぽりぽりと頭を掻く。なんだか顔が紅い。
「そ、それはそれとして。ご飯済んだらこの薬を飲んでね。体力回復剤。大丈夫、あたしが作ったんじゃなくてキダシュ先生にもらったやつだから」
 黒い丸薬。リザードマンの老医師の顔が脳裏に浮かぶ。‥‥あの先生が作る薬というと‥‥うげっ。材料を思い出した。たぶんムカデだのなんだのをすりつぶした‥‥ううっ、あんまり飲みたくない。とはいえ抵抗するわけにもいかず、それを口に含み、師匠が差し出してくれた水で飲み下す。‥‥苦い辛い渋いっ。

* * *

 試作品を飲まされた翌々日。なんだかだるいのは残ってるけど、それでもいちおう普通の生活に戻れそうな感じになっていた。師匠と一緒に実験室の後始末をすることになって、例の鉱石の屑や薬液を処理することに追われながら、鉱石の使い途について師匠とあれこれ話していると‥‥どうやら師匠はあの薬にかなり自信があったようで、一山当てるつもりでいたらしい。けど、実際にはああいう作用があったわけで‥‥とうてい売り物にはならない。俺としては、ああいうモノを目玉商品にすることがなくてよかった、とある意味ほっとした。だいたい店の名前は「ナイアのお店」、看板は投げキスしてるラミア‥‥たださえ怪しい店だと思われそうなのに、そんな商品で有名になったら目も当てられない。
「でさー、あの鉱石‥‥やっぱり精力とかそういうのと関連した使い方がよさそうなのよねー。そうだ、射精防止‥‥いや、遅らせるような薬とか、どうかな?」
「また俺が実験台だって言ったら、さすがに怒りますよ」
「うっ。‥‥いやぁね、冗談よ冗談。反省してるってば」
 そう言うと片付けを中断して、ずるずるっと鱗のすれる音を響かせて近寄ってくる。そして白い腕を首に絡め、下半身で足を抱きしめ――
「反省してるからさ‥‥今夜――は、あんたの体がちょっと無理かも知れないけど、近いうちに、いっっっっっぱい、埋め合わせしてあげる。それで勘弁してよ。ね?」
 そう言って、軽いキス。何度も、何度も。「いっっっっっぱい」ってのがかえって不安だけど‥‥まあいいや。

(終)

本編前作で鉱石がエロと直接関わらなかったという点に対するツッコミに思うところがあったので,こういうことに。エロがぬるくてすいません。

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