雨期の一日

 目の前の水晶玉がぼんやりと青い光を放つ。それに手をかざし、少しずつ魔力を注ぎ込む。じりじりとじれるほどの時間を掛け、わずかずつその光が増してゆく。

 ――びし。

「っだー!」
 ごん、と額がカウンターにぶつかる。頭を上げると、目の前にはヒビが入った水晶玉。その割れ目から魔力が光の粒となって空中に漏れ出し、水晶玉の光が急速に失われていく。あーあ、また失敗か‥‥。
「ラート‥‥また失敗?」
「う、師匠‥‥」
 隣で本を読んでいた大魔導士が呆れた声を出す。俺の師匠であり、この魔導具店「ナイアのお店」の店長でもあるナイア大先生だ。気怠げだが気の強そうな美貌にうんざりした表情が浮かんでいるが、俺の失敗にもすっかり慣れているような気配もある。‥‥俺としては楽だけど、慣れられるのもそれはそれでつらい。
「へたくそ」
「スイマセン‥‥」
 これは俺の修行の一環。結局何をしてるのかと言えば、まあランプの代わりみたいな照明具を作ってるんだ。油の代わりに魔力を封じ込めて、水晶玉を光らせるというわけ。ランプみたいに熱くないし、光らせたままでもかなり長持ちする。
 便利で経済的だと思うだろ? ‥‥これ三個で家が買えるほどの値段だけどね。
 この照明具を作るのが難しい。師匠にかかればなんてこともなくぽいぽいとできてしまうんだけど、俺みたいな魔導士の卵だとなかなかそうもいかない。魔力の制御に細心の注意を払わないと失敗してしまう。つまり、魔力の強さとその調整能力を鍛えるためにはもってこいの修行――というのが、師匠の言いぶんだった。俺の見解によると‥‥単に雑用を押しつけてるってのが理由の半分以上だと思う。
「制御が下手なくせに焦るからそうなるのよ。必ず一定の強さで、一定の早さで。――ま、気持ちは分かるけどね。あんたの魔力自体も強くなってきてるのに、こんなチビチビやってちゃじれるだろうしさ。あんたは強弱付けながら欲望に任せてガンガン突っ込みたいんだろうけどね」
「‥‥なんかわざと変な表現してません?」
「そう?」
 相変わらず本に顔を向けたまま、横目で笑う師匠。二人きりだと思うとわざわざこういう物言いをするひとだ。なんだかおっさん臭いと俺は思うけど、それは禁句だというのも十分わかってる。‥‥わりと怒りっぽいんだよなあ、師匠は。

 雨期。普通、この季節の魔導具屋はヒマだ。魔導具はどれも外界の影響を受けやすいから、大枚をはたいて買った商品も雨に濡れようものなら一発でダメになってしまう。
 たとえばさっきの照明水晶。普段はぼんやりと光っているだけだけど、うっかり濡らすと火花を撒き散らして大変なことになる。そこまで激しくはなくても、材料も魔導具も不用意な雨や湿気に弱いのはほとんど共通だ。だから今は雨が降っていなくても、帰りに降られることを恐れて客足が遠のくわけだ。客が少ないということは店番の必要も少ないわけで、つまり師匠に馬鹿にされたり呆れられたりする時間――もとい、魔導士としての修行の時間がたっぷりとれるということだ。修行ははかどるけれど、さすがに疲れる。

「‥‥なんだか今日は調子がよくないね。ま、そういう時もあるよ。‥‥疲れた?」
「はい‥‥かなり」
「うーん。ま、客もほとんどないだろうし、たまには休んでいいよ。寝てな」
 め、珍しい。師匠が「休んでいい」なんて。‥‥もしかして見るからに疲れてるのかも知れない。
「あ、心配しなくても起こしてあげるから。夕飯の準備に間に合う時間までは休んでなさい」
 ‥‥何が何でも夕飯は俺の仕事なのか。まあ、住み込みになってから一日たりとも休んだことはないけどな、この仕事。――って、俺が来るまで師匠はどうやって飯を食べてたんだろう。飯に限らず、そもそも朝に起きられない師匠がどうやって生活してこの店を切り盛りしていたのか、全く想像がつかない。ま、どうでもいいんだけど。
「‥‥じゃ、お言葉に甘えて休んできます」
 師匠にそう言うと、俺は立ち上がって部屋へと進む。師匠はこっちを振り向くまでもなく、尻尾でぴこぴこと「おやすみ」と言ってくれた――んだと思う。

 小さな自室――実際、この部屋を使うのことは一日のうちでほとんどない――で、自分のベッドに転がる。師匠はラミアだからそのベッドは蛇の下半身を収めるために巨大だけど、これはもちろん人間用の大きさだ。俺がここに住み始めてからすぐに調達しただけあって、まだ新しい。仰向けになって目を閉じると、体に蓄積していたらしい疲労感がずっしりと感じられる。
「思ったより‥‥疲れてたのかな‥‥ふう」
 あまり使い込んでない毛布の匂いを感じながら、俺は心地よい眠りの海に沈んでいった――。

* * * * *

「どう? 疲れは取れた?」
 師匠の寝室。鏡に向かって座り、髪をとかしながら師匠が尋ねてくれた。
「ええ、ありがとうございます」
「そう、それは何よりね。‥‥ね?」
「‥‥何がですか?」
 大体答えの予想は付くけど、聞いてみる。
「何が、って‥‥決まってるじゃない。疲れが取れたなら、今夜も頑張れるわよね? 寝てる間にほっぺたつついても全然気付かないぐらい良く寝て元気になったんだから、もちろん思いっきり楽しませてくれるでしょ? ‥‥無理だとは言わせないわ」
 徐々に声が凄みを帯びる。やっぱり‥‥。最近、どうも師匠の俺に対する言動は夜を基準にしている気がする。困った師匠だ。まったく、かわいいったらない。

「何を呆れた顔をしてるのよ。ほら‥‥今夜もしっかり楽しませて‥‥。あんたの魔導士の腕は全然褒められないんだから、こっちでぐらい褒めさせなさいよ。ね‥‥ラート‥‥」
 楽しげに笑っていたナイアさんの目が、「夜」の瞳になる。熱っぽく潤み、俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。この眼に捕まると――もう逃げられない。俺の頭も体も、もうナイアさんからは逃れられない。ナイアさんとの熱い夜への期待と欲望ですべてがいっぱいになってしまう。
 紅くきれいな唇が濡れ、俺の耳元で囁く。
「ラート‥‥抱いて‥‥」

 互いの頭を抱き、唇を重ねる。何度も、何度も、何度も。しつこいほどに唇を重ね、ついばみ、舌を絡ませ、唾液を送り合う。俺の舌がナイアさんの長い舌に巻き取られ、しごかれる。お返しにナイアさんの舌を俺の口内に迎えて、唇で優しく愛撫する。互いの吐息が耳をくすぐり、そしてその吐息も熱くなり、時には気怠い声が混じる。それが互いの欲情をあおり、より一層甘く濃いキスを繰り返す。何度も、何度も、何度も――。
 そしてふたりはいつの間にかベッドに倒れ込み、服を脱がせあい、互いの身体をまさぐりあう。時に唇を貪り、時に首筋に口づけをし、甘噛みしながら。ナイアさんの唇が俺の唇から首筋へ、乳首へ、舌の先を身体に這わせながら、下へ下へと滑ってゆく。
「うぁ‥‥っ」
 喉から声が漏れる。
「っく、ナイ‥‥ア‥‥さん‥‥っ!」
 思わず目を閉じてしまう。
 じゅるり、びちゃ、くちゅっ‥‥。
 卑猥な音が響く。ナイアさんがわざと大きな音を立ててしゃぶりたてる。熱くざらついた刺激が俺の肉の棒を責めあげてくる。先の敏感なところから根元まで裏筋を滑ったかと思うと、逆方向へとぬめりが這い上がる。温かい粘膜に飲み込まれたかと思うと、そのままざらついた肉が絡みついてくる。‥‥み、見ちゃだめだ。あのナイアさんの顔を今見たら‥‥。
「んふぅ、はむ‥‥ん。ふふ‥‥そんなに必死に目を閉じなくてもいいじゃない‥‥。ねぇ、見て‥‥あんたの大きいの、しゃぶってるところ‥‥見てよ‥‥ほらぁ‥‥」
 じゅるり。じゅる、じゅぅっ。
 甘ったるい誘惑と、湿った音。熱いぬめり。強く目を閉じても‥‥堪えるだけで精一杯。
「んっ、んう‥‥。見て、ラート‥‥いやらしい顔であんたのを食べてるあたしを、見てよ‥‥ふふふ‥‥」
「ちょっ‥‥そんな‥‥に‥‥くぅ‥‥」
 舌を巻き付け、きゅうっと締め上げたかと思うと亀頭の先から根元まで一気に飲み込む。あまりの刺激に思わず上半身を起こし‥‥見てしまった。
 上目遣いの眼が勝ち誇ったような笑みを浮かべている。紅く艶やかな唇を笑みの形に歪め、俺のモノを食べている。これ以上ないほどおいしそうに。長い舌が自在に蠢き、俺のペニスを巻き締め、舐め上げ、そして淫らな唇がそれを飲み込む。頭全体を使ってそれをしごきあげ、飲み込み、それでいながら瞳が俺を挑発する。眼が、笑ってる。
『ふふ、もう我慢できないでしょ? イってもいいわよ』
 瞳の誘惑がまるで音を伴うかのように聞こえる。っく、み、見るんじゃ‥‥なかった――!
 どくっ! どくっ、どくっ、どくん‥‥!
「んんっ!」
 吹き上がる精液は外に飛び出すことなく、柔らかい粘膜にくわえこまれたまま飲み込まれてゆく。ナイアさんがぢゅうっと吸い上げると強烈な余韻がわき上がり、思わず腰を浮かせてしまう。しばらく肉棒をくわえたままだったナイアさんが顔を上げ、勝ち誇ったような微笑を浮かべると、その唇の端からほんの少し、白く濁った液体がとろりとこぼれた。
「ふふっ、相変わらずたっぷり出るじゃない。じゃあ、今度はあたしを感じさせて――あんっ!」
 いかにナイアさんが相手でも、主導権を取られっぱなしというのも、ね。
 ベッドに押し倒し、もう尖りきっている乳首を軽く噛む。ビクン、と震えが伝わってくる。男の視線を釘付けにする乳房を鷲づかみにして、じっくりとこね回す。気怠げな吐息が徐々に熱を帯び、扇情的な喘ぎが漏れる。右手であそこ、左手でおっぱい、口でもう片方の乳首を愛撫すると、ナイアさんの上半身が波打ち、下半身が巻き付くものを探してうねうねとくねる。形の良い唇は半開きになり、とめどなく淫らな喘ぎを漏らしている。白い指先は俺の頭や背中に絡み付き、潤んだ瞳が快感をせがむ。――そろそろ、かな。

 ナイアさんの痴態を目の前にして、さっき一回出したにもかかわらず、俺のそれはいつの間にか固さを取り戻していた。蛇の下半身を太股で挟むようにして、そして先端を淫らな裂け目にあてがい、ゆっくりと腰を滑らせる。熱くたぎった粘膜がよだれを垂らして俺を迎え入れ、奥へ奥へと誘う。
「ああっ‥‥!!」
 歓喜の序奏。腰を動かすとそれに合わせて淫らな声が溢れる。
「ラート‥‥! いいよ、いい、あはぁっ! すっごい‥‥感じ‥‥る‥‥!」
 激しさよりも密着度を高めてゆっくりと腰を前後させると、眉根を寄せて淫らな喘ぎを紡ぐ。腰を動かすたびに、見事な量感と張りを湛えた乳房が揺れ、俺の目を誘う。それを知ってか知らずか、ナイアさんは自らその乳房を揉みしだく。ほっそりした指の間からはむっちりと乳肉が溢れ、そしてコリコリになった乳首も圧力に反抗して飛び出そうとする。
「自分で、揉んで、感じる、の?」
 息が弾む。
「あはぁっ!! 感じる、感じるの‥‥っ! おっぱい、気持ちよくて‥‥あはぅっ、‥‥あそこも、胸も、ああっ、とける、はぁぅっ‥‥!! ら、ラートっ‥‥! だめ! い、イく、イっく‥‥ぅ!!!」
 絞り出すような喘ぎが高ぶり、爪を立てて俺を強く抱きしめながら腰を反らせ、俺の名を呼んだと思うと――蜜壺の強烈な締め付けとともに、不意にナイアさんがイった。
「‥‥っ! す、すごい、よ‥‥ナイアさん‥‥」
「――はぁっ! はぁ、はぁぅっ‥‥!」
 大きく吐息をつき、肩で息をしながら俺に抱きついたままだ。俺は自分までイかされないように耐えるのが精一杯。まだ前半戦なんだ、二回もイくわけにはいかない。
「あんた‥‥いつから、こんな‥‥に‥‥うまく、なったのよ‥‥はぁっ‥‥」
「毎日鍛えられてるからね」
「はぁん‥‥。んふふ‥‥あたしに感謝しなさいよ‥‥」
「楽しんでるのはナイアさんもでしょ? ‥‥んっ」
 ちゅっ。唇を重ねるだけの軽いキス。一度秘所から引き抜いて、互いに全身をやさしく愛撫する。その愛撫自体は穏やかでも、見つめあい、口づけを交わしあい、互いの性器をまさぐりあっているうちに、急速に気分が盛りあがってくる。
「‥‥」
「‥‥っ」
 くちゅくちゅという音が、無言の二人の間に響く。俺はナイアさんの肉穴をいじり、ナイアさんの白い指は俺の肉棒を巧みにしごく。こういうとき、二人の間にはいつの間にかできたルールがある。
「‥‥っ‥‥ナイアさん‥‥」
「なぁに?」
 ――残念。今日は俺の負けだ。
「我慢‥‥できないよ‥‥」
「ふふ‥‥いいよ、おいで‥‥。あんたの好きな格好で抱かせてあげる」

* * * * *

 ナイアさんにうつぶせになってもらい、その長くしなやかな下半身を肩に背負うようにして、肉棒を熱い秘所へと導く。死角になって見えないけれど、亀頭の先端にはひくひくとおねだりする淫肉の感触。
 ――ぬぷり。
「‥‥ひぅっ!」
 ペニスを半分ほど入れると、ベッドに横向けに突っ伏したナイアさんの顔が甘くこわばる。その表情を楽しみながら、ゆっくりと腰を突き入れる。蠢く肉襞をかき分けながら奥へと突き入れると、それに合わせるかのようにナイアさんの全身がビクンビクンと震える。蛇の下半身まで細かく震えているのが、肩越し、背中越しにわかる。
「‥‥く、‥‥はっ‥‥ぁ」
 ――ずん。
「ああ、あ、あひぃ‥‥っ!」
 肉の棒が奥底へ届くと、必死に我慢していたらしい声が遂に溢れた。
 この声が最高のひとときの合図。
「ナイアさん‥‥今夜も乱れてよ」
「っく‥‥こ‥‥の‥‥ひきょうもの‥‥ああぅっ!! くはっ、おぁぅあああっ!!!」
 唇を食い締めて悔しがるナイアさんを、容赦なく叫ばせる。この体位の時、この時ばかりは、俺がナイアさんを支配できる。狂ったように喘がせるのも、シーツを掴んで悶えさせるのも、そしてイかせるのも、俺がすべてを握っていられる。そのことに気付いたのは、以前ナイアさんが思いつきで下半身を人間型に変化させた時だ。モノの反り返りやカリの与える刺激が、ナイアさんが一番感じるところに直撃するかららしい。
 ――ずん。
「かはっ‥‥!! す‥‥ごい‥‥っ、当たって‥‥る‥‥っ!」
 ずん、ずん、ずんずん、ずん‥‥!
「はぁっ、あひっ‥‥ぃ! くっ、くぁぉ――お、あ、あぉぅうっ!! な、なん‥‥で‥‥よ‥‥っ、あはぁあっ!! なんで、あ、ああ、あたし、が‥‥!」
「何が?」
 ――ズンッ! 言葉と共に奥の奥まで突いてあげる。
「――っひぃっ!!! ひぅっ、なんで、なんであんたに‥‥こ、こんな、に‥‥くぅぅっ――!!」
 声を詰まらせ、ナイアさんがベッドにしがみつく。背筋にじっとりと汗が滲み、ランプの光でてらてらと光っている。不規則な息で喘ぎながら恨み言を吐くナイアさんを、これでもかと言うぐらいに余裕を見せつけて突き上げる。そのたびにナイアさんはよがり狂う。あそこの締め付けも引きずり込むかのような膣(なか)の動きも一層激しくなるけれど、ここでペースを奪われるわけにはいかない。
 本当のことを言うと、ナイアさんは「感じさせられる」のよりも、主導権を握って「感じる」のが好きだ。それを知っているからこそ、俺も俺のペースで責めてあげる。感じさせて、攻め落として、思いきりイかせて、言って欲しいセリフがあるから。だからこそ、簡単にはイかせない。極限まで高めて、それから――。
「――っはぅ‥‥ら、ラー‥‥トっ!! そ、そ‥‥こぉっ、――だ、だめ、もう、あたし‥‥!!」
 がくがくと腕をわななかせながら、必死に快楽の津波をやり過ごそうとしているのがかわいい。俺の体にうねうねと巻き付く下半身も沸騰しているかのように熱くなり、ひっきりなしにうねり、震えている。――もし、何かの弾みでナイアさんが下半身に力を入れてしまったら‥‥窒息する、なんて程度じゃ済まないだろう。体中の骨が砕かれて、きっと俺は人形のように潰されてしまう。もちろん、そんなことにならないように、快感に溺れながらもナイアさんは無意識に気を使ってくれている。でもこうやって激しく責めあげていると、もしもそのタガが外れたら――なんて緊張感も否応なしに高まってくる。そして、自分でもどうかしてると思うけど、その緊張感が一層激しい交わりへと俺を駆り立ててゆく。
「ゆるし‥‥て‥‥!! ‥‥も、もう、限界――っく!! あはぁっ!!」
 眉を寄せ、食いしめた口角からよだれを垂らしながら、ナイアさんが絞り出すように喘ぐ。
「許すって――何が?」
「イ、イかせ‥‥て‥‥!! おね‥‥がい‥‥っ!! っは、ああっ、あはぅっ、んぁああっ!!」
 イく直前の限界まで責めあげられ、ついにナイアさんが降参した。
「じゃ、俺が言って欲しいと思ってること、言ってよ」
「‥‥!! っく、‥‥し、師匠‥‥に‥‥向かっ‥‥て‥‥!!」
「イきたくないの? それに『ベッドの上じゃ師弟は関係ない』っていつも言ってるのはナイアさんでしょ?」
 ぎりぎりのくせに意地を張るナイアさんをいじめる。そして。
「っ、ラー‥‥ト‥‥!! あぁぅっ!! あ、はっ、好き‥‥っ!! 好きよ、あはぁっ――あ、愛してる‥‥!!」
 ――ベッドにしがみつきながら叫ぶ。ついに言わせた。
 イかせてあげるよ、ナイアさん――!!

「っく、だ、だめ、あ、ああ、イく、イく‥‥っ!! ――ら、ラート、あ、あ、あはぁぁああああああぁああっ!!! ――――――っっ!!!!」
 口を愉悦の叫びの形に歪ませて髪を振り乱したかと思うと、絶叫を咽につまらせながら全身を硬直させる。快楽の煮詰まった肉襞が俺の欲望を食い尽くすかのように絞り上げ、熱く狂おしい刺激で焼き尽くし――俺が耐えられたのは、ほんの一瞬だった。

 快感が、破裂した。

「‥‥ぁあはぁっ!! はぁあっ!! あはぅっ! はぁっ、はぁ‥‥はぁ、あ、あぅ‥‥!」
 仰向けにベッドに沈み、ナイアさんが荒い息をつく。ピンクに染まった肌が艶めかしく上下し、激しい快楽の余韻を落ち着かせようとしている。その横に倒れ込むようにして、俺はナイアさんの耳元に囁いた。
「ナイア、さん‥‥。よ、良かった、よ‥‥」
 俺も息が上がってる。
「‥‥ト」
「?」
「ラート‥‥悔しいけど、あんた‥‥すごいよ‥‥」
 最高の賛辞。正直、これ以外で掛け値なしに褒めてもらえるのは料理ぐらいだ。
「だけどね‥‥あたしはあんたの師匠よ‥‥『ベッドの上じゃ師弟じゃない』なんて言っても、イかされっぱなしじゃあたしが収まらないのよね‥‥」
「――はい?」
 ちょっ、ちょっと、まさか、まだやるつもりですか!?
「‥‥ふふ。さあ、あたしはもう大丈夫よ? ふふふ。うっふふふふ‥‥」
 いつもの熱く淫らな目に、なにやら圧倒的な力が宿っている気がする。
「こ‥‥怖いです‥‥」
「若いんだから頑張りなさい。あたし相手に勃たないなんて言ったら承知しないわ‥‥。さっきの最高の快感、あんたにも味わわせてあげる。ふふ、楽しみましょ。明日は臨時休業ね」
「え、ちょっ‥‥! うあっ、く、ナイアさ‥‥ん‥‥!!」
 白い指先が巧みな愛撫で奮い立たせ、精液がたっぷり注がれた秘裂にそれを導く。ナイアさんは俺を押さえ込み、ねっとりと腰を動かすと、挑発的な笑みを浮かべながら甘い喘ぎを漏らしはじめる。
「あ‥‥ん。いいわ、ラート‥‥ステキよ‥‥あぅ、‥‥最高‥‥。だから――ああぅ、もっと‥‥!!」
 再び燃え上がりはじめたナイアさんに圧倒されながら、やっぱりこのひとにはかなわないな、と認識を新たにした。

――翌日は「予定通り」に臨時休業だった、とだけ言っておく。

(終)

弟子シリーズ第4作。話を考えるより先にエロシーンができてしまったという一品。

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