ある夜の実験室

「あ、おはようございます」
「んー‥‥おはよ‥‥」
 さわやかな朝、なんてこともない挨拶。大蛇の下半身をずるずると引きずって一階へ下りてきた師匠は、まだまだ目が眠そうだ。いつもより三時間は早いから、それも仕方ないだろう。
「ラート、あたしの朝ご飯は――」
「あ、ついさっき作ったところなんでテーブルに置いてあります」
「ん、ありがと‥‥。――店番、今日もお願いね‥‥あたしの仕事は‥‥なんとか今日中に‥‥ふぁ‥‥終われると思うけど‥‥」
「わかりました。何かあったら聞きに行きます」
 俺の返事にこくんこくんと頷くと、まぶたが下がりきらないように何とか目を開けつつ、師匠は食堂へ消えていった。‥‥あれは八割がた寝てるな‥‥。

*

 ビルサ寝坊大会があれば上位入賞間違いなしの師匠が早起きしているのには、もちろんそれなりの理由がある。数日前のことなんだけど、突然仕事が舞い込んだ。うちが商品の仕入れ先として世話になっている、シャダイム商会元締め兼唯一の従業員のファイグが、見慣れない鉱石を持ち込んだんだ。
 ファイグは得意満面の顔で、布にしっかりくるまれたそれをカウンターの上に置いた。黒い、でこぼこの、少し金属光沢を感じさせる石。師匠は俺たちのやりとりなんて興味なさそうに、いつものように魔導書を読みふけっていた。
「‥‥なんだこれ‥‥鉱石?」
「っかー! てめぇ、それでも見習い魔導士か!? 姐さんに恥をかかせるのもたいがいにしとけよ‥‥なあ、姐さん?」
「‥‥え、あたし!?」
 完全に他人事だと思っていた師匠は素っ頓狂な声を上げると、慌ててもったいぶった仕草でその石を取り上げた。そして注意深く観察し、おもむろにカウンターの上へ戻した。
「もちろん姐さんは分かってくれるよな、この石のすごさ!」
 得意げな問屋に訊かれて――
「――何、この石?」
「な、何って、冗談きついぜ姐さん! 秘星石に決まって‥‥!」

 ファイグの慌てぶりは滑稽なほどだった。
 秘星石――。ファイグの言うとおり、名前は俺でも知ってる。でも、見たことはない。魔導処理を施せば持ち主の魔力を飛躍的に高める効果があるという、今では伝説になった鉱石だ。師匠の話によると、今から千年ほど昔に記された『聖王年代記』のあいまいな記述が記録に残る最後の例らしい。学者によっては、その存在自体が伝説に過ぎない、という人もいるとか。そんなものがまた発見されたら、これは物凄いことだというのは俺でも分かる。が、問題は――
「何しろ昔話級の代物だからね。本物かどうか‥‥見ただけじゃ、あたしにもわからないわ」
「そ‥‥そういうもの、なのか‥‥?」
「そういうもの、よ」
 顔を引きつらせるファイグに、師匠はごくあっさりと認めた。

 そんなわけで、とりあえずその鉱石は師匠が預かり、鑑定することになった。どうもファイグは秘星石だというふれこみを真に受けて、大枚をはたいて仕入れたらしい。秘星石でなくちゃ困る、なんて無茶なことをいいつつ、ろくに話も聞かずに膝をかくかくさせながら夕焼けの街へ出て行った。その妙に影の薄い背中を見ながら、渋い顔の師匠に話を振ってみた。
「‥‥で、正直なところ、師匠はどう思うんですか?」
「ま、何かの鉱石なのは間違いなさそうね。ただ‥‥秘星石じゃない、気がする。‥‥すごく」
「――何にしても鑑定してから、ってことですよね」
「そうね。ま、早いうちに鑑定を終わらせましょ。ファイグもあの調子が長引いたんじゃ、仕入れに支障が出そうだし」
 そう言うと大きく伸びをして、くきくきと首を鳴らす。申し訳程度の布で隠された胸が、その動きに合わせて激しく自己主張。‥‥あー‥‥
「こら。『揉みたい〜』とか思ってないで、さっさと店じまい!」
「は、はいっ!」
 ‥‥いつも思うんだけど、なぜばれるんだ。

* * *

 店番は俺が引き受け、師匠は朝から晩まで書庫か実験室に籠もりっぱなし。そして、今日で六日目だ。なのに、鑑定はかなり難航中。何と言っても秘星石自体についての情報が少なくて、当の鉱石が秘星石なのかそうじゃないのか、その程度のことさえなかなか分からない。が、これは同時に、もう一つの可能性も示していた。

「――え、今なんて‥‥」
 午前中の店番を特に何事もなく終わらせ、師匠と向かい合わせに昼飯をもぐもぐとやっていたら――師匠がぼそり、と聞き捨てならないことを口にした。
「うん‥‥もしかしたら、なんだけど‥‥あれって、今まで知られてない鉱石かも」
「み、未知の鉱石!? ‥‥んぐっ‥‥げほっげほっ!」
 思わずむせかえる。げほんげほんと咳き込む俺をあんまり気遣うふうもなく、師匠は独り言のように自説を展開し始めた。
「この数日、うちの資料をひっくり返して、ビルサ大学とかほかの魔導士とかにも秘星石絡みの資料を借りてみたでしょ。で、相変わらず秘星石の性質自体が要領を得ないんだけど、それでもあの石‥‥どうも秘星石じゃなさそうなのよ。じゃ、だったらあれは何なのか、って話。――魔力放射は微弱、魔力伝導もなんだか変な癖があるし‥‥。精錬すれば金属が得られるかも知れないけど、試料があの量じゃそういうわけにも‥‥あと、四大元素反応もしっかり調べなきゃね」
 そこで一旦言葉を切ると、お茶をこくんと一口飲む。
「ま、とりあえずは秘星石かどうか、ってところだけでも確定しなきゃならないし――あとは出たとこ勝負ってところかな。あ、まだ早いけど、晩ご飯が済んだらまた実験手伝ってね」
 何気なく、そう言う。‥‥正直言って、弟子入りしてからこのかた、師匠がこれほどまじめに研究しているのを見るのはこれが初めてだ。冗談も言わず、ご飯時でさえ何かを考えてる。
 弟子として、これは喜ぶべきこと、なんだろう。当代一流の大魔導士のそばで、未知のものかも知れない鉱石の鑑定を間近に見る――そうそうある機会じゃない。手伝いのためにページをめくる分厚い本も、俺の故郷じゃ図書館にさえ無いような書物だ。実験室にあふれかえる器具も、薬も、魔導具も。きっと大陸中の魔導士がうらやむほどの恵まれた環境で、一瞬たりとも無駄にできない濃密な時間なんだろう。――でも。
「――ほら時間よ。店番、退屈だろうけどよろしくね」
 不意に声をかけられ、やっと我に返った。尻尾の先で俺の頬を軽くつついて微笑むと、またしても師匠は実験室に籠もってしまった。午後も退屈なのは間違いないから、俺はうんざりしながら店へと戻った――。

* * * * *

「はい、そっち持って‥‥あー、傾けないで‥‥うん、そんな感じ。そのままじっとして」
「お、重い‥‥」
「我慢我慢。はい、いくよー」
 師匠の手伝いは時々かなりの重労働になる。金属とガラスが組み合わされた大きな実験器具を左手で支え、右手は絞りの調整が変わらないように押さえる。師匠が火精石に魔力を注ぐと、ぐねぐねと曲がりくねった管を通って高圧の熱気が例の鉱石へ吹き出しはじめた。
「――出力上げるよ。そっちの調整はできてる?」
「熱っ‥‥あ、できてます」
「よーし。――三、二、一、はいっ!」
 合図と共に、炎の吹き出し口がしゅぼっ! と唸る。噴き出す炎はもう「炎」の形じゃなく、一直線に走る炎の棒のようだ。その炎が直撃している部分は赤く光り、そこから青い火花がぱりぱりと散る。
「火花は青、か‥‥。ん、消すよ」
 それを観察しつつ首をかしげる師匠。しばらく見つめていると合図を出し、すぐに炎の勢いが弱まってゆく。ぽふ、という気の抜けた音を最後に熱と光は消えた。
「はい、もう下ろしていいよ。――ま、こんなところかな」
 額にうっすらと浮いた汗を手の甲で拭うと、師匠は肩をくいくいと回した。まだ熱を持っている火精石がぼんやりと赤い光を放ち、師匠の白い肌を柔らかな紅で染めている。
「というと――」
「秘星石じゃなくて、別の何か。ほぼ間違いなくね。で、言ったように、じゃあ何なのかってのが次の課題よねー。まずは‥‥そうね、このフラスコに水入れて。蒸留水ね。で、そこの青水晶粉末と、黒曜石レンズを取って。あと、そっちの机で冷却器を組み立てといて。――あー、ほら、さっさと放炎器を片付ける!」
「そ、そんな一気に言われても――あちっ!」
「火傷してないで、さっさとする!」
 師匠の興味は早くも次の段階に移ったらしく、矢継ぎ早に指示を出す。ちょ、ちょっと待って‥‥! もたもたしてると怒られるし、急ぐ用件から順に片付けないと。あふれかえる器具だの材料だのを掻き分けて棚から目当ての物を引っ張り出して師匠に渡し、今度は放炎器を注意深く分解して――。
「冷却器が組めたら水精石を入れて準備。あ、一階の資料室から『魔導鉱物』の八巻と『木石論』全巻、あと『大いなる魔導の石』もお願い」
 自分の作業を進めながら、顔も上げずに次の指示を出す。ひー、追いつかない‥‥!

*

 くそ重い図鑑や稀書を抱えてぜえぜえ言いながら実験室に戻ってくると、
「遅いよ、もっと急ぎな! 『魔導鉱物』八巻十三章、付録図のページを開けてこっち持ってきて。――ふ‥‥ん、そっか。じゃ、次は『木石論』の――」
 初めて見るほどの熱心さで実験を繰り返し、文献を繰り、指示を飛ばし――。これが大魔導士か、と俺は認識の甘さを痛感した。単に魔力が強いだけじゃない、鬼気迫るほどの知識、記憶、技術。その内容はあまりに高度で、俺には師匠が何をしているのかさえよく分からない。ただただ指示を追いかけるのが精一杯だ。
 でも、その暴風のような勢いの実験も少しずつ落ち着いてきたらしい。指示も少しずつゆっくりになり、ようやく実験の手元を見る余裕ができてきた。
 師匠は魔力増幅器を前に置き、その先に例の鉱物を置いていた。増幅器に取り付けられた水晶玉に手をかざし、魔力を送り込む。と、その力は光の粒となって鉱物に収束する。照射されている部分がぼんやりと光り、青緑色の輝きが師匠を照らし返している。幻想的な光が、師匠の美貌を浮かび上がらせて。いつもとは一味も二味もちがう、不思議な魅力が漂う。
「師匠‥‥」
 思わず、ため息が漏れた。
「ん‥‥どしたの?」
 師匠は顔をこっちに向け、小首をかしげる。どうもそれほど集中は必要ない作業みたいだ。
「いや‥‥ちょっとすることがなくて」
「じゃ、さっきの本でも読んどきなさい。基本的なところなら、あんたでも分かるでしょ?」
 そう言うと、またしても実験に没頭する。あまりにも簡単にいなされた俺は、分厚い本をしぶしぶ眺めることにした――。

* * *

 どれだけ待っただろうか。師匠はもう指示を出すこともなく、自分の作業しか意識にないようだった。あくびをかみ殺しながら退屈な本を読んでいたけど、さすがに飽きてきた。――飽きてるから時間を長く感じるのか、本当に長時間待ってるのか、それはちょっと分からない。月や星の影響を受けないように窓は暗幕で閉じられ、部屋の中は照明水晶が薄暗く照らすばかり。
 増幅器越しに魔力を注がれ、例の鉱石もいくらか様子が変わってきているらしい。頼りなげだった光も、青から橙色へと色を変え、ずいぶん明るくなってきている。
 暖かい色の光が揺らぎ、師匠の上体を柔らかく照らし出す。暗い室内でぼんやりと浮かび上がる白い肌は、いつも以上に艶めかしい。
 とくん。――心臓が、小さな音を立てた。
 師匠の美しさを意識してしまうと、いつもこうだ。そして、それは一度意識すると簡単には収まらない。
 邪魔をしちゃいけない――頭を振って、ページに視線を落とす。でも視線は文字と行をなぞるばかり。瞳はすぐに師匠の姿を探し始める。
 きれいだ。
 白い肌も、つややかな唇も。照らし出される胸も、陰になった胸元も。
 ――だめだ、見ちゃいけない。目を固く閉じ、邪念を必死に払う。師匠は本当に懸命になってる。未知の魔導鉱石となれば、当たり前だ。大魔導士の名をさらに高める偉業になるかもしれないんだ、邪魔していいはずがない。‥‥だけど‥‥!
 留められないほど渦巻く欲望――そうだ、それも当たり前だ。
 昨日も、おとといも、もう五日も‥‥してない。今日だって、たぶんこのまま実験は終わらなくて、二人別々にベッドに入ることになる。
 したい。したくてたまらない。あの柔らかい肌を抱きしめて、抱き合って、絡まり合って――それがいつもだった。毎日だった。もしかすると、その「いつも」が世間の「普通」じゃないのかもしれないけど、俺にとってはやっぱりそれが「普通」だ。
 ぱらり。
 書物のページが、一枚、また一枚とひとりでに閉じてゆく。足が勝手に立ち上がり、師匠の後ろへと俺を連れて行く。
 ――きれいなうなじ。香しい髪が、鉱石からの魔力波を受けてふわふわと舞う。ほっそりと緩やかな曲線を描く首筋、そこから続く胸の盛り上がり。落ち着いた呼吸に合わせ、そのたわわな膨らみが規則的に上下する。――そこへ後ろから伸びる、手。指先が布越しに膨らみに触れ――
 むにゅうっ。
「んあっ!? ――ちょっ、何!?」
 驚いた声と弾力たっぷりの肉感が、俺の意識を叩く。でも、それは理性を回復する働きよりも、欲望を暴走させる働きの方がずっと強かった。両手では到底収まりきらない胸をゆっくりと円を描くように揉み――
「‥‥ナイアさん‥‥」
「こ、こら‥‥ダメだって‥‥邪魔、しないで‥‥」
 ほんのり赤く染まった耳朶をついばむと、はにかんだように体をくねらせる。困った声で注意するけど、でも意識と手はしっかりと実験の方へと向けられてる。――いいよ、別に。意識は俺の方へ向けさせてあげるから。
「あ、ん‥‥ほら、自分の勉強、しなさい‥‥。あ、ぁん‥‥こっちは後で、してあげるから‥‥」
 嘘だ。絶対、ナイアさんは自分の興味を優先する。そうでなきゃ、五日もおあずけになったりしない。――子供じみた嫉妬が、手と指にこもる。ゆったりと乳肉をこね回していた指が、無意識に暴れ始めた。
「集中できないじゃない‥‥ほら、戻っ――あはぁっ! や、やめ‥‥ああっ、はぁうっ‥‥」
「おっぱい、感じるんでしょ? もっと喘いでいいよ」
 ふふっ。ナイアさんの魔力が乱れてきた。体もいやらしくくねりはじめてる。敏感な体だ。乳首もつんと立って、服の布地を下から押し上げてる。
「し、師匠の、じゃ、邪魔するんじゃ、ない‥‥ああっ、っく、はぁんっ――あ、あぁん、うまい‥‥よ‥‥そこ‥‥っ!」
「ほら、本音が出た‥‥五日間、してないからでしょ」
「た、溜まってなん、か‥‥ないわよ‥‥っ、あんたじゃあるまいし‥‥ああっ、そこ、そこ‥‥ぉ‥‥! いい、もっと‥‥あっはぅ‥‥つ‥‥強く‥‥!!」
 ごちゃごちゃ言いながらも、おねだりが交ざりはじめる。視線はなんとか鉱石へ向かっているけど、眉を寄せて、目元も潤んできてる。手に力を込めるたびに身体が震え、熱い吐息が漏れる。背中も俺に預けきって、抵抗なんてあってないようなものだ。
「も‥‥ぉ‥‥。困った弟子ね、あんたは‥‥っ。か、鑑定、させてよ‥‥あ、ぁ‥‥」
「そこまで言うなら続けていいよ‥‥でも、俺はやめないから」
 首筋に唇を這わせて、溢れる乳肉を思いきり揉み潰す。ナイアさんはのけぞり、ひときわ大きく甘い声を上げる。開いた上下の唇を、唾液の糸が繋ぐ。跳ね返る圧力を両手にたっぷり感じながら、続けて二度、三度と揉み込んであげると、うっとりするほど色っぽい吐息と喘ぎが耳を打つ。口角から涎がとろりと溢れ、首筋をつたって胸元まで流れ落ちた。
 中空をぼんやりと見つめながら、びくびくと震えっぱなしのナイアさん。弱点の塊みたいなおっぱいをこれでもかと言うほどに揉みしだくと、もう俺を叱ることもなく悶え鳴く。――なのに、その両手は相変わらず増幅器に掲げられ、小刻みに震えながらも魔力を送り続ける。凄い執念だ。‥‥俺も負けてられない。
「ナイアさん‥‥こっち向いて‥‥」
 俺の囁きに、抵抗することもなくゆっくりと振り向く。濡れた唇は半開きになり、熱い吐息が俺を誘う。その唇を軽く舐めると、浅く短い息が漏れた。右手でその顔を抱き寄せて――。
「あんっ‥‥んぅ」
 優しく、でも濃厚に唇を重ね合い、ついばみ合う。舌をぬるりと差し込むと、抵抗もなくそれを受け入れてくれる。絡み合わせ、舐め合い、互いの味を確かめ合う。胸をたっぷり揉みしだかれたせいか、ナイアさんの舌の動きは鈍い。いつもなら俺を絡め取ろうと好戦的に襲いかかってくるのに、今日はされるがまま‥‥とまではいかないけど、激しさはない。
 香しい匂いが俺の鼻をくすぐる。頭をぐっと抱き寄せ、互いの唇を完全に密着させて、舌を思いきり絡ませる。ふれ合っている面積ができるだけ大きくなるようにして。じゅるじゅると唾液を送り合い、すすり合う。
 そのうちに、ついにナイアさんは俺の方へと身体をよじり、椅子から腰を上げた。鉱石へ魔力を送っていた両手のうち、左手だけを俺の体に絡ませて。――実験はどうしても中断できないらしい。俺との秘め事よりもそっちを優先するなんて気に入らない‥‥弟子としてはあまりにも不遜な想いが沸き立つ。ナイアさんがそのつもりなら、俺にも考えがあるよ‥‥。
「ん‥‥っく‥‥ん、んんっ! ぷぁっ、んむぅ‥‥っっ!!」
 頭をしっかり押さえ込んだまま、左手で胸をしつこくこね回す。尖りきった先端を、布越しに中指と人差し指の間に挟んで軽くつまむ。そしてそのまま、指に力を込める。遠慮せず、思いきり。むにゅ、ぐにゅ、と鷲づかみにして力を込めるたびに、唇を奪われたままナイアさんは悶える。抵抗もできず、声も出せない。完全に追い詰めた上で、さらに胸だけを愛撫する。すると、力の入らない上半身を完全に俺に預けてすがりついてくる。もっと揉んで、とでも言いたそうな反応。でも、ナイアさんの要求には応えてあげない。ずっとこね回されていたおっぱいを解放し、両腕でナイアさんの体を抱きしめる。唇は重ね合ったまま、舌は絡ませ合ったまま。
 ――ナイアさんは、予想通りの行動に出た。
 ちゅうっ、じゅる、くちゅ、という唾液の音を響かせながら、立ったまま絡み合う。下着の中で張り詰めた俺のモノに、何かが触れる感触が伝わってきた。何か、なんて言うまでもない。わずかな布地で隠された秘部が、むずがる子供のようにすり寄ってくる。腰をくねらせ、ナイアさんが俺に密着してる。
「どうしたの、ナイアさん‥‥そんなにくねくねして」
「あ、はぁん‥‥いじわる、しないで‥‥ちょうだい‥‥」
 蕩けきった美貌が、切なげな瞳で俺の眼を見る。あのナイアさんを完全に掌握して、おねだりさせてる――ぞくぞくするほどの快感。
「してあげるけど、そのためには実験を中断しないと無理でしょ?」
「そん‥‥な‥‥ぁ」
 まだ理性が残ってるらしい。さすがは大魔導士様、ってところなんだけど、今の俺には逆効果でしかない。未練がましく増幅器にかざされた右手を掴んで、腕ごと体を抱きしめる。魔力の供給を絶たれた鉱石はパリッパリッと小さな火花を上げたかと思うと、あっという間に光を失ってしまった。
「ほら、もう実験は失敗だね。――決めたんだ、俺。今日はナイアさんを犯す。思いっきり抱く。五日間、『今日で終わる』って言われ続けて我慢したんだから――もう歯止めがきかないよ」
 ぼうっと熱さを湛えた瞳が、上目遣いで俺を睨む。
「二時間も頑張った実験なのに‥‥台無しにするなんて‥‥あ、ぁ‥‥」
 腰を抱く。物凄い胸やむっちりしたお尻とは対照的な細いくびれを、思いきり抱き寄せ、抱きしめる。恨み言を漏らすナイアさんの目を見据え、体を密着させる。ガチガチになった俺の下腹部が、濡れそぼった所を布越しに圧迫する。――俺を睨む瞳が怯えたようにすくみ、そして次の刹那にはとろんと蕩ける。唇がゆるみ、熱い吐息が漏れる。
「ね‥‥ぇ‥‥ベッドで‥‥お願い‥‥」
「嫌だ。もう我慢できないよ。‥‥ほら、わかるでしょ」
 下半身を露出し、ナイアさんの手をそこへ導いて。しなやかな指先が、おずおずとそれに触れ――するりと絡まる。俺の形を確かめるように、根元から先へ、先から根元へとするすると這う。二、三度指先を往復させると、ため息混じりの感嘆。
「すご‥‥い‥‥。そんなに、あたしが欲しいの‥‥?」
 返事はいらない。抱きすくめ、唇を奪い、貪り、貪り合う。あれだけ未練がましく実験器具へ向かおうとしていた手も、俺の体に絡みつく。
 上あごを舌先で舐め、唾をとろとろと口内に流し込む。長い舌が嬉しそうに俺を迎え、蜜のように甘い響きの吐息がうっとりと漏れる。胸を覆った布きれを、そして腰に絡まった帯を片手で解いてゆく。ぱさっ、という音と同時にナイアさんの体から力が漏れ出てゆき、骨を失ったようにふにゃふにゃとへたり込んでしまった。椅子や雑物の入った箱を手荒く脇へどけ、空いた空間にナイアさんを押し倒す。

「――きれいだよ」
 思わず、言葉が漏れた。――誰だってそう言いたくなると思う。
 ナイアさんの体を覆う物は何もない。そして、薄暗い光の中、その姿はあまりにも魅惑的だった。つややかできめの細かい柔肌。ほっそりとして、それでいてしなやかな肢体には不釣り合いなほど大きな乳房が、悠然と俺を誘う。くびれた腰には上品なおへそ。そして艶めかしい曲線を作り出す骨盤から下には規則正しい鱗が連なり、みなぎる生命力を感じさせる逞しい蛇体が長々と続く。これ以上ないほど美しい、奇跡のような体。
 そしてその奇跡は、あまりにも卑猥な状態になっていた。
 みずみずしい唇は半開きになり、湯気が見えそうなほど熱い息を規則的に、時に乱しながら吐いている。熱を帯びた肌はほんのりと色を差して。柔らかな膨らみの頂点はツンといきり立って存在感を主張して。絞ったかのように細い腰は、くねくねと物欲しげに動いて。そして――
「実験が、とか言って‥‥ナイアさんも欲しかったんでしょ」
 さっきまで腰布で隠されていた部分が、今は見えてる。ぐしょぐしょに涎を垂らして、花びらをぐちゅぐちゅとよじらせて、上端の突起をぴんぴんに尖らせて。ナイアさんの欲望が煮詰まって、溢れていた。よく見れば、したたり落ちた蜜はとろとろと溢れて下半身をつたい落ち、床にまで達してる。さっき外した腰布も、きっとぐしょ濡れだろう。指を一本差し込むと粘液質の音が派手に響き、熱い蜜が指に絡みついた。糸を引くほどに粘っこいその液をナイアさんに見せつけ、胸元に塗りつける。てらてらと光る筋が、白い膨らみに淫らな跡を描いた。
「胸しか触ってないのに‥‥おっぱい、ほんとに弱いんだね。――そうだ」
「ふぁああっ!? あ、ぁはぅっ、んああっ!!」
 耳元で囁いた直後、前触れもなくいきなりおっぱいを揉みたくる。片手に収まらない乳房を、それぞれ左右に揉み、掴み、こね回し、乳首をつまみ、弾き、ひねって――
「イっていいよ、ナイアさん‥‥胸だけで、思いっきり鳴いてよ」
「そ、そん、な、うそ、うそよ、あ、あ、ぁぁ、っ‥‥ああああぁぁあっ!!!」
 俺の手を押さえ、床の上でのけぞり、のたうちながら――ナイアさんは、胸だけでイった。

*

 すっかりできあがってしまったナイアさんは、そこからは一気に積極的に欲しがりはじめた。俺のチンポを掴み、しごき、一秒たりともそこから手を放さない。キスや愛撫の最中も、欲しくて欲しくてたまらないといった顔だ。それが分かるからこそ、俺も焦らす。いよいよ挿入、というふうに見せかけておいて、モノの先であそこの突起や入り口をつつき回す。
「き、来て、早く‥‥っ!!」
 亀頭でじゅくじゅくと秘裂をまさぐると、切れそうな弦のように張り詰めた声が俺を求める。もっとかき回して焦らそうかと思っていたのに、俺の体はその声で陥落してしまった。感じるところを探りもせずに、体の奥から湧き上がる衝動のままに――貫いた。
「あ、あ、すご‥‥っ、――あぁぁあっ!!」
「うあ‥‥なんて締め付け‥‥!」
「‥‥っく、ぁ‥‥ぁぁ、あ‥‥っ!」
 目を見開き、ぱくぱくと口を開け閉めして、ナイアさんは思いきりのけぞった。反動で巨乳がぶるんと踊る。でも目の保養をしてる場合じゃない。チンポが一気に呑み込まれ、もみくちゃにされて‥‥!
「ぁ、ぁ‥‥っ、す‥‥、す‥‥ご‥‥ぃ‥‥! ら‥ぁ‥と‥‥――っく‥‥」
 きれぎれに喘ぐナイアさん。俺はと言えば、攻め寄せる快感に耐えながらナイアさんの肉洞を味わうのに精一杯。動くことなんてできやしない。この煮崩れそうなまでにたぎった淫裂の中で、うかつに動けばその瞬間に暴発しそうだ。早くも肉棒はビクビクと上下に震えはじめ、快感をますます増幅させてゆく。うそだろ‥‥っく、我慢、しないと‥‥!
「ラート、おねがい、も、もう、これ以上焦らさないで、突いて‥‥!!」
 必死に耐えるばかりの俺を、ナイアさんは「焦らし」だと思ってるらしい。そ、そんな余裕、無いよ‥‥!
 そう言おうにも、ナイアさんのおねだりは止まらない。視線で、唇で、喘ぎで、吐息で、言葉で、全身で俺を誘う。――だめだ、耐えないと‥‥暴発なんてしたら、絶対気を悪くする‥‥我慢、しろ、俺‥‥!!
 じっとりとした汗が顎先から滑り落ちる。顔面が張り詰めたように熱い。きっとみっともない顔になってるんだろうけど、それどころじゃない。なのに、ナイアさんは分かってくれない。理性を直接たたき壊すような淫らさで、俺の目に、耳に、熱烈に訴えてくる。そして――突いて、という叫びと共に腰を思いきりくねらせてきた。――そん‥‥な、耐えられ‥‥ない‥‥!!
「――うああぁぁっ!!」
「あっはあぁっ! あぁ、すごい‥‥っ!! ひぁ、あ、――こ、こん、な――だ‥‥め‥‥!!」
 荒れ狂う快感はナイアさんの腰使いにあっさり爆発し、出口を求めてチンポの先から吹き出る。その最中も二人の腰は止まらない。精液の直撃を子宮口で受け止めながら、ナイアさんの下半身がのたうち回って悶え狂う。回りの器具や椅子ががたがたとなぎ倒されていく。
「‥‥ご、ごめんっ、ナイアさん‥‥我慢、できなくて‥‥っ!」
 しびれるような快感に、射精を続けながらも腰を突き入れてしまう。謝る言葉が口から溢れるけど、ナイアさんは聞いてない。俺の首にしがみついて絶叫するばかり。どろどろの愛蜜と俺の精子が絡まり、どくどくと溢れて鱗を濡らしてゆく。焼けつく快感が頭を光で塗りつぶす。白濁液をぶちまけながら衝動のままに何度も腰を突き込み、ナイアさんを絶叫させ続ける。数十秒かけてやっと欲望を吐き出し終えるころ、ナイアさんは早くも息も絶え絶えになっていた。俺の体も力尽き、がくりと崩れ落ちる。
「あ、あ‥‥出しながら‥‥突くなんて‥‥」
「はぁっ、はぁっ‥‥もっと我慢するはずだったのに‥‥ごめん‥‥」
「いいよ、もっと抱いて‥‥もっと、もっと‥‥!」
 俺の顔を抱え、熱い口づけを。モノをくわえ込んだままのあそこが、きゅうっと締まる。長い蛇の体が脚に幾重にもからみつき、きめ細かい鱗が太股や膝裏を滑り、愛撫してゆく。欲望を吐き出し終えた肉棒がナイアさんの期待を受けてビクビクと跳ね上がり、大きく反り始める。
「うん‥‥今度は長持ちさせるからね」
 のたうつ蛇体が嬉しそうにぎゅっと締め付け、くすくすと楽しげな声が耳をくすぐった――。

* *

 肉壺を貫き、抱き合ったまま腰を動かす。椅子がそれに合わせてガタガタと騒ぐ。四本脚の簡素な椅子に俺が浅く腰掛け、ナイアさんの体を腕とあそこで支える。長い下半身は俺の両足の間から椅子の下へ流れ、そして椅子ごと俺を抱きしめる。
「腰、くねらせてごらん」
「くはっ‥‥ぁ、ふぅっ‥‥。だ、だめ‥‥力が‥‥抜けて‥‥」
 はふはふと息を乱しながら、俺の首に抱きつく。お尻が背中越しに見える。薄い香水の香りと汗の匂いを含んだ髪が俺の首や顔にかかった。むっちりしたお尻を揉みながらその香りを大きく吸い込むと、体がますます熱くなる。
「ほら、じっとしてちゃ楽しめないよ。ナイアさんも動いたほうが燃えるよ」
 頭を軽く抱いてそう言うと、ナイアさんの唇が何かを言いたそうに動く。そして椅子の背もたれを掴むとぎこちなく腰をくねらせはじめ――歓喜の喘ぎが漏れはじめる。
「あぅっ、は、あ‥‥っ! すご‥‥い‥‥っ、なんで、こんな――あああっ、う、動かさないで、だめ‥‥っ!!」
 お尻を掴んで俺の腰へこすりつけさせる。亀頭の先がコリコリしたところに当たる。――とたんに喘ぎが破裂する。
「気持ちいいでしょ? ここ‥‥」
「よ、よすぎて‥‥っ、う、うそ、あ、あ、‥‥あうぅっ!!!」
 俺の頭を抱えてくぐもったよがり声が詰まり、次の瞬間にはかみ殺した絶叫。髪を跳ね上げてのけぞり快感を表現すると、がくりと倒れ込む。規格外のおっぱいに押しつぶされる俺。顔を左右に傾けて手当たりしだいに柔肉を甘噛みすると、倒れ込んだままの体がびくびくと震える。
「あふっ、か、噛まないで‥‥っ」
「歯形つけてあげようか? ナイアさんは俺のものだ、って印の代わりに」
 視界は完全に谷間に埋まってるけど、舌先で乳首を探り当てる。そのたびにぴくんぴくんと身体が跳ねる。その反応をおもしろがって舌でこねくり回すと、止められないかのようにびくびく、がくがくと震え続ける。断続的な喘ぎが頭の上から聞こえる。
「ナイアさん‥‥身体、起こせる?」
 顔をおっぱいで潰されるのもいいんだけど、この体勢はちょっとつらい。俺の言葉にナイアさんはどうにか上体を起こし、俺の肩を掴んだ。顔は上気し、唇からは荒い吐息が漏れてる。
「こ‥‥この体勢‥‥深いよ‥‥ああぅ‥‥っ」
 俺は椅子に腰掛けてるけど、ナイアさんは股間に体重が掛かるんだから、それもそうだ。もちろん、それが狙いだけど。
「ちゃんと掴まって‥‥動くよ」
「ま、待って、ちょっ――あああぁっ!! まっ‥‥て、おねが、いっ――!? ひあっ、んはぅっ!!!」
 懇願を無視して、腰を突き出す。お尻を抱え込み、思うままに動かす。そのとたんによがり泣くナイアさん。のたうつ身体と踊るおっぱいを楽しみながら、無言で突き上げ、突き崩す。がっくんがっくんと頭が前後に振れ、深紅の髪が跳ねる。きゅっと締まったお尻は左手に任せ、右手でおっぱいを握りつぶす。溢れた乳肉がぷるぷると悦び、同時にナイアさんのあごが天井を向く。悲鳴のような金切り声を上げ、ナイアさんは思いきり派手にイッた。
 それに追い打ちをかけるように、ますます激しく腰を突き上げ、ナイアさんの腰も力任せに揺さぶる。色っぽい唇から涎をこぼし、狂おしい絶叫を上げ続ける。悶えるナイアさんを追い詰め、鳴かせる。いやいやという風に顔を激しく左右に振ったかと思うと、またしてもナイアさんは大きく震えた。

* *

 ナイアさんは狂い続ける。自分でも腰を振りたくり、俺を熱烈に求めてくる。床に這い回る蛇の胴さえも俺の脚にすがりついて、快楽の余波を欲しがっているかのようだ。
「くはっ、あふっ‥‥! 子宮、しびれる‥‥ああ、あたってる‥‥あんたの、ちんぽ‥‥あたしの、中で、あばれて‥‥ああ、うそ、また‥‥っ!」
 がくがくと震えながら俺の胸に手を突き、数秒間硬直したかと思うと――
「――あはぁあ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁっ!!!」
 汗ばんだ髪を跳ね上げ、一気に体を反らせて嬌声を爆発させる。髪を留めていた飾りが激しい動きではね飛ばされ、床で乾いた金属音を立てた。そしてわずかな間隔をおいて、ナイアさんはもう一度俺に覆い被さる。唇から一筋のしずくがぽたり、と俺の額にこぼれ落ちた。
「すごい、すごいわ‥‥ラート‥‥止まらない‥‥あたし‥‥あんたに‥‥狂わされてる‥‥!」
「ナイアさん‥‥っ、そんなに、締め付けたら、俺‥‥っ!」
「いいよ、来て、溢れるぐらい、――注いで‥‥!」
 火傷しそうなほどの愛欲を込めて求めてくる。互いに腰を振りたくり、ただただがむしゃらに愛し合う。ぐちゃぐちゃと湿った音がますます激しくなり、竿もぐっと締め付けられる。言葉にならない叫びを連ね、汗みどろになって。汗と涎にぬめるおっぱいを俺に揉ませ、そのたびに震えながら身体をのけぞらせる。巨大な乳房が揺れ、弾み、跳ねる。乳首を噛むとガクガク震えて泣き叫ぶ。椅子の下を通って這い回る胴体はばたんばたんと派手に暴れ、そのたびに他の椅子や器具がはね飛ばされる。椅子がぎしぎしと悲鳴を上げるけれど、それさえ喘ぎの中に消えてしまう。
「だめだ、出る‥‥っ!!」
「来て、来て、おねがい、ぁ――っ!!!」
 跳ね上がる乳房を鷲づかみにし、子宮を狙って思いきり突き上げた。稲妻のような衝撃が背筋を走り、チンポの中を焼き尽くして吹き上げる。
 狂おしく顔をゆがめ、美しいラミアはひときわ大きく上体を反らす。声にならない叫びに乗って、涎が空中に一筋の弧を描いた。
「あぁぁあっ、ああ、あぁ、あ、ぁ‥‥っ!!!」
「っく‥‥あ‥‥っ」
 どくん、どくん、どくん‥‥。
 際限なく噴き出す精液。その衝撃を必死に耐えつつ、俺もナイアさんも硬直していた。動けない。繋がったまま動けず、互いに快感の余韻を乗りこなしかねて――荒い息を大きくつき、二人の体が柔らかくなったのはほとんど同時だった。崩れるように俺の上に肌を重ね、熱い絶叫を吐き続けていた唇で俺の唇を塞ぐ。
「ん‥‥んん‥‥」
 鱗に覆われた下半身が、ひくひくとくねる。くたり、と俺に身体を預けきったナイアさん。その体重を支えると、柔らかい肌がたまらなく気持ちいい。でも‥‥さすがにこの椅子じゃつらい体勢だな、床に移った方がよさそうだ。
「椅子から降りるよ‥‥俺につかまってて」
 一気に倒れ込まないように気をつけながら、繋がったままゆっくりと横へ、椅子から腰を滑らせ――あ、っちょっと、やばっ――
 どたんばたんがしゃんがつんっ!
「はきゃうっ!?」
 妙にかわいらしい叫びが耳に届いたのと、頭に衝撃が来たのは同時で――意識が途切れた。

* * *

 身体が温かかった。さわさわとした感触が全身を撫で、暖かさが伝わってくる。心地いい。
「‥‥ト」
 どこかで師匠の声が聞こえた。どこだろう‥‥下のほう‥‥足元のほうから‥‥?
「ラー‥‥‥‥なさい‥‥」
 また、声だ。するすると身体に触れる、暖かさ。この感触は‥‥ああ、鱗か‥‥師匠の‥‥。
「ラート、そろそろ起きなさいよ‥‥こっちはとっくに起きてるんだからさ‥‥」
 んん‥‥? こっちって‥‥なんだよ。
 しばらくすると、独りでに目が開いた。何も見えなかったけれど、目が慣れるにつれて暗い天井がぼんやりと見えてきた。‥‥実験室‥‥なんでここで寝てるんだっけ‥‥。
「ほらほら、目が開いたならさっさとあたしの相手をする!」
「うあっ!?」
 思わず声が出る。――怒られたからじゃない、もっと直接的な――
「ふふふっ。気絶したから心配したけど、こっちは元気なんだから‥‥」
 首だけをどうにか持ち上げると、股間には師匠の顔が。そう。いきなりチンポを吸い上げられて、それで目が覚めたんだ。
 反射的に上体を上げようとすると、太い蛇身に押さえ込まれた。身体が温かかったのはこのせいか‥‥。って、心配もそこそこに股間にむしゃぶりつくなんて。
「ちょっとしゃぶってあげたらあっという間に固くなるんだから‥‥まだまだヤリたりないわけね? このスケベ。スケベの絶倫野郎! ‥‥なんてね」
 気絶してる間にビンビンになってたらしいそれに横からキスをしながら、なんだか楽しそうなナイアさん。舌先をちろちろと動かして隅々まで嬲ってゆく。――俺が身動き取れないのをいいことに、好き放題に遊ぶつもりみたいだ。その意図に気付いたことが分かったのか、にっと笑うと身体を少しずりあげて――
「んふふっ、分かったみたいじゃない。たっぷり遊んであげる。さっきは私が胸でイかされちゃったんだから、今度はあんたがあたしの胸でイく番よ‥‥」
 言葉が終わらないうちに、チンポが柔らかい乳肉で挟まれた。白い手がおっぱいを左右から支えて、むにゅっむにゅっと上下する。温かい肉の丸みに挟まれ、その谷間から顔を出す肉棒――その張り詰めた先端を、師匠の舌がちろちろと這う。二種類の刺激に、俺のそこはますます張り詰め、反り返る。反り返ってしまうと、ますますナイアさんの与えてくれる刺激を強く感じてしまう。際限なく溢れる先走りがこぼれ、柔肉の間でにちっにちっと音を立てる。
「ふふっ‥‥谷間が熱いよ‥‥。あんたの、ぶっといので擦られて‥‥んはぅ、きもち、いい‥‥」
 身体を上下に揺さぶりながら、わずかに眉根を寄せる。吐息に熱がこもって、瞳も少し潤んでる。顔だけを上げて、その様子を堪能する。身体と目、両方からの刺激に股間がますます張り詰め、ついに強く跳ね上がりはじめる。熱が集中し、堪えきれないほどの快感が攻め上がってくる‥‥!
「さっきからずっとしゃぶってあげてたから‥‥限界でしょ? ほら、出しなよ、あたしの顔に‥‥かけて‥‥!」
 その色っぽすぎる顔を見て、堪えられる男なんて――絶対いない。ぎりぎりのところでこらえていた関があふれ、奔流が吹き上げた。粘液質の白濁液が顔、髪、胸に飛び散り、淫靡に飾ってゆく。そしてそれからはもう‥‥互いに貪り合うばかり。ただただ愛して、愛し合って、快楽を高め合って。俺を欲しがる蜜壺を、ナイアさんを欲しがる肉塊で埋める。突き崩し、掻き乱し、絡まり合って――そして、その熱い身体の中に思いをぶちまける。抜かずに三度、連続で。溢れて、溢れかえるまで――。

* * *

 しばし無言で軽い口づけを何度も交わして、体を優しく愛撫して。互いの呼吸が完全に落ち着いた頃、ようやくナイアさんは体を起こした。繋がっていた部分から俺のモノがずるりと抜け、同時に粘液がごぷっとあふれ出た。
「‥‥ふふ、こんなにたっぷり撃ち込んでくれちゃって‥‥。五日分か、それにしても凄い量ね‥‥」
 秘部に指先を這わせ、まとわりついた液体をひとすくい。それを唇に運び、艶然と微笑む。――二人の営みが終わった後のナイアさんは、独特の艶がある。
「ああ‥‥気持ちよかった‥‥まだ頭の芯がしびれてる‥‥。――って、あんたまだ勃つの? ふふふっ、頼もしいじゃない‥‥壊されそう」
 そう。精子を味わうナイアさんを見ていると、またしても股間に熱が集まってきた。でもこれだけ激しいと‥‥六回戦目は‥‥どうかな‥‥。
「ん? 何よその顔は。――師匠の実験を潰しておいて、しかも何発も出したのにまだビンビンで、そのくせ『疲れました、もうできません』とか言うんじゃないわよねぇラート君?」
「あ、う、いや‥‥」
「ふふん、じゃ、続きをしてもらうわね。五日分、あたしも溜まってるんだから」
 胸を反らし、にやにやと笑って俺を追い詰めるナイアさん。ちょっと怖いその笑みが俺に近づき、白い腕が首に絡みつく。その刹那、顔つきが変わった。
「‥‥壊して、ラート‥‥思いっきり抱いて‥‥」
 とびきり悩ましい顔、声。――我慢できるほどの精神修養はできてなかった。

* * * * *

 翌日、鑑定が最初の一区切りになったのを見計らったかのようにファイグが現れた。秘星石じゃなかったと言うと意気消沈していたけど、未知の鉱石だったと聞いて俄然やる気が出たらしいので、それはそれで良かったみたいだ。こっちも面白いオモチャ‥‥もとい、実験対象を手に入れて師匠がはしゃいでいるので、それに応じた額――それはファイグの期待に沿う額だったみたいだ――を支払うことで落ち着いた。
 それはそれとして。
「ラートー。 そろそろお昼なんだけど、ご飯はできてるのー?」
 店先から師匠の声。げっ、そんな時間!?
「ちょ、ちょっと待ってくださいー!!」
 こ、こっちの片付けはまだまだ終わってないのに好き勝手言ってくれるよあの師匠は!
 ――いやその、実験室の片付けが‥‥。一晩大暴れしたから、もともと雑然としてた部屋がぐちゃぐちゃだ。壊れた器具もいくつかあるし、材料類も飛び散って――あああ、なんでこの瓶が割れてるんだ。
「こら!! さっさとご飯を作りなさいこの馬鹿弟子!!」

* *

「で、どうなの? 実験室の様子は」
「それは‥‥まあ‥‥今日いっぱいはかかりそうです」
「あたしは『ベッドで』って言ったのに、あんたが『我慢できない』とか言うからこういうことになるのよ。わかってる?」
 いたずらっぽくも色っぽい笑みを口元に浮かべて、俺の耳元で囁く。
「‥‥はい、すいません‥‥師匠‥‥っ」
「声が詰まってるよ‥‥ふふ‥‥」
「あ、あの‥‥ちょっ‥‥りょ、料理がしにくいんで、座っててくださ――っ!」
「い・や・よ」
 へっぴり腰で野菜を切る俺に、後ろから絡みつく師匠。その手は股間をまさぐり、いつのまにかその中身を取り出してしごきはじめてる。
「あたしの作業をさんざん邪魔してくれたんだから――仕返しくらいさせなさい。ほぉら、ガッチガチになってきた‥‥どうする? あたしを襲う? ‥‥だぁめ、ご飯が先‥‥」
 耳に舌を這わせたかと思うと、そのまま首筋にキスを落としてゆく。あ、うぁ‥‥や、やめ、それは‥‥!
 考えもなしに襲ったツケだ。これで料理に失敗したらますますオモチャにされてしまう。ううっ。
「あたしも悪いとはいえ、器具の弁償はしてもらうよ。ま、あんたに払える額じゃないし――カラダで、ベッドの上で、ね‥‥。ふふふっ、今夜もいっぱいしてね、ラート‥‥」
 き、きのうは結局何発出したのか覚えてない。たぶん十回ぐらい‥‥最後は何も出なかった、ような気がする。いっぱいして、と言われても‥‥
「――出し尽くして今日の分はありません、とか言ったら‥‥わかってるんでしょーね?」
 ――う、うあぁぁぁ。

 教訓。後先考えずに師匠を襲っちゃだめだ。

(終)

たまには魔導士らしいところも書いてみるかと思ったら、エロシーンがやたらと増量されてしまいこんなことに。絶倫ぶりは温泉修行が効果てきめんだったということにしておいてください。
(追記)「鉱石がエロに反応するんじゃないのか」というツッコミを複数から頂きました。いや,うん,さすがにそれは安直かと思って避けたんですが,やはりお約束はお約束として踏まえるべきでした。

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